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安倍政権、熊本地震で窮地に。大失敗の初動で見えた総理の悪い兆候

甚大な被害をもたらした熊本地震。当初予定されていた安倍総理の現地入りが中止となるなど混乱が見られますが、メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では、今回の震災は安倍政権の内外政のシナリオにも大打撃を与えたとの分析がなされています。

熊本大地震で安倍政治も大揺れ

熊本大地震は、9月14日21:26の最初のマグニチュード6.5、最大震度7の大きな揺れが実は「前震」にすぎず、それから28時間も経ってからM7.3、最大震度6強の阪神大震災クラスの「本震」が来るという「今までの経験則から外れた」(気象庁)動きを示しており、しかも発生から48時間以内に322回もの強震が広い範囲にわたって連鎖的に起きていて「今後地震活動がどうなっていくか分からない」(同)という不安な状態が続いている。

今のところ、北東に接する阿蘇山の噴火に連動するような兆候はないし、ましてや宮崎県沖合を通る南海トラフの海溝型大地震に影響することはないというのが大方の専門家の意見である。しかし、今回の一連の地震を引き起こした中央構造線沿いの活断層は、北東に向かっては、すでに連動して地震が頻発している大分県の別府を中心とした濃密な層の集中域に繋がっていて、その目と鼻の先の構造線の真上には四国・佐田岬の伊方原発がある。また南西に向かっては、熊本平野から不知火湾に入って非常に複雑に密集し、さらにその先の甑(こしき)海峡にまで繋がっているが、その海峡に直面しているのが川内原発である。川内は運転を休止して落ち着くまで様子を見るべきだと思うが、政府はそう判断していない。

多くは圧死によるとみられる死者はすでに40人を超え、他にも行方不明者が多数いるので、犠牲はさらに広がる可能性がある。家を失って避難している人は20万人以上に達しており、余震の恐怖が続く中でこの方々を救命・救援するのは容易なことではない。何より道路が寸断され、空港は閉鎖され、鉄道の復旧も見込みが立たない中では、緊急車両の通行を確保するのが精一杯で、県外からの支援物資やボランティアの受け入れさえも当面は断らざるを得ない。

試される安倍の指揮官ぶり

この深刻な事態に直面して、安倍が組み立てていた政権運営の構想もまた大揺れに揺れている。まず北海道衆院5区補選を勝って参院選1人区での野党協力態勢に水を差し、あわよくばダブル選挙に持ち込んで衆参両方で与党3分の2議席を確保しようという内政上の野望も、4月28日から欧州各国を歴訪し、帰りにロシアに寄ってプーチン大統領との日露首脳会談で北方領土解決の糸口を掴んで5月26日からの伊勢志摩サミットを盛り上げようという外交上の演出も、すべて狂ってしまう可能性がある。

何よりも第1に、3・11の際の菅直人首相の対応ぶりを、あることないこと取り上げてさんざん嘲笑っていた安倍が、今回は自らの指揮官ぶりを問われることになる。

安倍は15日に官邸で開いた非常災害対策本部の会合で、16日に自ら現地入りして「被害状況を視察し、益城町を中心に被災者の声を直接聞いて対策に生かしたい」と述べ、また「16日は天候悪化が予想されるので、屋外に避難している被災者を15日中に安全な屋内避難所に収容するように」と指示した。ところが、この指示を河野太郎防災担当相を通じて伝えられた蒲島郁夫熊本県知事は「避難所が足りなくて皆さんが外に出ているわけではない。余震が怖くて部屋の中にいられないんだ。現場の気持ちが分かっていない」と不快感を示した。

これが一因となって16日の安倍現地入りは中止となったわけで、最初の意気揚々たる指示でコケるという、これは悪い兆候である。

第2に、17日に予定されていた北海道衆院5区の選挙応援も当然中止となった。自分が乗り込めば大接戦と言われている状況を変えられると本人は張り切っていたというのだが、それどころではなくなった。もっとも周辺や官邸では、直近の北海道新聞や自民党自身による調査で数ポイント程度劣勢にあることが明らかになったので、「首相が乗り込んでおいて負けたりするとまずいなあ」という迷いも生まれていて、むしろ渡りに舟だったという説もある。いずれにせよ、大地震は北海道5区の自民党にはマイナスに作用する。

第3に、TPP協定と関連法案の今国会通過は、会期延長しない限り、ますます難しくなった。黒塗り文書や西川公也TPP特別委員長の「暴露本」問題などで紛糾していた同委員会は、ようやく15日再開したが、冒頭で安倍が熊本の被災状況などを説明しただけで事実上、流会した。未だに実質的な審議に入ることが出来ないでいる衆院で4月中に通過させることができなければ、6月1日の会期末までに参院を通過させることは難しい。

いずれにせよダブル選挙は消えた?

会期延長する場合、ダブル選挙を打つ余地を残すとすれば1週間か2週間である。参議院の改選議員の任期が7月25日までなので、それ以前に参院選を行わなければならないことから、投票日は7月17日か24日に限定される。サミット後にTPPを強行採決して、さらに大型補正予算を通して一気にダブルに突入するというのは、安倍好みの強気策ではある。

しかし第4に、余震が長引いてさらに被害が増えることは確実であり、それが鎮まったとしても、数十万人が苦難の避難生活を続け、住居や道路の復旧もままならないような状況を尻目に、熊本県民ばかりでなく日本国民にとって何の必要性も必然性もない、単に安倍のお遊びにすぎないダブル選挙を強行すれば、「不謹慎呼ばわりされ糾弾されることは目に見えている。

しかも、仮に自民党が北海道で負けて野党が勢いづいて、参院だけでなく衆院でも257小選挙区で選挙協力に踏み込んだ場合、「週刊現代」4月23日号の予測では、自民は65議席を失う大敗で単独過半数さえ割り込んで225議席となるのに対して、民進は74議席を増やして169議席に達する。

もちろん、衆院選での選挙協力は簡単ではなく、民進党内の保守派や連合に根強い抵抗がある。しかし、小沢一郎が志位和夫=共産党委員長との対談(「世界」別冊4月1日号)で言うように、「ともかく子どもでもわかる話です。野党がみんなで力を合わせれば、1人区は勝ちますよ。衆議院の小選挙区も1人区ですから、これも野党が力を合わせたら基本的にとれます。そうしたらいっぺんにひっくり返せる。野党さえ一致協力し、大同団結して選挙に当たることさえできれば、ダブル選挙なんかいつでもどうぞという話です。……この期に及んで共産党が嫌だとか云々と言っている人間は、結局、『共産党と一緒にやるよりは安倍のほうがいい』ということではないか」。

同じ別冊への寄稿で、憲法学者の重鎮=小林節も、確かに安倍は3回の国政選挙で勝ったが「その実態は、選挙制度に助けられて、有権者の20%、投票した者の40%台の得票に支えられて圧倒的多数の議席を獲得した結果にすぎない。だから、野党が協力して統一候補を立てれば、50%に近い得票で政権交代を実現することは十分に可能である」と言い切っている。これが、「15年安保闘争」以後の世間常識だと言って差し支えない。民進党の保守派や連合の反共派がこの常識に従えば、安倍は到底、ダブルに打って出ることはできないし、熊本の後ではなおさらできなくなったのである。

小沢が言うとおり、安保法制は廃止する、今の状況での消費増税には反対する、そしてできればもう1つ原発再稼働に反対するという3点で衆院選でも野党が協力態勢を作り、消費増税ができなくなったというのはアベノミクスが失敗したという意味なのだから内閣総辞職せよしないなら選挙で政権交代してもらう、と迫ればいいのである。本当に、子どもでもわかる話である。

image by: 首相官邸

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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