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リコーが利益9割減。太りすぎた組織は、名門をここまで追い詰める

先日発表された連結決算で、純利益が前年比94.5%減となってしまったリコー。リーマンショック前年まで14年連続となる増収を達成した名門企業に一体何が起こっているのでしょうか。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんがその原因を探るとともに、同社がこの大苦境を乗り切るために早急になすべきマネジメントについて考察しています。

リコー、利益9割減。コピー機売れず、肥大化した組織で生産性が低下

「自己否定から改革を取り組まなければならない」

4月12日発表の中期経営計画についての説明で、4月1日に就任した山下良則社長がそう決意を述べました。リコーはコピー機とデジタルカメラの不振で苦境に立たされています。

リコーは4月28日、2017年3月期(国際会計基準)の連結決算は、売上高が前年比8.2%減の2兆288億円、本業のもうけを示す営業利益が66.9%減の338億円、純利益が94.5%減の34億円と発表しました。大幅な減収減益です。

リコーは2008年のリーマンショックを境に成長が止まっています。2007年度の売上高は2兆2,199億円で、14年連続となる増収を達成しました。しかしその後は停滞しています。それにもかかわらず、組織は肥大化したままでいます。高コスト体質の企業になってしまいました。

「高コスト体質」の象徴といえる人件費を確認します。2012年度は4,388億円でしたが、2015年度には5,124億円にまで膨れ上がっています。

従業員数は肥大化したままです。2007年度末の従業員数は約8万3,000人でしたが、2015年度末では約10万9,000人にまで膨れ上がっています。約2万6,000人も増加しています。危機を感じてか、2016年度の1年間で約3,700人減らしたものの、それでも約10万5,000人もいる状態です。

従業員1人あたりの年売上高は減少しています。2007年度では2,600万円程度ありましたが、2016年度では1,900万円程度にまで落ち込んでいます。両期間の間で会計基準が変わり、為替の影響などもあるため単純比較はできませんが、そういった事情を考慮しても、生産性低下の指摘は免れない状況といえます。

リコーはリーマンショック後、厳しい経営環境に置かれています。一方、14年連続となる増収を達成するなど、大きな成長を見せていたことも事実としてあります。リコーの成長の原動力となったのが、海外を中心とした販売代理店の買収です。積極的な買収で販売網を広げていきました。

例えば2008年10月に、欧米に約400拠点を展開していたIKON社を約1,632億円で買収しました。同社の2008年9月期の連結売上高は約4,167億円で、同期末の連結従業員数は約2万4,000人にもなります。同社の顧客基盤と営業力に期待し、過去最大規模の買収を行いました。

IKON社の買収はタイミングが悪かったといえます。IKON社の買収に合意したのが2008年8月下旬です。リーマン・ブラザーズが破綻したのが翌9月です。

2008年のリーマンショックで状況は一変しました。企業は事務機器のコスト削減に動き、事務機器は売れなくなりました。ビジネス機械・情報システム産業協会によると、2009年の事務機器の総出荷額は前年比26.6%減となる1兆3,434億円で、急速に落ち込んだことがわかります。

リコーの米国事業は2008年度から4年連続で営業赤字に陥っています。その後は黒字に転換したものの、各年の通期の営業利益率は1~3%程度と低水準で推移している状況です。欧州事業でも振るわない状況が続いています。欧米での事業拡大を狙ってIKON社を買収しましたが、現状は投資に見合ったリターンが得られていない状況と言っていいでしょう。

主力のコピー機市場は厳しい状況が続くとみられます。市場の成長は鈍化しています。デジタル化やモノクロ機からカラー機への置き換えの需要は頭打ちの状態です。今後はモバイル機器などの普及でペーパーレス化が加速していくことが予想されるため、コピー機市場はさらなる苦境に立たされそうです。

市場の拡大が見込めないため、サービスの効率化は必須といえます。製品のアップデートや操作支援などを製品上で対応できるような機能を搭載するなど、人手を必要としないサービスを提供することが必要です。それにより、サービスエンジニアやコールセンターのオペレーターの人員を削減し、生産性の向上を実現する必要があります。

リストラも不可欠です。肥大化した組織体制を見直す必要があります。しかし、その実行が危ぶまれます。というのも、2011年度に発表した中期経営計画において、2013年度までに「人員約1万人の削減」を宣言し実行したものの、結局元の水準に戻ってしまったという過去があるからです。2011年に、デジタルカメラを製造販売するペンタックス(従業員数約1,900人)を買収するなどしたため、結局は1,000人にも満たない人数の減少にとどまりました。

しかも今回の決算で、デジタルカメラ事業において約100億円の減損損失を強いられています。一般社団法人カメラ映像機器工業会によると、デジタルカメラの総出荷金額は2008年には2兆1,640億円ありましたが、その後急速に落ち込み、2016年には7,102億円にまで減少しています。デジタルカメラ市場は衰退しているにもかかわらず、リコーはペンタックスを買収しているのです。

リコーはコピー機以外の事業の育成が不可欠な状況です。例えば、商業・産業印刷が有望視されています。壁面装飾やサイネージ、カーラッピング、衣類やインテリアなどへのデザイン印刷、ラベル印刷といった領域での成長が期待できます。特に商業・産業印刷における「デジタル印刷」は開拓の余地が大きい有望市場です。競合も黙ってはいませんが、突破口になる可能性を秘めています。

リコーは大胆なリストラ策と成長市場の開拓が求められています。そうした状況で、4月12日発表の中期経営計画では、「過去のマネジメントとの決別」を宣言しています。今度こそ、目に見える形で結果を示す必要があるといえそうです。

image by: Denis Linine / Shutterstock.com

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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