「事実は小説よりも奇なり」などという言葉がありますが、まさにそれを地で行くよう書籍が話題になっています。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが紹介しているのは、ちょっと信じがたい実体験が綴られた1冊です。
『実録 水漏れマンション殺人事件 』
久川涼子・著 新潮社
久川涼子『実録水漏れマンション殺人事件』を読んだ。マンション居住者はぜひ読むべき本、かもしれない。あまりな出来事の始まりから終わりまで、しっかりレポートされていて、じつに読ませる内容であった。しかも法律の勉強になる。こんな理不尽な目に遭った著者には気の毒だが興味津々である。
- 落水→殺人→巨額の工事費→業者の水増し請求→保険金出し渋り→傷アリ物件の処理→賠償裁判→法律の壁
という流れで、ものすごくリアル。著者が著述業だったからできたレポートである。普通の人なら、パニックの連続でとても記録も記憶もできないだろう。著者はこの難局をじっくり観察し記録する。
それなのにエンターテインメント。「『災難はいつ誰に起きるか分からない』といわれますが、実際に起きちゃったんです。しかも弩級のが。それはもうマンション被害の宝庫、あるいは吹きだまり」なんて帯にあるが、さすが気丈な著者も号泣が止まらない夜があった。とにかく問題な業者がゾロゾロと。
著者は持ち家であるマンション1Fの部屋を貸している。その部屋に事故が起きたからと、マンション管理会社から呼び出しがかかる。駆けつけると部屋は水浸し、真上の部屋からいまも落水中。上の部屋では殺人事件が発生、なぜか水道蛇口が破壊され水が噴出、元栓は閉めたらしいが、1Fへの落水は3日半続く。
なぜ上の部屋の様子を見られないのかというと、警察が占拠中だからだ。それは12日間にわたる。もっとも被害者といえども、その部屋に入る権利がない。不動産会社を介して第三者に部屋を貸していたのだから、大家として引越代や家財道具の損害賠償金など最終的に100万円は飛ぶ。家賃収入もなくなった。
復旧工事にいくらかかるかわからない。管理会社によるとマンションの共有保険は今回の場合、適用されないようだ。事故は不可抗力ではなく、故意の破損(上の部屋のマッドな男が母親を刺し、蛇口を破壊した)だから保険金が出ないという。問題を起こしたのは上階だから、上階の保険で処理するのが普通だ。
ところが、上階は死んだ母親が現金で買ったため保険に入っていないという。血だらけ全裸で走り回っていたというマッドな息子は無職。損害賠償を求めても対応できるのか。不幸中の幸い、著者の住宅金融公庫特約火災保険は水濡れ損害に対応していた。保険金請求には、まず復旧工事の見積もりが必要だ……。
ここまでまだイントロに過ぎない。これから始まる壮絶な日々。優秀な弁護士の助けで、やっと決着がついたのが事件から3年後だった。不可解と理不尽とその他いっぱいの不幸に翻弄される著者を、まったく他人事と思えないわたしだった(100%じゃないけど)。マンションに住むということは、火事や漏水など他人のせいで起きる事故で、とんでもないとばっちりを受ける危険性があることを忘れてはならない。うちの保険はどうなっていたかな~。
編集長 柴田忠男
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