前回、「日本に来た外国人がリアルに買っていく『意外なお土産』」や「外国人の「日本酒」爆買いが止まらない。世界に広がる地元のSAKE」など、外国人旅行客が買っていくモノや海外で人気の意外な日本のモノなどについて紹介してきました。しかし、「モノ」だけにはとどまりまりません。訪日外国人はモノからコト、つまり「体験型」の旅を好む傾向にシフトしてきました。中でも、最近人気のあるのが「温泉」です。
モノ消費からコト消費へ。『体験型』を望む外国人
日本政府観光局によると、2016年の訪日外国人数は 2,403万9千人でした。これは1964年以降、過去最高の記録です。
少し前までは「爆買いする中国人」に代表されるように、モノ消費をする旅行客の姿を目にし、インバウンドによる経済効果が話題となりました。しかし、「爆買いブーム」もひと段落し、いま旅行客は「モノ」から「コト」へシフトしつつあります。
コト消費の中でも、旅行客は日本ならではの体験を求める傾向が多いようです。
2015年に実地された「DBJ・JTBFアジア8地域・訪日外国人旅行者の意向調査(平成27年版)」によると、「行ってみたい日本の観光地イメージ」について調査したところ、最も多かったのが、「温泉」でした。この調査では、「桜」や「富士山」を抑えてトップとなっており、温泉に入りたいという外国人が多くいることがわかりました。
では、具体的にどこの温泉地が人気なのでしょうか?
訪日外国人観光客が殺到する人気温泉地
数多く存在する日本の温泉地の中でも、今、訪日外国人の中で人気の温泉地は、兵庫県豊岡市にある「城崎温泉(きのさきおんせん)」です。2011年から2016年までをみると、ここ6年で城崎温泉周辺に宿泊する外国人の旅行者の数は36倍に伸び、注目の温泉地となっています。
提供:豊岡市役所 大交流課
昨年には、環境省と観光庁が後援を務める温泉総選挙の「インバウンド部門」で1位に選ばれました。これは海外にPRしている温泉地であること、外国人観光客が増えたことなどが評価されました。
この城崎温泉がある兵庫県は年々外国人観光客が増えており、2016年度は149万人で、2年連続で100万人を超えています。2020年まで300万人を目標にしています。その目標に向けて、外国人観光客向けに兵庫県がPRしているのが「ひょうごゴールデンルート」です。このルートというのが、神戸、姫路、城崎(豊岡市)をつなぐ周遊コースです。このコースには、城崎温泉の他にも、2015年にグランドオープンした「姫路城」、神戸牛体験など、食べて、見て、くつろぐ、「体験型」のコースをすすめています。
また、平成28年の1年間の豊岡市の宿泊者数は、44,648 人で前年比約1.3倍となりました。なお、城崎地域で初めて4万人を突破した。
豊岡市訪問外国人数(豊岡市公式サイトより)
外国人に人気の「城崎温泉」の魅力とは?
人気になったきっかけ1:海外有名ガイドブック
城崎温泉はなぜこれほど訪日外国人旅行客に人気なのでしょうか。
今回、城崎温泉のある豊岡市役所 大交流課に外国人をジモトに呼ぶ秘訣を聞いてみました。
まず人気がでた理由の一つには、近年、海外メディアやガイドブック取り上げられたことによって注目され始めたことがきっかけだったようです。
「2007年にガイドブック『ロンリープラネット(Lonely Planet Japan)』 に「Best Onsen Town」として城崎が紹介されました。また、2012年には『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン(Michelin Green Guide Japon)』に城崎が二つ星で紹介されています。それらのガイドブックで城崎を知り、訪れた外国人がSNS等による口コミを広めることで、その家族、友人、知人が訪れるきっかけにつながっていると考えます」(豊岡市役所 大交流課)
外国人観光客の多くが利用している、海外で人気のガイドブックのロンリープラネットで紹介されたあとも、2015年には英紙インディペンデントで「日本の城崎温泉:温泉とズワイガニの町へ旅」といったタイトルで特集が組まれています。
人気になったきっかけ2:市が積極的にPR!英仏版の宿泊サイトで発信
image by:Visit Kinosaki
また、注目すべきは豊岡市が運営する宿泊予約サイト「Visit Kinosaki」。「京都から2.5時間の温泉街」がキャッチフレーズで、英語版とフランス語版があり、宿泊先の予約から城崎温泉の歴史まで情報を発信しています。こちらも訪日外国人観光客数を多く引き寄せるポイントとなったようです。またフェイスブック、ツイッター、インスタグラム、YoutubeといったSNSを通じて城崎温泉の魅力を発信しています。
この他にも、豊岡市は、「海外旅行博への出展」や「アメリカ、オーストラリア、フランスへのレップ(海外情報発信拠点)の設置」など海外活動におけるPRも積極的に行っています。
また、英語対応のスタッフ、無料のWi-Fiサービスなど、外国人向けのおもてなしを充実させています。
人気になったきっかけ3:古き良き日本を体験
こちらの温泉地は約1300年前の奈良時代からの歴史があります。当山の開山上人でもあられる道智上人が千日修行を行った際について湧出したことが城崎温泉のはじまりと言われています。「温泉で傷跡を癒すコウノトリを見た村人が発見した」という言い伝えもあるのだとか。
古い歴史ある温泉街だけに、日本ならではの懐かしい風景を楽しめる場所。私たち日本人にとっても、どこか懐かしい、風情を感じる温泉街ですが、外国人にとっては、とても日本的であり、自分たちの文化にはない神秘性を感じるのではないでしょうか。
また、名物の「七つの外湯」が最大の魅力でしょう。
ご存知の通り、外湯とは公共温泉のこと。宿泊施設をともわない、外湯(そとゆ)とは公共浴場のこと。一説によると、城崎温泉こそが外湯の発祥地だとか。
城崎温泉宿泊者の特典には、すべての湯を無料でまわることができる特典もついています。また、宿泊者以外なら、城崎温泉外湯めぐり券「ゆめぱ」を使えば、宿泊しなくても、大人1,200円、小人600円で1日入りたい放題。
また、浴衣を着用して、町中を歩くことも可能です。日本ならではの体験ということもあり、浴衣選びをする外国人観光客も増えています。
外国人観光客を惹きつける、「七つの外湯」を見ていきましょう。
江戸時代の医師が太鼓判を押した「一の湯」
【画像:豊岡市】
城崎温泉のシンボルとも言える「一の湯」。江戸時代の医師・香川修徳が「天下一の湯」と推薦したと言われています。中でも、洞窟風呂が人気のよう。
城崎温泉のシンボルとも言えます。
豊岡市城崎町湯島415-1
営業時間 7:00~23:00
定休日 水曜日(祝日の場合は営業)
料金 大人600円、小人300円
Tel: 0796-32-2229
▶︎城崎温泉では外国人向けにこんなポスターも。
城崎温泉で掲示されてる外国人向け「温泉の入り方」ポスター
手塚キャラっぽいけど微妙に違う感があるし、コピーライト表示もなしまさかの、田中圭一作? pic.twitter.com/3zbpONMYRK
— たびとぶ@JGP回数修行中 (@tabitobu) 2017年8月2日
江戸時代の村人の癒やしの場「地蔵湯」
城崎温泉の中でもモダンな外観の地蔵湯【画像:豊岡市】
「地蔵尊が泉源から出土した」という伝説がささやかれる「地蔵湯」。江戸時代より村人が疲れを癒やしていた場所として知られています。外観は灯篭を、六角形の窓は玄武洞をイメージされています。7つの外湯の中では、一番モダンな建物と知られています。ジェット風呂や打たせ湯が人気です。
豊岡市城崎町湯島796
営業時間 7:00~23]00
定休日 金曜日(祝日の場合は営業)
料金 大人600円、小人300円
Tel: 0796-32-2228
野天風呂が魅力的「御所の湯」
【画像:豊岡市】
「御所の湯」は、山の緑と滝を見渡せる景色が爽快な野天風呂が特徴。また、大浴場はガラス張り天井なので、開放感あふれます。
【画像:豊岡市】
豊岡市城崎町湯島448-1
営業時間 7:00~23:00
定休日 第1・第3木曜日(祝日の場合は営業)
料金 大人800円、小人400円
Tel: 0796-32-2230
こうのとりが傷を癒した「鴻の湯」
城崎温泉はじまりはここから【画像:豊岡市】
1400年前、こうのとりが足の傷を癒やしたことからこの温泉が発見されたという伝説が言い伝えられています。幸せになれる温泉としても知られているのだとか。
豊岡市城崎町湯島610
営業時間 7:00~23:00
定休日 火曜日(祝日の場合は営業)
料金 大人600円、小人300円
Tel:0796-32-2195
柳の木のもとで発見された「柳湯」
【画像:豊岡市】
柳の木のしたから湧き出たことに由来してつけられた「柳湯」。大正ロマン風の外観が風情を漂わせています。檜が使われているので、木の温かみを感じます。
豊岡市城崎町湯島647
営業時間 15:00~23:00
定休日 木曜日(祝日の場合は営業)
料金: 大人600円、小人300円
Tel: 0796-32-2097
一生一願の湯「まんだら湯」
【画像:豊岡市】
「一生一願の湯」として知られています。養老元(717)年、病に苦しんでいる人のために名湯を見つけたいという道智上人((どうちしょうにん)が、一千日間の修行をしたところ、湧き出たのがこの「まんだら湯」でした。まんだらだけに、外観も個性的ですね。檜造りの露天桶風呂や気泡風呂もあります。
豊岡市城崎町湯島565
営業時間: 15:00~23:00
定休日: 水曜日(祝日の場合は営業)
料金: 大人600円、小人300円
Tel: 0796-32-2194
日本最大の駅舎温泉「さとの湯」
珍しい駅舎温泉【画像:豊岡市】
城崎温泉駅からすぐのところにある「さとの湯」は、日本最大の駅舎温泉です。建物は3階まであり、1階はフロント、2階は大浴場、3階は円山川の景色が眺められる露天風呂。玄関横には足湯もあり。
There are 7 public hot springs in Kinosaki Onsen and we’ve already tried two of them: Satono-yu & Goshono-yu. Amazing http://t.co/OHw2Bid11u
— Mario ¯\_(ツ)_/¯ (@itsa_Mario) 2013年11月14日
「城崎温泉には7つの公共温泉があるんだけど、さとの湯と御所の湯を試してみたよ。素晴らしかった!」
豊岡市城崎町今津290-36
営業時間: 13:00~21:00
定休日: 月曜日(祝日の場合は営業)
料金: 大人800円、小人400円
電話番号: 0796-32-0111
また、城崎温泉に訪れた外国人観光客の声がこちら。
Peace, simplicity, beauty, zen, water, greenery and relaxation in an amazing #onsen in Japan.
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.#japan #japon #kinosaki #kinosak… pic.twitter.com/DXqzLqbZWQ — Lucie Aidart ✈ (@vvagabondages) 2017年8月18日
「平和、シンプリシティ、美しさ、禅、水、緑、安らぎのある素晴らしい日本の温泉。#城崎」
I was on holiday
I went to Japan in 2015, what wonderful people and a beautiful country, especially the hot spas at kinosaki Onsen — Rozroam (@04_Rozroam) 2017年6月6日
「2015年に日本に行ったけど、なんて素晴らしい人々と美しい国。特に城崎温泉は格別」
外国人が感じる城崎の魅力は、観光化されすぎていないところ
日本人の私たちから見ても、7つの外湯めぐりは魅力的ですが、外国人旅行客にとっては温泉の湯はもちろんのこと、その歴史や建物の外観、情緒溢れる町の雰囲気など、エキゾチックな体験を楽しむことができるのではないでしょうか。
外国人の旅行客が増えつつある城崎温泉ですが、豊岡市はもっとたくさんの旅行客に来てもらうために、「コミュニケーション」を促進させることを考えています。先ほどの豊岡市の大交流課に今後の抱負を聞いてみました。
「外国人旅行客へのインタビュー調査等の結果では、良質な口コミが他の旅行客を誘客すること、城崎地域の魅力の一つは観光地化されすぎていない点であること、といった結果が出ております。
また、城崎に来る多くの外国人が流暢でない英語を使う日本人とのコミュニケーションをローカルな体験として楽しんでいるということが分かっています。 城崎固有の文化(外湯体験や浴衣でのそぞろ歩き)と日本人とのふれあい(コミュニケーション)を介在させることで、外国人旅行客の感動体験へとつなげ、良質な口コミの発信を促したいと考えています」
(豊岡市役所 大交流課)
外国人旅行者が増えつつある中、あまりに観光化されすぎても魅力が半減してしまう。だから、城崎らしさを保ちつつも、ふれあいを大切にしたおもてなしをしていく、というのが今後大切なポイントとなりそうです。
温泉大国の日本は数多くの温泉地が点在しています。このほかにも、外国人の客足が増えたという人気の温泉地3つを紹介します。
三宮から30分で便利!有馬温泉(兵庫県)
陶泉 御所坊
2015年に初めて訪日外国人観光客数が100万人を超えた神戸市。外国人旅行客が増えつつある神戸ですが、中でも人気があるのは、灘五郷や異人館、そして、有馬温泉。
国土交通省によると、以前は少なかったのですが、2014年の秋頃からアジアからの外国人旅行者が増加し、2015年は年間を通じて、温泉街に外国人旅行者がみられるようになったそうです。
知名度が高まったことや、三宮から30分、京都から1時間10分、大阪から1時間というアクセスの良さなどで、人気を高める要因かもしれません。
休日出勤の振替を取り、久々に日帰りで有馬温泉。金泉・銀泉にまみれてリフレッシュ! それにしても、温泉街も湯船も外国人だらけ。日本人に出会う方が難しい。 pic.twitter.com/Pd0ml5kgDN
— Mr.かてお (@kateo_mr) 2017年5月24日
3分の1が外国人? 北海道・登別温泉
image by: Shutterstock
鬼とクマがシンボルの北海道・登別にある「登別温泉」。「にっぽんの温泉100選」の総合ランキングに毎回上位にランクインされる日本有数の温泉地として知られています。登別温泉最大の源泉は、支笏洞爺国立公園の特別保護地区に指定されている「地獄谷」。煮えたぎる温泉を地獄に見立てつけられた名前がインパクト大ですね。泉質の種類も9種類。
札幌の中心部から1時間40分で行ける、登別には近年外国人旅行客が増えているそうで、外国人が3分の1を占めるという状態にまでなっているとか。先日も第54回目を迎える「登別地獄まつり」が開催され、多くの観光客が参加しました。
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アメリカの有名誌でも紹介!宝川温泉(群馬県)
富裕層の向けの米国のマガジン「AFARマガジン」が「世界にある夢のような温泉 11選」という記事の中で、世界の有名な温泉とともに取り上げたのは、「宝川温泉」。「日本武尊(やまとたけるのみこと)が武尊山に上り、病に伏せって困っていると、白い鷹が飛び立つのを見つけ、そこへ行ってみると温泉が湧いてきた」という神話を用いて紹介しています。
城崎温泉と同様に宝川温泉も「ロンリープラネット」で「ベストな温泉」として紹介されたことをきっかけに評判が広まりました。
Sporting my #yukata It was hard to leave #takaragawaonsen. It was a great experience. #japan #travel #amazing #escape #awesome #beautiful pic.twitter.com/1AwBhliYBX
— Randy Higa (@RANMAXX) 2017年9月4日
「宝川温泉から離れるのがつらいよ」
以上、外国人旅行客が増えている温泉地を中心に紹介しました。
余談ですが、約10年前、外国人の留学生たちと温泉地へ旅行する機会がありました。その時、あるフランス人の女の子がはじめて「温泉」の存在を知り、「えっ??みんなで裸になってお風呂に入るの!?信じられない!」と恥ずかしそうに顔を赤くしていて驚いていた表情がいまだに忘れられません。
その女の子が顔を赤らめてしまうほど、海外の人、特に欧米人にとっては日本の「温泉」というものはまさに「異文化体験」であったのだと思います。(海外でも温泉はありますが、水着を着用する場所が多いようですね)
そして、時を経て、今、欧米やアジアから温泉に入りに旅行客が訪れます。少し前までは、日本文化独特のものと認識されていた温泉を海外の人が楽しむ時代となりました。それは温泉だけではなく、花見や紅葉なども同じで、日本の文化を体験したい旅行者が確実に増えています。
地方にはまだまだ知られていない「地方だからできる体験」が眠っていることでしょう。これをどのように旅行者に知ってもらい、来てもらうかが、今後重要になってくるのではないでしょうか。
取材協力:豊岡市
文/ジモトのココロ編集部
出典元:ジモトのココロ(ジモココ)