9月10日に発生した「小田急線沿線火災事件」。線路脇にあるボクシングジムの火災で、火が小田急線の車両の屋根に燃え移り、約300人の乗客が避難する騒ぎになりました。ひとつ間違っていたら大惨事になっていたかもしれないこの事件について、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で在米作家の冷泉彰彦さんが、鉄道にも造詣が深い専門家の目線で緊急提言をしています。
小田急線車両火災事件を考える(緊急提言)
東京の私鉄、小田急小田原線の「参宮橋=南新宿」間で、線路脇で火災が起きているにも関わらず、電車が8分間も停車した結果、電車の屋根に延焼したという事故が問題になっています。何で延焼するような場所に停車したのかという最大の問題については、最初は架線が切れて漏電するのを恐れて電源を落としたのかと思いました。ですが、報道によれば、消防の依頼で警察が踏切の緊急警報ボタンを押したのが原因のようです。
では、どうして消防が緊急停止を要請したのかという問題ですが、当初は電車が火災現場に接近するのを止めるための機転という見方も広がっていたのですが、詳しい報道によれば「線路方面から消火活動をしたい」というのが理由であったようです。
これは大変な問題です。まず踏切の緊急警報ボタンというのは、あくまで踏切内の危険を知らせるためのもので、たとえ警察や消防であっても「電車を止めるため」という目的外使用は止めるべきです。
また電車を止めたのは「線路側から消火したかったから」というのですが、そのためには架線からの漏電や感電の事故を防止するための措置が必要です。とにかく電車を止めて線路側から消そうとして、独断で行動したというのは、余りにも乱暴です。
勿論、世界的に見て消防というのは、一刻を争う中で瞬時の判断の必要な仕事であり、その柔軟な判断が萎縮するようではいけません。ですが、勝手に電車を止めるとか、その上で電化区間の線路内に入って消火しようなどというのは、余りにも初歩的な考え違いと思います。以降の事例に活かしていただきたいです。
後は、運転士が火災に早く気づくような仕組みが必要だとか、運転指令所の方にこうした「沿線火災監視」の情報が集まる仕掛けを検討すべきという問題があります。
また、小田急さんの広報対応ですが、真っ黒焦げになった該当車輌の屋根を報道陣に公開して、TVカメラまで入れさせるというのは異常です。ブルーシートかけておいて、口頭で「まだ焦げ臭いが、車内への引火などはなく全く正常」ということを伝えてもらえば十分(事実ですから)であり、やたらに利用者の不安感を煽るのは考えものです。
後は、電車の屋根の難燃性についてですが、基本的に車体と車内は完全に保護されたので「問題はない」のですが、あそこまで「ボウボウ」燃えてしまったということに関しては、検証が必要と思います。仮に、より難燃性を要求するために、屋根の素材を見直すことになった場合は、絶縁性確保を損なわない判断も必要になります。