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【書評】近年まれに見る良書。認知症患者本人が書く本当の認知症

認知症についてあなたはどの程度の知識をお持ちでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、認知症になった方ご本人による「認知症患者のありのままの姿」が記された一冊。柴田さんも「近年まれに見る良書」と絶賛するその内容とは?

認知症になった私が伝えたいこと
佐藤雅彦・著 大月書店

佐藤雅彦『認知症になった私が伝えたいこと』を読んだ。すばらしい。近年まれに見る良書だと断言してしまう。わたしは認知症がこわい。自分が自分でなくなってしまい、恥知らずな言動で周囲の人に迷惑をかけるのではないか、厄介者になるのではないか、そう考えると憂鬱になる。

認知症とは何か、情報としてある程度は知っている。こわい、なりたくない、と思う。身近にそういう人がいないから、リアルには知らない。自分が知っている認知症は、たぶん不正確だという自覚はあった。この本は、認知症になった人が自分で書いている。だからものすごくリアルで、強い説得力がある。

佐藤雅彦さんが、認知症の兆候を感じ始めたころから10年以上にわたって、日々書きためてきた膨大なメモと、講演や取材のために自作した資料と、折々に語った言葉を文字化した原稿をもとに作られた本だ。認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子さんと、編集者の西浩孝さんの完璧なサポートで、佐藤さん自身が考え、表現してきた「認知症の人のありのまま」が成立した。

認知症の人が、考え、記録してきたものだという。にわかには信じがたいが、本人が書くからこそ、こんなにリアルなのだ。未経験者にはとうてい描けないだろう。もちろん、サポーターの力量あっての完成度だが、元がいいから仕上がりもいい。なぜ元がよかったのか。佐藤さんがシステムエンジニアだったから、長くパソコンを使っており、認知症になってもまだ使えたからだ。

認知症の人にとって、記憶障害があることが一番の不便である。昨日のことを覚えていないのは難儀だ。そこでパソコンで日記をつけることにした。パソコンが彼の外付けの記憶装置の働きをしてくれる。ICレコーダーも愛用している。携帯電話やタブレット端末の操作は、認知症になってから教わって覚えた

認知症に関する本や講座がずいぶんあるらしい。しかし、本人の立場からの理解や支援を訴えるものはほとんどないらしい。逆に、それらを通して「認知症はこわい」「認知症になりたくない」といった恐怖心が煽られてしまうらしい。認知症を知らない人による講演や啓発活動は、本当の理解を得られない。本人に聞き、本人の体験世界を知ることが、認知症の理解に一番の近道である。

認知症になった本人が、その体験を書く。認知症を恐れず、前向きに生きていく希望を伝えるには、本人が話すのが一番である。なんという説得力だ。認知症の理解や支援にはなにが必要なのかが見えてくる。この本を読むと、認知症になってもこういう生き方ができるんだ、堂々と暮らしていけるのだと思う。

佐藤さんは言う。

私は、「認知症になったらなにもできなくなる」という偏見をなくしたい。病状は人それぞれで、認知症になってもやれることはたくさんあるのだということを多くの人に知ってもらいたいのです。

家族へ、医師へ、看護・介護者へ、地域の方へ、行政へ、すべての人へ、そして本人へ、宛てたメッセージがすばらしい。認知症を知りたい人、読むべし! 読むべし!

いいぞ、大月書店。いままでガチガチ左翼出版社だと毛嫌いしてきたが、この本に限りw 絶賛するぞ。認知症に対する誤解や偏見をなくし、世の中を変えることが出来る。本当に理解をともなった変革を生み出せる本である。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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