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米中首脳会談、ローマ法王訪米とかぶって全米報道はほぼスルー

国賓として迎え入れたというのに、当のアメリカではほとんど報じられることのなかった習近平氏の訪米。ローマ法王の来米と重なったとはいえ、なぜ世界2大国の首脳会談は「スルー」されたのでしょうか。米国在住の作家・冷泉彰彦さんがメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』でその理由について考察しています。

習近平訪米が「かすむ」、法王来米フィーバーの原因とは?

中国の習近平国家主席の訪米は、国賓待遇であったにも関わらずアメリカメディアではほとんど報じられませんでした。理由としては、バチカンからフランシス法王初の来米を果たし、ワシントンDCからニューヨーク、そしてフィラデルフィアと東部の3都市を回っていったスケジュールと、完全に重なってしまい、メディアの関心が「ローマ法王フィーバー」に集中したからということが大きかったと思います。

では、どうしてローマ法王が圧倒的な差をつけて、習近平主席を「吹き飛ばして」しまったのでしょうか?

背景には、今回の米中会談の性格、位置づけというものがあると思います。一言で言えば、米中首脳会談は一種の「秘密取り引き」のような展開に終わりました。シアトルでの商談大会ということも含めて考えると、今回の首脳会談については、3つの結論と言いますか、成果があったという整理ができます。

1つは、IT企業に象徴されるように、米中は今後も経済のパートナーとして良く言えば「共存共栄」、悪く言えば「相互依存」の関係を続けていくという内外へ向けての宣言になっていたということです。

2つ目としては、南シナ海における膨張政策、あるいはサイバー攻撃などアメリカとして看過できない問題に関して、中国はメンツを維持しつつ喧嘩別れにならない範囲として最低限の「手打ち」をしたという評価が可能です。

3つ目としては、仮に2番目が中国の「譲歩」であるとしたら、その見返りとして、アメリカは中国現体制維持への最低限協力を約束したと判断できるということです。少なくとも経済のソフトランディング、習近平政権による汚職撲滅キャンペーンについては協力するということです。

アメリカのオバマ政権の言っている「中国開かれた社会変革を進めるべき」という主張、一方で習近平主席の言っている「米中2大国お互いの価値観を認めて大国間関係を確立すべき」という主張は、お互いにどう考えても受け入れるわけにはいかないわけで、そんな対立関係の中で、今回の会談については、「良くまとめた」と言えます。

会談後の両首脳の表情は渋かったものの、硬いままのオバマに対して、習近平主席はやや緩んだ表情をしていたのが印象的でした。

一種の「秘密取り引き」のような会談ですが、仮に首脳間で当座の「手打ち」がされたにしても、よく考えれば大変重要なニュースです。ITや航空産業などで、改めて米中の経済の結びつきが確認された一方で、南シナ海やサイバー攻撃問題についても取り上げられたとすれば、これはアメリカの世論としては関心が高いはずです。

ですが、TVやケーブルTVのニュースで扱うにしては、サイバー攻撃の問題も、中国経済のスローダウン懸念の問題にしても「複雑過ぎる」わけです。また「南シナ海」や「汚職摘発」の問題については、アメリカの一般世論にはよく知られていないので、首脳会談の内容を解説するためとはいえ、詳細をメディアが流してしまっては、アメリカの世論の中に「嫌中感情」を作ってしまうかもしれません。ですから、各メディアとしても「法王人気」にかこつけて、米中首脳会談については詳細な報道を「スルー」したということは考えられると思います。

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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