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消え行く街角の本屋さん…青森八戸市は「市営書店」で生き残り術

インターネットの普及で、書籍は電子書籍やAmazonで買うという方も増えましたよね。便利になった一方で、街の小さな書店が本が売れず潰れているのも事実です。そんな厳しい書店業界の新しいモデルケースとして注目を集めているのが、青森県八戸市の「八戸ブックセンター」です。八戸市が経営する書店として、話題になっているこのお店。そこにはネットや大手書店にはできない本好きを呼び込む工夫が施されていました。

 

街角から消える書店 八戸ブックセンターは救世主となれるか

散歩の帰りによって、たまに文庫本を買っていた駅前の書店がなくなっていたときは、ちょっとショックだったものです。いつものように歩いていて、あれ、なんか雰囲気が違うなと思い、そうだ、ここには本屋があったはずと気づいたのでした。

この本屋は駅前だし、結構、人も入っていたし、まあ大丈夫だろうと思っていたのですが、人はいても、私のように新刊をチェックしたり、気になる本が購入に値するかを確認するために寄ったりする人が多かったのかも。なんか申し訳ない気持ちです。人が入っていても買うとは限らない業種の最たるものが書店なのかもしれませんが。

 

実際、街角からは本屋がどんどんなくなっています。1999年から2017年までの18年間で全国の書店の数が半分近くになったことを表すグラフ(日本著者販促センターまとめ)があります。

書店数の推移

 

説明では、この数字には、近辺の小学校や中学校に教科書のみを収めている外商も含まれているので、店舗で実売している書店は9,800件程度ではないかとあります。

 

結果、必死で生き残ろうとする書店は売れる漫画やベストセラーばかりを並べるようになり、本の品揃えがありきたりになります。すると、選ぶ楽しみがなくなり、本好きは足を運ばなくなます。また、お目当ての本はこの本屋にあるはずがないから、駅ビルにある大きな本屋か、ネットで買うことになります。そして、ますます売れなくなる。こうした悪循環で、街角の本屋はなくなっていくのです。

散歩で本屋によるという楽しみはなくなってしまうのでしょうか。

 

 

市営書店「八戸ブックセンター」

そんな状態を憂いた八戸市が2016年12月、市営図書館「八戸ブックセンター」をオープンさせたというニュースを耳にしました。自治体が経営する書店とはどんなものなのか。本ははまちの活性化にどんな効果があるのか。興味津々でした。

それから約1年後の11月、弘前や八戸での仕事があり、これは願ってもない機会と「八戸ブックセンター」を覗いてみることにしました。

書店は八戸駅からバスで15分ほど、町一番の繁華街にある真新しいビルの1階にあります。外観や内装は「蔦屋書店」を思わせるスタイリッシュな趣。どれも自由に手に取って読むことができ、気にいったら購入する仕組みです。

 

お茶を飲みながらの読書でもいいらしく、会計カウンターではコーヒーなどのドリンクも販売しています。ハンモックが吊るされたコーナーもあり、私も近くの本を手に取って、しばし揺れながら読書を楽しみました。

 

ここでは、民間の小さな書店では扱いにくい芸術や自然科学などの専門書を多く揃えていて、本のセレクトや並べ方はやはり普通の書店とは違った感じ。「山に生きる人々」とか「みんなゲームで育った」、「安全をとるか 自由をとるか」など、テーマ別に関連する様々な本が並べられています。だから、棚は高さの違う本で凸凹状態。自宅の本棚のようで、いい感じです。

 

面白いと思ったのは、「ひと棚」という選書コーナー。読書好きな市民や八戸に縁のある人などが、独自のテーマに沿って自薦の本を並べています。読書好きが選ぶとあって、どれもかなりディープな選書。

他に、登録した市民が執筆に利用できる「カンヅメブース」、ブックセンターや市民が企画する読書会が開催できる「読書会ルーム」、作家や作品の展示を行うギャラリーなどのスペースが用意されています。また、八戸が生んだ作家・三浦哲郎の書斎を模した踏み机のあるスペースは読書席として利用可能とか。

つまりは、本好きが集まり、本も買える“本好きたちのコミュニティカフェ”のような場を目指しているように思えました。

 

 

「本のまち八戸」構想

八戸市は「本のまち八戸」構想を打ち出しています。現市長3期目の公約として掲げられ、「人づくり戦略-教育プロジェクト」の一環として推進されてきました。今までも新生児に絵本を贈ったり、小学生に市内書店で本を買える「マイブッククーポン」を配付してきたそうです。「八戸ブックセンター」開業はその総仕上げの位置づけとか。

市立図書館や学校の図書館を充実させたほうがいいという意見もあったそうですが、確かに、自分で選んで買い、お気に入りを自分で所有するという体験はまた別のものという気がします。

 

自治体が直接経営する書店は、離島などを除けば初とのこと。それで思い出すのが、カルチュア・コンビニエンス・クラブが指定管理者として運営する「TSUTAYA図書館」のことです。佐賀県武雄市を第1号として、神奈川県海老名市、宮城県多賀城市などが取り組んでいます。

 

しかし、八戸はそれらの取り組みとは違うように思えます。本のセレクトにしても、専門家だけでなく、本好きな市民、つまり本を手に取る人たちの側に立った運営方法を採ろうとしているように見えます。だから、本棚はきれいに整っていなくてもいい。これは大事な視点でしょう。

 

しかし、書店であるかぎり、利益をあげなくてはなりません。今のように、買っても買わなくても、読むだけでも来てくれればいいという方式で、続けていけるでしょうか。赤字で投入するのは市民の税金です。今後は、その点が大きな課題となるでしょう。

また、このプロジェクトで「本のまち」を自覚した市民が育った暁には、運営を市民に任せるという選択肢もありかなと思います。NPO法人など市民が主体になって運営し、市はそれを支援するという方向もあるのではないでしょうか。

 

ジモトのココロ

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