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犬猫の殺処分ゼロへ、各自治体の「ユニークな訴え」が徐々に効果

日本では毎年、保健所や動物愛護センターなどの行政施設でたくさんの犬や猫が「殺処分」されています。そんな中、近年は動物愛護法の改正により飼い主やペット業者の責任や義務が強化されたことや、「殺処分ゼロ」に力を入れて取り組む自治体が増えたこともあり、年々減少傾向にあるようです。
ジモココでは、ちょうど1年前に「殺処分ゼロ」を目指した自治体の活動などを取り上げました。あれから1年…。全国の犬や猫の殺処分は何か変わったのでしょうか。全国の自治体の取り組みなどを紹介しながら、考えてみたいと思います。

 

日本国内の殺処分数は年々減少。平成28年度は最も少ない約5万6,000頭

平成27年度の「犬・猫の殺処分数」をご存知でしょうか。環境省の調査によると、その数は年間約8万2,900頭でした。

 

そして、最新の平成28年度の殺処分数は、なんと約5万6,000頭。およそ2万7,000頭も減少しています。動物愛護法が制定された昭和49年度の殺処分数は120万件以上でした。その当時とは比べ物にならないくらい減っています。

 

年々減少する殺処分数

 

環境省HPの「全国の犬・猫の殺処分数の推移」のグラフ

 

 

殺処分数減少のキーワードは「引き取り数」の減少と「返還・譲渡数」の増加

その背景として、①引き取り数自体が減少したこと、②返還・譲渡数が増加したこと、の2点が考えられます。

引き取り数は、昭和49年には125万頭にも上りましたが、年々減少し、平成28年度は約11万4,000頭にまで減少。また、返還・譲渡数は、昭和49年には約28万5,000頭でしたが、年々増加し、平成28年度は57万4,000頭にまで増加しました。

驚くべきことに、昭和49年は「犬猫の殺処分率」が約98パーセントと非常に高い割合であり、「犬猫の譲渡数」はわずか約2パーセント。その当時、保健所や動物愛護センターなどに引き取られたほとんどの犬猫は、引き取り手が見つからず、殺処分されてしまっていたことがわかります。

 

これに対し、平成28年度の「犬猫の殺処分率」は約49パーセントにまで減少、「犬猫の譲渡数」は約50パーセントに上昇しました。

環境省HPの「全国の犬・猫の引取り数の推移」のグラフ

 

「全国の犬・猫の返還・譲渡数の推移」のグラフ

 

ここまで殺処分数が減少し、譲渡数が増加した理由は、各自治体やボランティア団体の活動による成果が大きいと考えられます。

2013年に動物愛護法が改正されて、飼い主やペット業者の責任や義務が強化されましたが、近年「殺処分ゼロ」に力を入れて取り組む自治体が増えています。猫と避妊手術に対する補助金がほぼ全国の自治体で交付されていることや、各自治体でのボランティア活動の賜物でもあります。

昨年は「殺処分ゼロ」に取り組む自治体の中で、神奈川県、札幌市、熊本市、広島県神石高原町の取り組みなどを紹介しました。神奈川県では、犬は4年連続、猫は3年連続殺処分ゼロを更新しているなど、継続して頑張っている様子がうかがえます。

 

では、近年、他の自治体では、どんな活動が実施されているのでしょうか?

最近のトレンドは『ふるさと納税』で殺処分を防止

「犬猫の殺処分ゼロ」に向けた新たな取り組みとして注目したいのが、「ふるさと納税」とのコラボレーションです。

そもそも「ふるさと納税」とはなんなのでしょうか? いわゆる「ふるさと納税」とは、「ふるさと寄附金制度」のこと。多くの人が地方のふるさとで生まれ、その自治体から医療や教育等様々な住民サービスを受けて育ち、やがて進学や就職を機に生活の場を都会に移し、そこで納税を行っています。その結果、都会の自治体は税収を得ますが、自分が生まれ育った故郷の自治体には税収が入りません。そこで、「今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた「ふるさと」に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」…そんな問題提起から始まったのが「ふるさと納税」です。都道府県、市区町村への「寄附」を行うと、その寄附金額の一部が所得税及び住民税から控除されることもあり、現在はゆかりのない故郷以外の地方に「ふるさと納税」を行うケースもみられます。

 

そんな「ふるさと納税」を活用し、「犬猫の殺処分ゼロ」を目指している自治体があります。
神戸市は、神戸市に本社を持つ猫好きが集まる部活動『フェリシモ猫部』と提携し、「ふるさとKOBE寄附金(ふるさと納税)」に新たな返礼品を提供しています。

10,000円以上寄附いただいた人には『みにゃとキットカット10箱セット』が返礼品

神戸市は、平成29年度に全国初の「人と猫との共生に関する条例」を制定。この条例のPRキャラクターである「みにゃと」の「ニャシュマロ(猫型マシュマロ)」などのグッズなど、様々なアイテムをふるさと納税の返礼品として提供しています。

ふるさと納税に寄せられた寄附金は、保護猫のミルクボランティアや、野良猫の繁殖防止活動など、神戸市の犬猫の殺処分を減らす取り組みの推進に活用されるそうです。

『フェリシモ猫部』公式サイト

 

 

 

また、名古屋市でもふるさと納税を活用した取り組みが話題となっています。

名古屋市では「犬猫サポート寄附金」を子猫のミルク、えさ、ペットシーツや薬品の購入費用や譲渡ボランティアへの支援物資の資金を得ており、犬の殺処分ゼロを達成することができたそうです。名古屋市はこの状態を維持すること、また猫の殺処分ゼロも目指しています
寄付の方法はこちらの名古屋市公式HPをご覧ください。

 

 

参考サイト:名古屋市公式HP

 

クラウドファンディングも活用!

2011年度に犬・猫の殺処分数が全国ワースト1位を記録した広島県では、昨年4月からは「殺処分ゼロ」を維持しています。その背景には、広島県神石高原町に本部を構えるNPO法人のピースウィンズ・ジャパン(PWJ)が運営する「ピースワンコ・ジャパン」プロジェクトの存在があります。

 

広島県内のすべての殺処分対象の犬を引き取っている「ピースワンコ・ジャパン」が運営する施設には、現在、約1,700頭もの犬が保護されており、昨年から3倍近くに増えているそうです。その資金は寄付金などもありますが、「ふるさと納税」を活用した資金調達も行っています。

 

自治体契約数等で日本最大のふるさと納税総合サイト『ふるさとチョイス』では、使途を明確にして資金調達をする「ガバメントクラウドファンディング」が行われています。このふるさと納税を活用したクラウドファンディングで、なんと5億円もの資金調達を達成したそうです。

最終目標金額は2017年12月31日までに10億円。クラウドファンディングを活用したふるさと納税を用いた、全く新しい「殺処分ゼロ」アプローチに注目が集まっています。

 

ふるさと納税のページはこちら

参考サイト

 

「制度」により「殺処分ゼロ」の基礎を築く

このほかにも、自治体ごとに「制度」を設けるとこにより、飼い主に自覚をもってもらい、捨て犬捨て猫を減らし、「殺処分ゼロ」を根本から目指す取り組みも行われています。

 

福岡市は「犬猫の殺処分ゼロ」に向け、来春である平成30年度から、市独自の基準をクリアしたペットショップなど犬猫販売事業者の優良認定制度を始めます。福岡市内の殺処分は減少傾向にある一方、捨て猫捨て犬が後を絶たない現状を解決するために、認定店舗を通じて飼い主に自覚を持ってもらうことが狙いです。

 

また、沖縄県・うるま市の沖縄5島では、「公益財団法人どうぶつ基金」の主催により、350匹に無料の猫の不妊手術を実施。

image by: PR TIMES

猫が多い島として知られる伊計島、宮城島、平安座島、浜比嘉島、藪地島の5島では、ネコの増えすぎによる糞尿や鳴き声が問題になっていましたが、殺処分を必要としない、不妊手術を行うことで、「ネコも人も幸せに共存する島」としての一歩を踏み出しました。

image by: PR TIMES

 

image by: PR TIMES

 

また、先日より、沖縄県の北谷町と那覇市では、「自販機でゴクッと募金」という取り組みをスタートし、自販機を設置。売り上げの一部はペットリボン基金に募金されるという仕組みです。犬や猫を引き取り保護や避妊手術を行う愛護団体に寄付されます。

 

望まない妊娠を避ける「不妊手術」を行うことも、重要な手立てです。捨てなければならないような状況に追い込まれる前に、生まれないように処置を施すこともひとつの手立てではないかと思います。特に猫は繁殖力が高いうえ、家や外を行き来する飼い猫も多く、野良猫と接触する機会もあり、妊娠しやすい環境となってしまいます。

 

全国のほぼすべての自治体で、「猫の不妊手術」に対して助成金制度が設けられています。不妊手術の一部(数千円~半額など)について補助を受けることが出来ます。また、自治体によっては飼い猫だけではなく野良猫の不妊手術も助成を受けることが出来ます。もし不妊手術について費用面で悩んでいるようでしたら、ぜひお住いの自治体のホームページなどを検索したり、電話で問い合わせてみてはいかがでしょうか?

 

全国のネコの避妊手術助成一覧

 

殺処分ゼロを目指して。これからの課題とは

近年の日本国内における「犬猫の殺処分ゼロ」に対する取り組みをご紹介しました。全国のボランティア団体そして自治体の取り組みが活性化することにより、殺処分数は減少の一途を辿っています。たくさんの方が血と汗を流して努力してきた賜物ではないでしょうか。

これからの課題として、①ボランティアに頼る制度の見直し、②犬猫以外の動物も殺処分ゼロに、この2点を考えました。

自治体だけでは対応に限界があり、譲渡先を探すボランティア団体などの努力によって、ここまで殺処分数が減少したのではないかと考えます。しかしながら「ボランティア」を続けながら仕事や家庭と両立をするのは並大抵の労力ではありません。このまま「ボランティア」という無料奉仕に頼っているばかりではなく、「仕事」として対策に取り組むことができればと思います。

 

また、犬猫以外のペットについては、まだまだ注目度が低いように感じています。ペットの多様化により、鳥や爬虫類、両生類など、様々な生き物がペットとして飼育されています。想定より大きく成長してしまった、長年生きてしまい飼い続けられない…そんな犬猫以外の動物たちにもスポットをあてる日が来ているのではないでしょうか。

 

課題は挙げればキリがありませんが、今後も「殺処分ゼロ」を目指した様々な取り組みが活性化され、日本国内の犬猫の「殺処分ゼロ」が達成されることを切に願っています。

 

 

ジモトのココロ

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