歳を重ねると、誰もが「心細い」と感じることが多くなるもの。まして、病気で入院しても「全然平気!」という高齢者はほとんどいないのではないでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では著者で健康社会学者の河合薫さんが、「心のケア」の大切さを数字で証明した米国ハーバード大学公衆衛生大学院による、衝撃の調査結果を紹介しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年1月11日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
女性医師が患者の死亡率を下げる?
「女性医師が患者の死亡率を下げる」という結果を得た研究論文が、先日公表されました。掲載されたのはJAMA Internal Medicine誌(オンライン版)。
調査結果は、ワシントンポスト、ウォールストリートジャーナル、CNN、ハーバードビジネスレビューなど、多くのメディアでも取り上げられました。
※原文タイトル※
Comparison of Hospital Mortality and Readmission Rates for Medicare
Patients Treated by Male vs Female Physicians
調査を行ったのは、米国ハーバード大学公衆衛生大学院です。
2011~2014年にアメリカの急性期病院に入院した65歳以上の高齢者およそ130万のデータを分析し、女性医師が担当すると「30日以内の死亡率や再入院率」が低くなる傾向があることがわかったというのです。
具体的には女性医師だと「30日以内の死亡率が4%、再入院率は5%下がる」という結果です。
で、こういった結果が出ると「でも~、それって~女の医師が単に症状の軽い患者を診てるケースが多かったからじゃないの~?」って意見が出る。
そこでこの調査では、
- 男性医師と女性医師の診療している患者の重症度を同レベルにする
- 同じ病院で働いている男性医師と女性医師を比較する
などの補正を行い(統計的な手法)、男女差の可能性を排除。
さらには
- 入院患者の診療しかしない内科医である“ホスピタリスト”のデータを用いた分析も行い、調査の信頼性を高めました
ちなみに「ホスピタリスト」とは、1990年代に生まれた新しい診療科です。
ここでは「入院患者の診療」しかしません。日本では入院すると、外来の人に混じって医師の診察を受けますよね? アメリカではこれが医師の過重労働を招くとともに、患者にとっても負の側面が多いことから、「ホスピタリスト」が誕生しました。
ホスピタリストが「入院患者」を診るのに対し、プライマリケア医は「外来患者」を担当します。
ホスピタリストは一般的にシフト勤務をしているため、患者が具合が悪くなり病院に運ばれたときに、たまたまシフト勤務中である医師がその患者の担当医となります。
そのためホスピタリストは自分の患者を選ぶことができず、患者も自分の担当医(ホスピタリスト)を選ぶことができません。
つまり、
「この患者は重症だから、Aさん(女性)では難しいだろう。Bくん(男性)に担当してもらおう」とか、「女性の医者では不安です。男性の医者を主治医にしてください!」といった“女性軽視”が行われないので、男女差を払拭できると研究チームは考え、分析に加えたのです。
とまぁ、詳しくは原文を読んでねってことなんですけど(すみません。英語なのでおヒマなときプラス英語勉強しよ~ってときに是非……苦笑)、この結果は日本でも参考にする価値が十分にある報告です。
なんせ女性医師が担当すると、全米で32,000人の死亡を減らせる計算になる。
日本の場合に換算すると約1万人!
1万人も人たちの命が助かる可能性があるのです。
ただし、この調査では「なぜ、女性医師が患者の死亡率を下げるのか?」という点は明らかにされていません。
しかしながら、先行研究で「女性医師は男性医師に比べて、臨床ガイドラインを順守し、患者の立場に立ってコミュニケーションを取る」ことが報告されています。
ハーバード大学院の調査チームも、「先行研究で明らかになっている男性医師と女性医師の間での診療パターンの違いが、患者の予後の差につながった可能性が高い」との見解を示しています。
死亡率とは似て非なるものではありますが、近い人との質のいいコミュニケーションが余命を伸ばす可能性があることは、健康社会学の分野でも解明されているのです。
それだけではありません。個人的な経験からも、これはかなり納得できる結果なのです。
個人的な話になりますが、一昨年旅立った私の父親は「お医者さま」の言葉を何よりも頼りにしていました。
「○○先生から運動していいって言われた!」「○○先生が“血液検査の結果も良好!”って言ってた」「○○先生から“順調ですね!”って言われた」などなど、入院中も通院しているときも、父は医師の言葉に勇気をもらっていた。
そのつまり、なんというか、やっぱり患者にとっても家族にとっても、お医者さんって全てで。先生の何気ない言葉や表情に一喜一憂する。
医師というのは医療現場が考えている以上に、患者や家族にとって大きな存在で。「残された命」に、光を与えてくれる存在なのです。
先の研究は「患者の立場にたってコミュニケーションを取る」ことが、患者の死亡率に影響する可能性を示唆した極めて重要な研究であると共に、女性医師の活躍の場を広げる意義あるもの。
日本ではこのような医療政策学に関する質の高い研究も乏しいし、エビデンスに基づく政策はあまり取り入れられていません。
超高齢化社会が待ち受けている日本だからこそ、米国を見習い、学術研究を政策に生かすべきです。
などまだまだ書きたいとはあるのですが、長くなりそうなので今回はこれくらいでやめておきます。
今後も興味深い研究結果が出た時には、随時とりあげますのでお楽しみに。
image by: Shutterstock
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年1月11日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
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『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年1月11日号)より一部抜粋