最近、北朝鮮関連の報道が鳴りをひそめていますが、昨年のいまごろは北朝鮮の漁船が相次いで日本海側に漂着し、世の中を騒がせていたことを覚えていますでしょうか。北朝鮮研究の第一人者が発行するメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、日本海が荒れ始めると北朝鮮漁船の漂着は避けられない面もあるものの、昨年と今年では、漂着の背景に少し違いがあると指摘しています。木造船が大量に北海道へ漂着している今、必見の内容です。
体制護持と保身が約束され金正恩が注力するコト
例年の北朝鮮ならば、この時期は各地の協同農場で繰り広げられる、秋の収穫報告の分配の集いが新聞紙上を賑わすのだが、そのようなニュースも消えてから久しい。
今はアメリカの中間選挙の行方に世界の注目が集まっており、北朝鮮も選挙の結果を固唾(かたず)をのんで待っているところだろう。韓国の文在寅大統領と政権与党の対北融和迎合姿勢は卑屈なほどの印象を与えているが、このような状況はしばらく続きそうだ。日本のお茶の間のテレビにたびたび出ていた「北朝鮮問題の専門家」たちの顔もしばらく拝んでいない。
先月韓国に行って、ローソク派のデモならぬ、太極旗・星条旗グループのところに行って、いろいろ文在寅政権の行く末や北朝鮮問題についての情報を入手してきた。文政権の経済政策の失敗は日増しに深刻度を増しているようで、国民の不満のはけ口を常套手段の「日本たたき」に向けている。一方の北朝鮮の目立ちたがり屋の金正恩も今のところ出番がない。
今この原稿を書いているところに、「北陸朝日放送(テレビ)」から、連絡があり、日本海側に北朝鮮の鋼鉄製の母船が現れ、その写真を撮ってきたので分析して欲しいとのことだった。北朝鮮漁船の出没は聞いており、あとは例年のごとく、日本海側の海岸にいつ漂着・漂流し、物議を醸し出すようになるのかということだった。
金正恩はトランプとの会談で「体制の護持と自らの命の保身が約束された」ので、今では安心して国内での現地指導に力を入れている。夫人の李雪主を同行して、新義州の化粧品工場を現地指導して、化粧品の出来栄えを見て喜悦しているニュースもあるが、日本海側の水産加工工場に行っては、「もっと魚を獲れ、取った魚にもっと付加価値をつけて、おいしくて栄養のあるものを作れ」と叱咤激励している。
水産品の加工工場といっても、「塩辛製造工場」が主である。塩辛は保存も効いて、栄養価もあり、何よりも運搬もしやすい。軍隊への納入品としてはもっとも喜ばれるものである。
北朝鮮の漁船が日本海岸に漂着するのは、スパイを浸透させるためではない。金正恩が2013年以降、「魚を獲れ」と厳命したのに、漁獲量が以前と同じような状況であったら、金正恩は現地指導で「お前らは私の言うことが分からないのか」と、幹部連中の首が飛ぶのは間違いない。
幸いなことに、燃料不足の問題は、核・ミサイル関係の部門への石油類の配分が減って、水産部門や民生部門にも回ってくるようになったので、燃料不足による漂流事態の発生などということは少なくなったが、肝心のエンジン類は旧態依然の「中国製の中古のエンジン類」である。
今は日本海はさほど荒れていないが、これからが正念場である。このニュースをこれからも追っていくが、昨年末から今年にかけての北朝鮮漁船が日本海側で起こした漂着、窃盗騒ぎなどは北朝鮮では一切報じられていないようだ。私の故郷である秋田県・由利本荘市の海岸に昨年11月23日の夜に現れた8人の漁船員(皆生存者で亡くなった人間はいなかった)の処遇・処理の問題はいまだに解明されていない。
彼ら8人は日本で拘束中に受けた日本側の待遇・対応に感謝しているはずだが、北朝鮮では反対のことを言っているのだろう。彼らが、日本で受けた待遇が忘れられず、再び、大和堆を目指しておんぼろな船に乗ってくることはないだろうが、ともかく、今は「大和堆に行ってイカを獲ってこい」の至上命令を果たすために、日本海岸の清津などの港はイカ釣り漁船であふれているはずだ。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)
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