「スター・ウォーズ」といえばSF映画の金字塔の1つに数えられますが、そんな作品を日本に初めて紹介した方の著書を、『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが取り上げています。書籍名は『SF映画の冒険』。書名どおり宇宙空間を旅する如く綴られた熱い1冊です。
『SF映画の冒険』
石上三登志 著・新潮社
石上三登志『SF映画の冒険』を読んでいる。30年以上も前の新潮文庫。1977年スター・ウォーズ」公開時にロスの劇場に行って見た人。日本で初めて活字になった「スター・ウォーズ」鑑賞記を「週刊プレイボーイ」に書いた人。日本で「スター・ウォーズ」が公開されたのは1978年。その10年後、SF映画時代の始まりに立ち会い、それ以降の重要なSF映画を評論した本がこれだ。
圧倒的に面白い映画とは、いつの時代でも単純明快な、しかし映像的な“驚き”に満ちた作品ばかりだったはずだ。だが、それがあり過ぎるとマニアは喜ぶがおおかたは馬鹿にした。そこをアメリカの若い映画人たちが再認識し、突然居直りだしたのが、宇宙最強モンスター映画「エイリアン」(1979)に至る、まさに始まったばかりのSF映画大奔流である、と見立てて喜ぶのが著者である。
「この『エイリアン』はSF映画では本格的にはたぶんはじめての、非地球的空間デザインを徹底してやってのけ、それだけでもう、本当の映画ファンはおそらく感動してしまうはずなのだ」。ブリザード吹き荒れる怪惑星の地表に、まるで巨大な生物の死骸の如く聳え立つエイリアンの異様な大宇宙船、その内部は巨大生物の胎内のごとく非地球的で、モンスター登場以前にもう圧倒的だ。
そこから出てきたのが宇宙最強モンスター(どういう比較をしたんだと問いたいが)たる異生物で、こいつが地球の貨物輸送宇宙船ノストロモ号の内部にまで侵入し、船内は恐怖と絶望のパニックとなる。サスペンスとスリルとショックのつるべうちだからすさまじい。宇宙船内は化け物屋敷未来版に変貌、外は暗黒の大宇宙空間だから、観客は乗員とともに逃げ場なし、絶体絶命……。
確かにそんな映画であったなあと、ちょうどうまい具合に図書館のAV棚にあった「エイリアン」を借りて見た。何年ぶりだろう。ALIENのタイトルの出方が素敵だ。宇宙船の外観も内部も、いま見ても違和感がない(CRTモニター群を除いて)。7人の搭乗員の中には科学者&技術者と思えない風体の黒人とその相棒がいる。女性が二人、片方がヒロインの航海士・通信士のリプリーである。
船内でくわえタバコしている奴がいる。指揮系統が甘いような気がする。あまり表情を変えない、科学主任のアッシュが変にリードする。船外調査から戻った三人に異変を感じたリプリーが入船を拒むが、アッシュがエアロックを開ける。エイリアンの導入だ。エイリアンの幼体の死骸を船外に捨てるのを拒否する。会社の意向を盾に抵抗する彼は、会社が送り込んだアンドロイドだった。
会社はアッシュに極秘の特別指令を出していた。航路変更、異星生物を調査、標本を採集せよ、生体標本の持ち帰りを最優先、乗員等は場合により放棄してよい、という非情。アッシュは破壊され、残った三人のうちリプリー以外はエイリアンに殺される。脱出艇のリプリーは本船を切り離し、エイリアンごと自爆させた。というストーリーは分かりやすかった。全然怖くなかった……。
公開時のキャッチコピーは「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない」だった。だめだ、こりゃ。最初に見た時は怖くて、感動したことは覚えている。スレたSFマニアになった老人は、その後のシリーズも見たがほとんど感心していない。『SF映画の冒険』を読むと、もう一度見てみようと思う。石上三登志、本名・今村昭、電通の制作マンで「レナウン」イエイエがとくに有名。わたしも編集者時代に何度もTVCMに関する原稿をいただいた。
編集長 柴田忠男
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