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【書評】侵略される前に日本はバラバラ。こんなにヤバい国民投票

アメリカ大統領選挙で心理分析を用いた広告が使われたことなどが大きな話題となりましたが、今後私たちは、より巧妙化するサイバー戦略によってつくられたポピュリズムとどう対峙していけばいいのでしょうか。そんな問題に真正面から向き合った1冊を、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』編集長の柴田忠男さんがレビューしています。

デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義
福田直子 著・集英社

福田直子『デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義』を読んだ。ウソを混ぜこんだプロパガンダや、個人の不安に直接訴える宣伝など、巧妙なサイバー戦略によってつくられたポピュリズムに我々はどう抗うのか、ドイツ在住の著者が欧米での徹底取材から、デジタル時代の民主主義を考える。

アメリカ大統領選で心理分析を用いた広告が使われた」というツイートを目にした集英社の若手編集者が、東京から1万キロも離れたドイツの著者にこの件を伝え、トントン拍子に本の企画に発展したのだという。アナログ時代には考えられないことが起きたのだ。ネットがもたらすポピュリズムの洪水に、世界はどう変わっていくのか。国民投票が起きそうな日本ではどうなるのか。

ドイツには国民投票がない。第一次世界大戦後に制定された「最も民主的」とされたワイマール憲法が、ナチス政権を成立させたからだ。未曾有の惨禍をもたらしたナチスを生んだ元凶は、プロパガンダを利用した直接民主制国民投票などがあったということを、第二次世界大戦後に作られたドイツ基本法の制定者は見逃さない。新憲法は徹底した間接民主主義に書き替えられた。

国民投票は直接民主制の一つとして、いかにも民意を反映するかのように見えるが、賛否のどちらかで白黒を決めるやり方は、事前に行われるキャンペーンでプロパガンダが連発され国民が煽動される危険性を孕む。ましてや、ウソや偽ニュースが瞬時に拡散されるデジタル時代において、世論が恣意的に操作される危険性が高い。それを抑止する意味でも、多くの国で間接民主制をとる。

ポピュリズムの本質は「大衆迎合主義」では説明できず、他者の異論を認めない反多元主義」にあり、民主主義と真っ向から対立する。三権分立と権力の分離、民意を守りながら、さまざまな機関がチェックし合い、バランスを保とうとするのが民主主義である。ポピュリストは、たんに制度、体制を批判するだけでなく、自分たちだけが人民を代表していると主張する排外主義者である。

間接民主制においては、急進的、排外的法案が可決されることは簡単ではない。直接民主制の国民投票でいざ可決されてしまったことは、たとえ投票率が低く少数票であったとしても国民が決めたこと」として、議会のチェックバランス機能を超越したところで踏襲されてしまう。日本にもその危機が迫る。

日本政府は憲法改正で戦争放棄をやめ、他国からの侵略に対し防衛のため戦いやすくするという方向転換を目指す。重要な過程の一つが国民投票で、「国民投票によっておそらく日本も分断される」と著者は指摘する。そもそも日本は有事に戦えるのか。また、賛成にしろ反対にしろ、民意のお墨付きをもらっことになり、後戻りできなくなる。他国の侵略を受ける前に日本はバラバラだ。

……ということがメインの本ではない。欧米のデジタル・ポピュリズムの現状を詳しく伝える。いまはまだアナログ世代とデジタルネイティブ世代が共存している。あと、一、二世代が過ぎれば、完全にアナログ世代がいなくなる。そのとき、デジタルネイティブ世代の住む世界はどうなるのだろうか。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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