「経営」という言葉は始終耳にしますが、では「経営とは何か」と問われたら、正解を答えることができるでしょうか。今回の無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』では著者の梅本泰則さんが、そんな「経営」について深く掘り下げています。
経営戦略策定のポイント
あなたは「経営」という言葉がいつ出来たかご存知でしょうか。どうやら、この言葉は紀元前8世紀の中国最古の詩集『詩経』に出てきたのが最初のようです。そこには「これを経し、これを営す」という言葉があります。
これは建物を建てるときの初めの作業を表しているとのこと。つまり、「経」は建物の中心に杭を立て縄をめぐらすこと、そして、「営」は建物の大きさを決める作業のことです。中心となる考え方や事柄を定めて、その範囲や規模を決めるという「現代の経営」にも通じていますね。
『十八史略』にも、唐の時代の記述の中に、「四方を経営せんと欲せば…」と出てきますから、もうこの時代には「経営」という言葉は一般的になっていたのでしょう。日本でも、平安時代から使われているそうです。そして、明治時代になって、「マネジメント」という言葉に「経営」があてられたのではないかと推測します。
それはともかく、「経営とは?」と尋ねられたら、何と答えられるでしょうか。その捉え方によって、いろいろな答えが出てきます。
- 会社の利益を出すこと
- 事業を運営して大きくすること
- 会社を続けること
- 顧客のニーズに応えること
どれも正解です。そして、私はこのように考えています。
- 時流に適応し、事業を継続させること
特に、「時流に適応すること」が重要ではないでしょうか。そのためには必要なことがあります。それは、経営戦略を立てることです。これこそ、中国の古典にある「これを経し、これを営す」に当たります。つまり、経営戦略を立てることが、「経営の基本」だと思うのです。では、経営戦略を立てるときのポイントは何でしょうか。
経営戦略を立てる
それは、順序立てて戦略を考えていくことです。その順序は次のようになります。
- 会社の方向性を明確にする(理念の構築)
- 会社の目指すところを決める(目標の設定)
- 社会、市場、業界、競合相手の変化を分析する(外部環境分析)
- 会社の強みと弱みを洗い出す(内部環境分析)
- 事業のドメインを決める
- 事業の基本戦略を決める(マーケティングミックス)
- 売上・利益などの数値を計画する(計数計画)
それぞれの詳しい説明は省きますが、この中で一番重要なのはどの項目でしょうか。言うまでもなく、それは「理念の構築」です。では、その次に重要なのは何でしょう。それは「事業ドメインの決定」です。
「事業ドメイン」って、聞きなれない言葉ですね。簡単に言えば、「誰に、何を、どうやって提供するか」ということです。この事業ドメインの三つの要素が決まることで、その次の「基本戦略」がうまく立てられます。
そこで、マクドナルド(「マ」と略)とモスバーガー(「モ」と略)の事業ドメインを見てみましょう。この二社の事業ドメインが全く違うことが分かります。
●誰に
マ:10代の若者から小さい子供を持つ夫婦
モ:大人の年齢層
●何を
マ:早く、安く食べたいというニーズ
モ:ゆっくり、おいしく食べたいというニーズ
●どうやって
マ:駅前の一等地に出店、店内の作業マニュアル化
モ:少し奥まった二等地に出店、注文後手作りで
明らかに違っていますね。事業ドメインが違えば、お互いに違った戦略を組むことが出来ます。ですから、同じハンバーガーを販売していても、お互いの事業が成り立つのです。これで、事業ドメインが重要だということがおわかりでしょう。
そして、もう一つ、事業ドメインの重要性を示す事例があります。
事業ドメインの変更
それは、老舗の大手家具店の事例です。この会社は、経営者が交代した時に、事業ドメインを変えてしまいました。その新旧のドメインを比較してみましょう。
●誰に
旧:高所得者層
新:ファミリー層
●何を
旧:厳選された高級家具
新:ファッショナブルで値ごろ感のある家具
●どうやって
旧:きめ細かい接客サービスで
新:気軽に見て回れるセルフ販売で
新旧で、明らかに違った店になっています。その結果、この家具店はピンチに陥ったのです。どうしてでしょうか。
おそらく、「理念」は変えていないはずです。そして、事業ドメインを変えるために、外部環境分析と内部環境分析を行ったに違いありません。しかし、事業ドメインを変えるということは、その次の「基本戦略」も変えることになります。つまり、「マーケティングミックス」を変更しなければなりません。
「マーケティングミックス」とは、「商品戦略」「価格戦略」「流通戦略」「プロモーション戦略」のことです。これだけの戦略が一度に変わると、どうなるでしょう。現場は混乱します。今までの社員の頭の中を変えなければいけません。大変な作業ではないかと思うのです。
おそらく、頭の中が変わっていたのは、交代した経営者だけなのだと思います。事業ドメインを変えたからと言って、簡単に社員が変わるわけではありません。ここに大きな誤算が生じました。
おわかりでしょうか。それほど、事業ドメインは重要なものです。あなたのお店も、事業ドメインをいい加減に扱わないようにしましょう。
■今日のツボ■
- 経営とは、時流に適応し、事業を継続させることである
- 経営戦略は順序立てて考えていくのが良い
- 経営戦略で特に重要なのは、理念の構築と事業ドメインである
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