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思い通りにならない人生でも、人が逞しく美しく生きていける理由

一般人はもちろん、どんな成功者も大金持ちも、自分の欲するものや一番好きなものだけに囲まれ、したいことだけして生きていくことはできません。すべての人間が、なんらかの妥協やら、経済的均衡を図るために「代用品」を利用していると、メルマガ『8人ばなし』の著者・山崎勝義さんは言います。そしてその「代用品」こそが、その人間を雄弁に物語ると、人生についての考察を深めています。

代用品のこと

ままならぬ世の中である。生き方もまるっきり自由という訳にはいかない。それでも、どうだろうか、人間はそれなりに逞しく美しく生きていると言っていいのではないか。

そうそう思い通りにいく筈などないと分かっている人生において、そんな生き方が可能なのは我々が「代用品」というものを知るからである。

実際、例えば新橋辺りで働くサラリーマンにこんな質問をぶつけてみたらどうだろうか。「今の仕事は自分が一番やりたかったことですか?」おそらくほとんどの人が「いいえ」と答えるのではないだろうか。

しかし逆に「今の仕事は嫌いですか?」「一刻も早く今の仕事をやめたいですか?」などと聞き直すと、これにもおそらく大半の人が「いいえ」と答えるであろう。彼らは(勿論、我々も)、一番ではない「代用品」の仕事で生きているのである。

とは言え、仕事に関してはやむを得ないところである。誰もがひたすらに一番だけを求めたら、そこら中失業者だらけになってしまい社会自体が成り立たない。

その意味において「代用品」とは、内面的な妥協点というよりは、経済学的な均衡点と言った方が相応しいのかもしれない。

この、一番ばかりを求めないという態度は、社会を成り立たせる上で重要なだけではない。個人においては精神的安定をもたらすのである。「代用品」とは、言い換えれば自分に許容された範囲内で自由意志に基づき選択した何かのことなのである。

完全ではなくてもそこに自由意志がある以上、この「代用品」は「substitute」というよりも寧ろ「alternative」といった方がいいのかもしれない。唐突過ぎて幾分極端に聞こえるかもしれないが、この「代用品(=alternative)」なしには人は寸時も生きられないのである。これは世に言うところの成功者・失敗者の別なく必要不可欠なものである。

因みに、この「代用品」の最大公約数的表現として社会的に認知されたものが所謂「趣味」である。そういった趣味の一つとして一般的に知られるもの以外にも「代用品」はたくさんある。それこそ人の数だけあると言っても過言ではない。

衝動買いが他人の眼差しの「代用品」かもしれない。スウィーツのドカ食いがぬくもりの「代用品」かもしれない。セックスが愛の「代用品」かもしれない。敢えて言う。高級車も宇宙旅行もたかが何かの「代用品」に過ぎない。前にも言った通り、これには成功者・失敗者の別はない。酒が何かの「代用品」なら、高級酒か安酒の違いがあるくらいである。

こういった「代用品」の数々が、人間を幸福にするものなのかどうかは正直分からない。それでも眼前の不幸を吹き飛ばしたり、一時的に忘れさせたりするくらいの力はあるに違いない。それ故にこの「代用品」は趣味の域を超え、しばしば悪癖化するのである。

人は哀しい生き物なのであろう。それでも、いや、それだから「代用品」を求め続けるのである。改めて自分の周りの「代用品」を数えてみてもらいたい。その「代用品」の数々が何よりも雄弁に自分を物語っていはしないか。もしそうなら、一見哀しいこの逆説こそが人生の本質なのかもしれない。

image by: Vasyl Shulga, shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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