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ユリ・ゲラー「EU離脱を超能力で止める宣言」はトンデモじゃない

世界的に注目を集めている英国のEU離脱問題について、かつてスプーン曲げなどで日本に超能力ブームを巻き起こしたユリ・ゲラー氏が「EU離脱を超能力で止める」と声明を発表し話題になっています。これについて、このニュースを笑い話にして片付けてはいけないと警鐘を鳴らしているのが、人気有名ブログ「きっこのブログ」の著者にして、メルマガ『きっこのメルマガ』を創刊したばかりの「きっこ」さん。きっこさんが英語で書かれた全文を読み解いた内容について、メルマガ記事を一部抜粋した「チョイ見せ」でご紹介します。

ユリ・ゲラーさん記事をトンデモニュースだと勘違いする日本人

英国は今、EU離脱問題で大騒ぎになっていますが、3月24日付の時事通信が次の記事を配信しました。皆さんは、この記事を読んでみて、どのような印象を受けたでしょうか?

「ユリ・ゲラーさん、EU離脱を超能力で止めると宣言」(2019年3月24日)

【ロンドン時事】スプーン曲げで有名な自称「超能力者」のユリ・ゲラーさんが、英国の欧州連合(EU)離脱を超能力で止めると宣言した。
英EU離脱はさまざまな政治的力学が働く中で行き詰まっているが、「超能力」で英国が進む方向を曲げられるかに関心が集まっている。ゲラーさんは22日、
フェイスブックの公式アカウントにメイ首相への公開書簡を投稿。その中で「ほとんどの英国人がEU離脱を望んでいない、と心霊的に非常に強く感じる」と訴え、
「あなたが英国をEU離脱に導くのを私は許可しない。私が超能力でそれを止める」と表明した。ゲラーさんはイスラエル生まれだが、英国のメイ首相の選挙区内に住んでいたのが縁で、20年以上にわたって首相と交友があるという。メイ氏の首相就任も「予言した」と主張している。ゲラーさんの投稿に対しては多くのコメントが寄せられ、「もう既に議員の多くは折れ曲がり転向している」などと指摘する声も上がっている。【時事通信社】

時事通信が配信したこの記事を、そのままニュアンス通りに読んだとしたら、この記事の本意を正確に受け取ることができた人は少数だったと思います。
そして、大半の人は、面白おかしい海外の「トンデモ記事」のひとつのように感じたと思います。それは「自称超能力者」という表現を始め「心霊的に非常に強く感じる」や「予言した」など、この記事を書いた記者自身が超能力など存在しないという立場から書かれたような記事だからです。そして、この記事に書かれた内容を鵜呑みにした人たちは「まだユリ・ゲラーはこんなことをやっていたのか」という結論に達し、この記事に関する思考を停止してしまうのです。

でも、本当にそれでいいのでしょうか?

さすがに、実際にユリ・ゲラーに会いに行って真相を訪ねることなどできませんが、少なくともユリ・ゲラーの発言の原文を読み、実際にどのようなことを言っているのかを確認するぐらいなら、日本にいてもインターネットが使える環境であれば簡単にできます。そこで、あたしは、ユリ・ゲラーのことを調べた上で、彼の公式フェイスブックに掲載されていた原文を読んでみました。すると、日本では「あの人は今」的になっていたユリ・ゲラーですが、日本のテレビなどに出なくなってから世界各国で超能力によって活躍して少なくとも20億円以上の資産を築いているセレブだったことが分かりました。

そして、今回の問題のコメントは、ソ連時代の副大臣や米国のCIAの長官ら米国の上院外交官らと仲良く並んでいる画像テレサメイ首相と仲良く並んでいる画像などを添えたとても長いコメントだったのです。時事通信が記事で取り上げたのは「ほとんどの英国人がEU離脱を望んでいない、と心霊的に非常に強く感じる」「あなた(メイ首相)が英国をEU離脱に導くのを私は許可しない。私が超能力でそれを止める」という、わずか2行だけのコメントでしたが、実際のコメントは、その数十倍もあるものでした。以下、22日にユリ・ゲラーが自身の公式フェイスブックで公開したメイ首相宛ての「公開書簡」の全文をきっこ訳で紹介します。

『テレサ・メイへの公開書簡』

私の愛するテレサ、あなたが私たちの首相になるまで、私たちは21年以上にわたって交友を続けて来ました。あなたの選挙区内にあったソニングの私の家にも、
あなたは訪ねて来てくれましたね。あなたが首相になる3年前、私はあなたにウィンストン・チャーチルのスプーンを見せましたが、その時、私はあなたの勝利を予測しました。私はジェレミー・コービン(労働党の党首)がダウニング街10番地(首相官邸がある場所)の鍵を手にできないと確信していました。それは、彼がそこに住むことができないようにするために、私があらゆる可能性を消して来たからです。そして、あなたは首相になりました。

また、一般的な世論がヒラリー・クリントンの当選を予想していた時も、私はドナルド・トランプが米国の第45代大統領になるだろうと予測しました。

こうした私の能力は、米国のCIA、英国のMI5、そして、イスラエルのMossadによって検証されています。CIAは「この実験期間におけるゲラーの成功の結果として、彼が彼の超常的な知覚能力を説得力のある明白な方法で実証したと考える」と結論付けました。これは簡単に検証できますので、CIAの公式ウェブサイトを見てください。

私は世界中の多くの高官に影響を与えました。ある時には、当時の上院外交委員会委員長のクレイボーン・ペル上院議員が、ソ連の最高核交渉担当者であるユーリ・ウォロンツォフの心を砲撃し、彼にテレパシー的に影響を与えて核兵器削減条約に署名させることに成功しました。

さて、ここからがあなたへの公開書簡の要点についてです。
私は、ほとんどの英国人がブレグジット(EU離脱)を望んでいないことを、心理的に、そして非常に強く感じています。私はあなたをとても愛していますが、しかし私はあなたがイギリスをブレグジットに導くことを許しません。私があなたを賞賛している以上、私はテレパシーであなたにブレグジットをやめさせます。そして、それを実行する能力が私にはあると信じています。

しかし、私がこうした抜本的な行動をとるのは最終手段であって、あなたにまだ自力でブレグジットをやめるチャンスがある間は、私はあなたに対してこのプロセスを止めるように訴え続けます。私は現在イスラエルに住んでいますが、私はまだ英国市民であり、国と私が愛するようになった英国の人々に対して、非常に情熱的なものを感じているからです。

多くのエネルギーと愛を込めて

ユリ

‥‥これが、ユリ・ゲラーがメイ首相に宛てた「公開書簡」の全文を訳したものです。これを読んで、あなたはどう感じたでしょうか?最初に挙げた時事通信の記事の「自称超能力者」という表現は、「超能力」という未解明なものを断定的に書くことができないための方便なので仕方ないとしても、「ほとんどの英国人がEU離脱を望んでいない、と心霊的に非常に強く感じる」という和訳は、あたしから見ると「意図的なニュアンスを感じました。何故なら、この分部の原文は以下のものだからです。

「I feel psychically and very strongly that most British people do not want Brexit.」

時事通信の担当記者は、この冒頭の「I feel psychically and very strongly」を「心霊的に非常に強く感じる」と訳したようですが、「feel psychically」は「心理的に感じると訳すのが一般的です。日本でも良く使われる「Mentally(メンタリー)」は「精神的」という意味ですが、これに心理的な要素がプラスされたのが「psychically(サイチカリー)」なのです。「psychology(サイコロジー)」は「心理学」なので、「psychically」は基本的には「心理的に」と訳すことが多いですが、文脈が「メンタリー寄り」の場合には「精神的に」と訳す場合もあります。

もちろん「心霊的に」という訳も間違いではありませんが、この全文を読んだ上で何の先入観も持たずに解釈すると、ユリ・ゲラーは何かの超常的な儀式でも行なって「ほとんどの英国人がブレグジットを望んでいない」と言っているわけではありません。連日の英国内のデモの様子など、自分の愛する英国の人々の日々の行動を見て、多くの英国人の知り合いと話し、その上で客観的にほとんどの英国人がブレグジットを望んでいないと感じたと言っているのです。そして、そうであれば、あえて読者に、うさん臭い特定のイメージを植え付ける「心霊的に」という訳など使わずに、普通に心理的にと訳すのが報道メディアとしての姿勢ではないかと思うのです。

記事の後半の「メイ氏の首相就任も「予言した」と主張している」という一文にしても、原文は「I predicted your victory」ですから、直訳すれば「私はあなたの勝利を予測しました」となります。「predicted」には「予測」だけでなく「予言」という意味もありますので、これも間違いではありませんが、日本人の読者が受け取るイメージとしては、「予言」と「予測」では雲泥の差があります。こうしてユリ・ゲラーが書いた原文と今回の時事通信の記事とを比較すると、もちろん、時事通信は誤訳はしていませんが、複数の訳の中から意図的にうさん臭い訳ばかりを選択し読者に特定のイメージを与えようとしているのではないかと危惧してしまいました。

たとえば、ユリ・ゲラーがブレグジットを止めるために宇宙の彼方からUFOの大群を呼び寄せるとか言い出したのなら、メイ首相の当選についても「予言」という言葉を使って「怪しげな記事」として表現しても構わないと思います。しかし、今回の公開書簡の内容は極めて真面目なものなのですから、報道に関わる人たちに求められるのは、面白おかしい記事を書くことではなく、英国のEU離脱という日本にも大きな影響のある世界的な大問題について、より原文のニュアンスを壊さずに、より正確に伝えることなのではないでしょうか?

こうした日本のメディアによる意図的な和訳は、現在の安倍政権が始まってからヤタラと多くなって来ました。あたしは、海外の報道を和訳した日本のメディアの記事を目にするたびに、必ず原典に当たり、自分で英文の記事を読んで日本の報道と比較するようになりました。すると、日米首脳会談後に安倍晋三が日本国内向けに言っていることとトランプがアメリカ国内向けに言っていることが正反対だったり日露首脳会談後に安倍晋三が日本国内向けに言っていることとプーチンがロシア国内向けに言っていることが正反対だったりと、各国の首脳たちが自分の支持率のことしか考えていない現状が良く分かるようになりました。

image by: D-VISIONS, shutterstock.com

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