今後の日本は少子高齢化がますます進み、年金制度など社会保障が立ち行かなくなる…。メディアや世間を騒がすそんな「不安」を全否定するのは、元財務官僚であり経済学者の高橋洋一氏。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊:デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、高橋氏が人口減少危機論は日本社会に危険をもたらさないとする理由を綴った一冊をレビューしています。
偏屈BOOK案内:『未来年表 人口減少危機論のウソ』
高橋洋一 著/扶桑社
世間で騒がれているのが「少子高齢化で人口減少時代に突入するから日本は大変なことになる」という虚構である。2017年6月に出版された河合雅司『未来の年表』が45万部の大ベストセラーになり、類似本がいくつも出た。元ネタは国立社会保障・人口問題研究所による「日本の人口は2065年に約8,800万人にまで減少する一方で高齢者の割合は4割近くに上昇する」という推計である。
「人口減少危機論=人口増加幸福論」なるものを支持する「世間」とは、主に地方公共団体の関係者だと著者は見ている。人口減が進んで自治体が合併するとポストが減る。リストラで職場を失うかもしれない。自己保身的な危機感から人口減少危機論を支持する。約274万人いる彼らと、その家族を含めて1,000万人近くの関係者がいる。天下りした元公務員を含めればもっと増える。
人口減を煽るのはコメンテーターとかいう輩で、何でも人口減が原因と言っておけば済む。誰も傷つかない方便である。出生率は確かに低下している。その要因はまだ正確には解明できていない。本当の危機とは「想定外」の事態であり、人口問題についてはいまのところ「想定内」にとどまる。「未来の年表」にあるような問題点のほとんどは「特に問題はない」の一言で片付いてしまう。
どこどこの地方で人口増があるといった話題はほとんどまやかしだ。その成功事例が東京でも同じ効果を期待できるわけがない。政府は「人口減少は大きな問題ではない」と考えている。そもそも子育て支援やコストなど金銭面から少子化を論じたところで、頓珍漢な議論にしかならない。政府は「働き方改革」「子育て安心プラン」などで、出生率低下に歯止めをかけようとしている。
だがそれは(人口減少を不安視している)国民の要望に応えるという、政治的な意味で取り組んでいるに過ぎない。性行為の結果である出生を、政府がコントロールできるわけがない。子供を産ませる政策と、生後の子育て政策はまったく別物である。出生率を増やすのに最も効果的と考えられているのは、人工妊娠中絶の禁止・抑制であるが、日本では決してそんな政策はとらない。
政府は一応「出生率1.8」を掲げてはいるが本気ではないし、その必要もない。国民の幸せ=人口の増加ではない。実は人口減少危機論はたいした話ではないし、それ自体が何となく雰囲気で書かれているではないか。この本では、人口減少は大騒ぎするほどの問題ではない、という見方が正しいことを逆説的に検証する。
「まあ人口は減るだろうが、出生率もこれからほとんど横ばいだろうから、社会保障制度の設計に支障は何もない」というのが著者の答えだ。移民政策などによって無理やり人口を増やす必要もない。政府が移民受け入れに本腰を入れた、などと煽る人も増えてきたが、移民が願わしいと思った人がそう叫んでいるに過ぎない。安倍首相も移民は望ましいものではないと考えているはずだ。
人口減少は日本社会に危機をもたらさない。人口減少が経済に与える影響と、年金制度に与える影響はたいしたことはない。地方分権さえ進めれば各地方自治体も創意工夫で強くなり、生き残っていける。財務省やマスコミによる、日本財政は危機であるとのしつこい宣伝を信じてはいけない。ところで、「しょうしか」と入れると「笑止か」が出るわたしのMacはふざけた奴だ。皮肉を好む主人に迎合している。
編集長 柴田忠男
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