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これも日本の責任か?韓国が政治家の不正を徹底的に糾弾する理由

日本の比ではないと言われる、韓国政界の次期大臣候補などに対する聴聞会の執拗な身辺調査。先日掲載の「韓国は国内問題でも大揺れ。大臣候補のエリートが犯した『不正』」で紹介したヂョ・グク氏に対しても、大小問わず膨大な不正が「発掘」され続けています。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴31年の日本人著者が、こうしたスパルタ調査と日韓の歴史との関係性について考察しています。

不正をあばくパワー

韓国は国内問題でも大揺れ。大臣候補のエリートが犯した『不正』」ではヂョ・グクという人物の不正のせいで、「No安部」、不買運動が下火(というよりトーンダウン)になっていると書いた。ヂョ・グク氏は娘の不正報道はフェイクだと言っている。だからはやく聴聞会(チョンムンフェ)を開いてほしいと。そこで己の家庭の無実を公明正大に述べるのだと。

この人がどうなろうと筆者のかかわるところは何もないが、はたして野党らの徹底した追及の手から逃れられるのか。書いている筆者が心配になってくるほどだ。
なぜか。人の不正を暴くことにおいてはこちらの人はこれ以上やれないほどの徹底さがあるため。

日本はどうだろうか。なんとか大臣の任命のときに、国会で一人一人聴聞会ってやるんだろうか(筆者の記憶では、やってないはずだけれど)。この部分、日本と韓国と大きくちがう点だ。

韓国の場合、青瓦台からある候補があがると、野党らはその人物について徹底的に調査にはいる。前回書いたようになんとか大臣だけじゃなくて、検察庁長官などもこの聴聞会の対象である。聴聞会に呼ばれると、あることないこと、全て暴かれるので、韓国では、長官になれる人はいない、といったジョークがときどきささやかれるほど。あの徹底した調査に遭ったら、不正や誤魔化しなどのホコリが出てこない人間は一人もいないだろうと思われるからだ。

おもな不正は、前回書いたような、自分の子どもたちを論文の著者リストに入れることなどからはじまって、土地の不正買収(情報を前もって不正に知って買いしめる)、マンションの不正購入学歴詐称論文改竄や論文の捏造、などなど。
その他、筆者も知らないことがたくさんあって、筆者の頭で理解しているだけのことをいちおう例としてあげたのがこれらだ。

日本の大臣たちも、こうした不正のない人間はいないと思う。誰だってたたけばほこりは出てくるのが相場だ。しかし、日本では一応たたくことはあるけれど、韓国みたいに徹底していないから、任命されたら、野党らの「ちぇっ」というくらいの反応はありながらも、大体はその通りにことが運んでいくのではないだろうか

一方、こちら韓国。一人の人間を俎上に載せて調査に入ると、それはものすごいシビアでスパルタ。徹底的。本人も知らないような不正が出てきたりもするくらいだ。この、徹底的に調べ上げるという態度はどこから来るのだろうか。その源泉が他の国とちがうのは、おそらく、密偵や親日派暴きなどにその淵源があると筆者は考えている。

密偵とは何か。韓国で使われるこの単語は、日帝時代(1910年から1945年までの日本の植民地時代)に遡る。韓国の地に土足で入ってきた日本が、やり放題のことをした時代。その時代に、日本の側のスパイとなって、独立運動を主導するような人物たちの情報を秘密裏に日本に教えていた人間(韓国人)のことである。もちろん、日本が大金をはたいて飼いならしていた連中である。日本からの独立運動をした人たちは数千、数万、数十万という数字だと思うが、おもだった人間は、数百といった単位だったのではないだろうか。

今年は韓国が日本に主権を奪われて、上海のほうに臨時政府を樹立してちょうど100年目にあたるので、テレビでも毎日「独立の義士」たちの話が1分から5分くらいの絵として流されている。コマーシャルのないKBSで1日に数回の割合で、独立の義士の話が流れている。ここに出てくる人は、今年末までの1年間に数十人という単位になると思われる。

こういった人々(独立の義士ほとんどが日本警察憲兵によって捉えられ獄死を遂げるのが一般的だった。もちろん、最後まで(というのは1945年8月15日までということ)捕まらずに生き延びた人もいる。が、大部分の独立の義士たちは捕まっている。密偵ゆえのことであろう。側近として仕える部下の中に必ずといってよいほど、密偵がうごめいていたそうである。

また親日派(チンイルパ)。これも日帝時代に、日本のやることに賛同して協力的で協調的な行動をとった人たちだ。日本から見ればもちろん「いい人」になるわけだけれど、韓国から見ればおぞましい人となるわけだ。

そして現在、当時密偵だった人を暴く作業とチンイルパだった人を暴くことが韓国の一大事業となっている。おもにこの作業は、ノムヒョンのときから表立って進められてきていて、現在もなお進行形である。当時密偵で、今も生きている人も例外的にはいるかもしれないが、だいたいは、その子孫たちがターゲットになるわけである。ときどき、国立墓地(クンニプミョージ)に、堂々と墓碑が立てられていたのだけれど、実はチンイルパだったということが判明してしまい急遽墓地から撤去されるという出来事、事件などもニュースに流れる。

国立墓地は日本で言えばさしずめ靖国神社に相当しようか。戦争で犠牲になった人たちがここに行けることになっている。今でも軍隊にいって、何らかの事故でなくなっても、国立墓地にいくことになっている。国立墓地は、韓国の聖地であるゆえここにチンイルパやその子孫が眠ることは絶対の禁なのである。当時の記録を一つ一つあたって、この人は確かに密偵だったとか、チンイルパだったと証拠とともに明らかにすることって、想像したらすぐわかるけれど容易くできることではない。というより、ほとんど不可能に近い作業じゃないのかと筆者には思われるくらいだ。なのに一生懸命にやっている。こちらの人たちは。

それくらいにして、あとは水に流そうよという発想は日本の発想かもしれない。こちらでは、それくらいにして、という考え自体、ないといっていい。特にこの密偵およびチンイルパに関することとなると。あくまでも、何年何十年何百年かかっても暴くべきはあばく、というのがカンナムスタイルならぬ韓国スタイルだ。

この伝統というか習慣が色濃く残っているために、聴聞会などでの調査は、他の国では考えられないくらい徹底したものとなっているのではないのか。それが筆者の見立てである。

この間も、韓国の人なら全員が愛する韓国の国歌「愛国歌(エーグッカ)」があるのだけれど、その作曲家がチンイルパだったというニュースがいっとき流れていた。たしか今年の初め頃だったと記憶する。そのときは、すぐにでも国歌を変えなければならないという気流であった。しかしいつのまにかその話はなくなり、今もあの「愛国歌」を皆が歌っている。フェイクニュースだったのか、あるいはあまりにも「愛国歌」の浸透度が大きいためいまさら変えられないと多くの国民が考えているのか。ことの真相はわからない

が、一つだけ言えることは、密偵およびチンイルパ暴きという作業は想像を絶するほどのエナジーおよび金が消耗されているということ。これをやっている間は、おもしろくて生産的で、みんながわくわくするような光り輝くものって、生まれてこないのではないかと筆者は思っている。

もちろん筆者のこの見立てがまちがっているかもしれない。でも、このことのゆえ、意識がいつも負の方向にいってしまっているということだけは、動かしがたい事実だと思うのだ。

image by: SBYUNGSUK KO / Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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