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日本人には仰天の基準。NYの不動産情報の「ビフォー・アフター」

昨年12月、マンハッタンの繁華街にあるビルの外壁が剥がれ、落下物が通行人を直撃し死亡させる事故が起こりました。ニューヨークでは、在住者だけでなく旅行者も注意すべきと訴えるのは、メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者でNY在住20年、『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さんです。高橋さんは、NYの不動産情報の「ビフォー・アフター」が表している驚きの基準を紹介し、数多くある建築から100年以上のビルのオーナーが修繕に積極的ではない「この街ならでは」の事情も明かしています。

日本人が知らないNYの不動産事情

NYの高層ビルから落下物、直撃の女性死亡 タイムズスクエア付近:時事ドットコム2019年12月18日07時06分

とにかくニューヨーク、特にマンハッタンは建物が古いです。最先端の街!というイメージは間違ってはいないいけれど、インフラはかなりの時代錯誤。結構、ボロボロの建物だらけです。それを、ニューヨーク大好き女子のブログとかでは「新しいモノと古いモノが共存する街。歴史を大切にするのもニューヨーカーの素敵なところ♪」とか、書いてそうですが、違います。まず前提として、歴史と言われるほどの歴史は、この街には、いや、この国にはありません。伝統なき国だからこそ、文化的にも、政治的にも、経済的にも、ここまで革新的な進歩を遂げた。

なにより「歴史を大切にするから、老朽化するエレベーターまでほおっておく」なんて理屈は通用しません。特にアイコン的な歴史的建造物なら、その理屈もわからなくはないのですが、なんの変哲もない、従来のアパートメントビルで人が死ぬかもしれない事故を引き起こす可能性のある建物の老朽化は、結構、この街の深刻な問題になっています。ビルの外壁の一部が落下する、なんて、子供を持つ親からすると「歴史の前に補修しろよ」と叫びたくなる。

実際、記事中にもあるように、そのビルは1910年台に建てられている。100年以上前の「遺物」です。僕自身、会社も自宅も、最初に契約する際、いろいろと書類に目を通したのですが、どちらにも詳細欄に、「After」とか「Before」という文字が書かれていました。この、ビフォー、アフターは何を示しているかというと、「第1次世界大戦」のことだそうです。つまり、この建物は「World War I」の「前に」建てられたか、「後に」建てられたか。そこが基準になっている。もうやめてくれよって感じです。そのくらい、この街の不動産は、大昔の頃から生き残っている。

うちの編集部も「before」の建物。1910年台に建てられたビルです。日本から来たお客様は、1階のロビーから、エレベーター、編集部に続く廊下を通る際「クラッシックで格好いいーー!映画で見た事ある感じぃー♪」と喜んでくれますが、帰りのエレベーター内で「ギギギギイーー」という謎の金属音が聞こえたあたりでビビり始めます。

「これ、落ちないですよね」と聞く人も少なからずいて、だいたいがいい加減なニューヨーカーたち、うちのビルのメンテナンススタッフを信用していない僕は、「さぁ…どうでしょ」と答えるようにしています。「またぁ、またぁ、冗談キツい」と笑う日本からのお客さんに、心の中で半分本気です、と答えて微笑み返すようにしています。

驚愕のNY不動産事情

エレベーターが落ちなくとも、他の心配もあります。当時の建築で使われていた、今となっては使用すること自体が違法の素材が使われていないとは言い切ない。例えば、アスベストとか。日本では残骸が残っていることも社会問題になるはず。人体に影響があるかどうかなど、思いもしなかった時代の建物で僕たちは日々生活をしています。日本の人がその外観で憧れても、日々、利用している現地のニューヨーカーには、すぐにでも改善すべき問題が山積みになっているのが、こちらの不動産事情です。

では、なぜ、補修しないのか。そこには、予算の関係も、建物の土壌の関係も、市の開発問題も、いろいろな原因が複雑に絡み合います。でも、最大の理由は、結局は、ここが「ニューヨーク」だから、だと僕は思っています。結局、いつの時代になっても、世界中から人が集まってくる。昨日も、今日も、明日もやってくる。慢性人間飽和状態のこの街は、物価と家賃のインフレの歯止めが効きません。売り手市場か、買い手市場かと言われると、この街の大家さんは、いつだって、買い手市場の担い手、強気のネゴシエーター。次から次へと人がくるのに、お金を使って、わざわざ補修工事なんてしないのだと思います。法律的にひっかかりさえしなければ。

世界中から人を惹きつける、この街の隠された、負の遺産な部分かもしれません。脅かすわけじゃなく。旅行で来た際は、エレベーター、気をつけて。気をつけようがないけれど。

image by: Shutterstock

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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