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アパレルのデジタルトランスフォーメーションはどうあるべきか?

コロナ禍のなかでも出社する人の理由に「押印が必要」という日本独特の商習慣があるという問題が注目されるなど、さまざまな職場や業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する気配があります。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、いまだに伝票やFAXといったアナログな手法から抜け出せない会社も多いアパレル業界について、ITやAIの活用がもたらす変化を考察。販売員には観察力と発信力が求められるようになると予測しています。

アパレルDX(デジタルトランスフォーメーション)について考える(上)

1.伝票レス、FAXレスから始めよう

今更、言うまでもないことですが、伝票とはアナログな数値データを交換する手段です。納品書には、品番、品名、単価、数量、金額等が記載されています。商品を受け取った側は、その納品書の数字が正しいことを確認して、入荷データとして仕入れ台帳等に記載します。それを自動化するために、データベースを連携させれば、納品書の数値が自動的に相手の仕入れ台帳に記載されます。

FAXも伝票と同様の弊害があります。FAXが届くとその数字を手入力しなければなりません。これも本来ならば、自動的に記帳されるはずです。基本となる数値データが入力されれば、計算式を当てはめることで、更に必要な計数を導くことができます。

あらゆるデータ入力、集計作業が自動化されれば、売上管理も在庫管理も原価管理もとても楽になります。理論的には可能ですが、未だに実現していません。これはDX以前の業務改善の問題ですが、そこからスタートしないと何も始まりません。

2.ショップと企画をデジタルでつなぐ

アパレルの企画は、まず計数から始まります。年間の売上予算を半期四半期、月単位に配分し、期首在庫、仕入れ、売上、期末在庫を追いかけながら、毎月の生産量を想定します。そこからアイテムバランスで各アイテムに落し込み、小売価格、生産数量、各アイテムの平均用尺、平均工賃等から型数を割り出します。

現在は製品仕入れが主流なので、複雑な計算は必要ないかもしれません。ここまでの計数管理は、AIで行うことになるでしょう。量の問題はAIで対応可能ですが、質の問題はAIでは難しいと思います。

そこで最も重要なのは、店頭の販売員からの情報です。売上には上がらない顧客の動きや反応について聞くのはとても有効です。あるいは、周囲の競合ブランドの情報も必要です。数値の情報は売上がカウントされないと何も上がりません。しかし、現実には、購買に結びつかないで終わるケースも多いのです。ZOOMが普及したので、次の企画に向けた店長会議をオンラインで行ってはどうでしょうか。

もう1つは、チャットを利用した、意見収集です。こんな商品があれば、売上が取れたのに、という情報等をチャットで共有する。数値ではない情報を活かす仕組みを作ることが、新しいビジネスモデルにつながると思います。

3.販売員からショップスタイリストへ

私は小売業の主役が企業から個人に移行すると考えています。企業より個人、ブランドより個人、ショップより個人です。むしろ、個人がブランド化するのかもしれません。そうなるには、販売員のポジションを変えなければなりません。店頭で商品管理と接客販売するだけの販売員から、店内の商品をコーディネートして、情報発信する「ショップスタイリスト」に変わるということです。

ネットショップとリアルショップの双方を展開する場合、販売はネットショップで行い、ショップはメディアとしての性格を強めると思います。ショップスタイリストのミッションは個人メディアとして、情報発信してファンを集め、顧客へと誘導することです。

個人がSNSで情報発信をするには、店内での写真撮影を認めることも必要になります。アパレルショップでは、デザインが盗用されるからと店内を撮影禁止にしているところが多いのですが、これも再考の必要があるでしょう。

4.商品の店間移動と価格変更

アパレルにとって、いかに「プロパー消化率」を上げるかが利益のボイントとなります。アパレルは仕入れた商品在庫をいかに利益に換えるかが問われるビジネスだからです。百貨店は、決まった店舗面積からいかに利益を生み出すかを考えるので、「売り場効率(月坪)」を上げることがポイントになります。

商品の値下げをいかに少なくするか。半期に一度、集中的に半額セールをするのが良いか。あるいは、2割引き、3割引きと小刻みに値下げを行うのが良いのか。「しまむら」は、商品の店間移動をしながら、価格を変えて、消化していくと言われています。

これを行うには、徹底した単品管理と各店のデータ分析が必要です。店間移動は意外に難しい問題です。商品を最適な店舗に配置するには、売れない店から商品を引き上げ、売れる店に移動します。しかし、売れる商品を引き上げられるのは嫌なものです。そこで揉めることになります。ですから、商品の移動には明確なルール作りが必要になります。これもAI活用が生きる分野だと思います。

5.単品単位の売上進行予測

アパレルビジネスとは、予測ビジネスです。将来の需要を予測した上で、商品を仕入れ、展開します。プロモーションする場合も、常に消費者意識の変化を予測しなければなりません。営業は店別の売上予測、販売員別の売上予測が必要です。

企画にとっては、商品別の売上予測が必要になります。商品別の予測と管理ができれば、商品によって、販売期間を設定することができます。ロングセラーの商品、シーズンの立ち上がりに必要な商品、実需期に必要な商品、端境期に必要な商品等は、それぞれに販売期間が異なります。

商品の性格によって、期中にワゴンでセールをした方が良い商品も出てくるでしょう。あるいは、一定の消化率を達成したらセールにかけるという設定もできます。((下)に続く)

image by: Shutterstock.com

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