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世界を“麻薬漬け”にする中国。菅総理は対中依存から脱却できるか?

政界一の親中派と言われる二階俊博氏の強力な後押しで誕生した菅新総理は、世界覇権奪取の野望を隠さぬ習近平政権と適切な距離を持ち対峙できるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、世界各国の深刻な「中国依存の現実」を解説。その上で、途上国を中心に存在感を増大させている中国と、いかにして付き合うべきかを考察しています。

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国際新秩序における中国との付き合い方

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが現実を大きく変えてしまった世界で、今、世界各国は【中国といかに付き合うのか】について悩んでいます。

「経済規模では世界第1位かギリギリ第2位にまで発展した中国」
「海軍力ではすでに米軍を上回ったとアメリカが認める中国」
「ハイテク産業、特にIT産業では世界トップの立場にあると言える中国」
「急速な発展の過程において、世界からの依存度を高め、すでに切っても切り離せなくなった中国」
「人権問題をはじめとして、欧米の価値観にはそぐわない中国」……

好むか好まざるかは別として、すでに国際新秩序において絶対的な存在を示しているのが中国だと言えます。

香港が英国から中国に返還されたのを機に、欧米諸国と世界は中国に対して様々な理想と幻想を抱きました。

「経済的な自由を享受することで中国は民主化される」
「アジアのリーダーとしてアメリカやヨーロッパ主導の世界と対峙してくれる」
「途上国のリーダーとして欧米型の国際秩序の場で、新しい価値観を作り出す」

そのような幻想が多く語られ、各国は比較的中国に友好的な国際環境を作ってきたように思います。

しかし、現実は、皆さんご存じの通り、違った形になってきています。

「中国共産党による一党支配の強化と、不透明な決定プロセス」
「開かれることがない情報と統計の重い扉」
「米国・欧州・日本に追いつけ追い越せで急成長した国家資本主義型発展」
「徹底した情報戦略とサイバー技術の導入。そして監視社会」
「急速に増大する軍事力と最新鋭兵器の導入・配備」
「溢れんばかりの影響力拡大に向けた欲望」(南シナ海の領有権、尖閣諸島問題の再燃)
「圧倒的な経済力で他国を縛り付けて中国勢力圏に組み入れていく戦略」

ここわずか20年足らずの間に国際情勢における中国の位置付けと存在感は大きく変わりました。

一帯一路政策によってアジア各国、中東アラブ諸国、アフリカ諸国、そして欧州へと、まるでかつてのシルクロードを辿るかのように影響力を広げ、世界のサプライチェーンにおける中国依存体制の確立が進められ、気が付けば、各国からの外交・政治的な支持を獲得し拡大に、国際社会における中国批判を封じ込めてしまうという姿に変貌しました。

かつて中国の成長と国際化を支援してきたアメリカや日本、ヨーロッパ各国が抱いた淡い夢は崩れ去りました。WTOへの加盟を後押しした米国、中国への投資を後押しした欧米と日本、世界銀行やIMFでの発言権をサポートした先進国…。

結果、実際に中国は著しい経済成長を遂げましたが、期待していたような民主的な開国はなく、共産党による社会資本主義とイデオロギーがより強まった独自の形態になったのではないでしょうか。

またアメリカの欧州・中東アフリカ地域などからの撤退は、アジア外での中国の影響力の拡大に一役買うことになりました。オバマ政権から始まった米軍配置および政策面でのアジアシフトは、トランプ政権において加速され、結果、アジアにおいては、米中の直接対決(貿易、南シナ海、東南アジアにおける覇権争い)を激化させ、同時に“他地域での中国の進出”を後押しすることになりました。

結果、中国は一帯一路政策の下、アフリカ大陸においては、批判されることはあっても、圧倒的な存在感と影響力を確立しましたし、あまり日本では報じられませんが中東諸国からの支持も得ています。

そして、コロナウイルスの感染拡大が欧州各国を襲う中、いち早い支援の手を差し伸べることで、中東欧・南欧において一定の中国シンパを作ることに成功しています。

その結果、どうなったか。

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本気で中国と対峙しているのはアメリカだけ

日々メディアで描かれ、私も何度も書いた【米中対立激化の構造】は、実際ふたを開けてみると、【本気で中国と全面的に対峙しているのはトランプ大統領のアメリカ合衆国だけである】という構図に辿り着きます。

例えば、アメリカ合衆国と長年にわたり共通の方針を取ってきたEUでは、【すでに固定化した対中依存の経済モデル】が中国への毅然とした態度を封じています。

COVID-19を受けて中国への依存を見直し、域内での戦略物資の生産・調達へとシフトを目指す方針を打ち出していますが、コスト・規模などから困難であることが分かってきており、これまでに長い間に作ってきた構造を変えることは容易ではないと思われます。

また、拡大によって顕在化してきた【北のEU(北欧諸国、ベネルクス、フランス、ドイツ)】と【南・東のEU(ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガル、中東欧諸国)】の間にある複次的な亀裂が存在し、中国に対する方針もすでに一枚岩ではないという現実が生まれています。

そこには、コロナ時に助けを求めても独仏から無視されたという遺恨と、そこに迅速に救いの手を差し伸べたのが中国だったという現実があり、意図したかどうかは別として、中国による外交的な切り崩しが功を奏していると言えます。

結果、アメリカが求めるような徹底した対中批判と制裁の発動の輪には加わることが出来ず、米・欧間の分離・分裂が起きています。

そこにトランプ政権が打ち出した欧州(特にドイツ)駐留米軍の削減方針が追い打ちをかけており、今や、表面的には欧州各国も中国批判をし、特に新疆ウイグル自治区やチベット自治区などにおける中国政府による弾圧という人権問題を盾に中国を遠ざけようとする努力は見えますが、域内でも温度差がありますし、ましてやアメリカとは全くトーンの違った口先だけの批判となっています。

日本やオーストラリア、ニュージーランド、カナダなども中国の人権問題や香港国家治安維持法などに対して批判はするものの、アメリカが唱える制裁は見送るというように、外交と経済を切り離した“ゆるい”対応に終始しています。

これも、【アメリカに合わせて批判はするが、制裁には加わることが出来ない対中依存が進んだ経済構造】ゆえの結果と言えるでしょう。新政権が発足した日本には、ぜひ尖閣問題については毅然とした態度で臨んでほしいと切に願いますが。

東南アジア諸国、アフリカ諸国、中東アラブ諸国などにおける途上国における中国の影響力の浸透は想像を絶するレベルにあります。

一帯一路、石油ベースのエネルギー戦略、戦略物資とワクチンの優先供給などの“ネタ”を巧みに用い、すでに【成長における中国依存が高まり、国家の収益維持・拡大には中国が欠かせない】という状況が作り出され、さらには一帯一路政策を通じた“累積債務による足かせ”をつけるという強権的な一面と、【困ったときの中国による迅速な対応】という“アメ”を用い、「質は日米欧には劣るが、すぐに供給してくれるのはありがたい」という心理状況を作り出してコントロールを強めていきます。

ある国の高官の言葉を借りれば、「中国の拡大に懸念は大きくなる一方だが、口ばかりのアメリカや先進国とは違って、中国はすぐに来てくれる」という内容からも分かるように、すでに中国の対外戦略は、エントリー時のBusiness is businessで内政不干渉をうたっていたレベルから、外交・政治などにも広がる【国際舞台での中国支持】というレベルにまで浸透していることが分かります。

例えば、メディアなどで明らかな中国の人権侵害として報じられる新疆ウイグル自治区での再教育施設については、アラブ諸国はその政策への全面的な支持を与え、国連などの場で「収容施設とイスラム教弾圧は、必要な反テロ・脱急進化対策であり、幸福と満足感、安心感をもたらしている」と称賛して、中国を国際舞台において守っています。私が違和感を持つのは、新疆ウイグル自治区のウイグル人は基本的にイスラム教徒(アラブ諸国にとっては同胞)であるにもかかわらず、イスラム教徒への“迫害”を称賛しているという点です。

アメリカが仲介をしてイスラエルとの国交正常化を図っているUAEやバーレーン、エジプト、クウェート、イラクなどもその称賛の輪に加わっています。つまり、極端な言い方をすれば、彼らは米中双方を利益に応じて上手に使い分けていると言えますが、国際情勢という観点からは、中国よりと見たほうがいいかもしれません。

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アフリカでも高まる「困った時に迅速に助けてくれる中国」という認識

同じことはアフリカ大陸でも起こっています。

一帯一路政策を通じてインフラなどへの広い支援を得ていますが、同時に債務の罠への懸念も広がり、各国内では中国拒否の感情も湧きたっていると言われていますが、実際には、多額の債務を抱え、かつ中国のコミットメントなしには進まない経済発展と維持できない政治基盤という現実があり、完全に中国に首根っこを掴まれていると言えるでしょう。

エチオピアやジブチが良い例ですが、インフラ、エネルギー、産業、通信など多岐にわたる分野への集中的な支援を受ける引き換えに、国際舞台での中国擁護に加えて、港の使用権や輸送網、通信網などの戦略的インフラを中国に渡すという状態になっており、確実にアフリカ大陸における中国の覇権拡大に寄与しています。エチオピアとジブチには、北アフリカと中東・アラブ地域の対岸という戦略的な意味合いもあり、アメリカも非公式のBlack Site(中東地域でのテロ監視のためのCIA組織本部)を置いていると言われていることで、ここでも米中間の対立は激化してきています。

アフリカでも「アメリカや欧州はいろいろとケチをつけるが、何もしてくれない。それに比べて、中国は困ったときに迅速に助けてくれる」という認識が高まっており、中国の影響力が高まっています。

では中国も位置するアジアではどうでしょうか。

すでにRed Team入りしているらしい韓国と北朝鮮、日本という北東アジア諸国は別として、東南アジア諸国は中国との距離感に苦慮しています。

南シナ海での中国の領土・領海の拡大に対しては断固反対し、警戒する一方、昨今、噂される米中の武力対立の舞台になることや、米中双方の軍事力の拡大には反対しており、米中という二者択一はできない状況に思えます。

しかし、経済面に目を移すと、他の地域と同じく、中国経済の介入と支援なしには経済が成り立たない状態になっており、その傾向が最も強いカンボジア、ラオス、ミャンマー(ビルマ)は完全に親中派ですし(注:最近、ASEANの会合などでは中国の軍事的拡大には苦言を呈していますが)、地域の大国であるインドネシアや、タイ、シンガポールについては、批判も称賛もしない“付かず離れずの姿勢”で中国との付き合いを継続しています。

南シナ海問題で直接に中国と領有権を争うベトナムやフィリピン、マレーシア、ブルネイといった対中ハードライナーたちにしても、領有権では対立姿勢を崩しませんが、実益には振り回され、フィリピンのドゥルテ大統領に至っては、中国からのワクチン優先供給という言質を取り付けることで、対中批判を緩めていますし、最も強硬派であるはずのベトナムも、中国との経済協力は積極的に推し進め、経済面では良好な関係を維持・強化しています。

結果として、先週のASEAN外相会議の様子を見てみても分かるように、中国に対して一枚岩では批判できず、温度差があるなかで、対応が遅れ、結果、中国に“動き回る時間”を与えることになっています。

では、アジアにおいて唯一、中国と対峙している大国インドはどうでしょうか。

数千キロメートルにわたる中国との国境線確定問題が最近、再燃しており、インド国内での嫌中論が高まる一方ですが、実際にはインドの経済活動も中国依存度が非常に高く、今、中国製品をインドから締め出すことは自殺行為とも言われていて、結局、伸るか反るかといったように、毅然とした対応を取ることが出来ないというのが現実のようです。インドには、アメリカや日本、ドイツも支援を行う旨、オファーしているようですが、元々「他国の施しは受けない」主義のインドは、それらの申し出も断っているとのことです。

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アフガン進出でプーチンをイラつかせる中国

そして驚くべきことに、アメリカと対峙するイランや、アメリカが“仲介”していると豪語するアフガニスタンでも、中国は暗躍しています。

イランについては、先日お伝えしましたが、25年間にわたる経済・エネルギー・安全保障の戦略的パートナーシップを締結し、結果、中国がインフラや運輸、エネルギー部門に膨大な投資を行う見返りとして、イラン産の原油を優先的に購入するという枠組みのおかげで、アメリカ中心の対イラン経済制裁による負の影響をオフセットする役割を担っています。

一応、スンニ派アラブとシーア派イランの“アラブにおける対立”には無関心を貫き、「すべての国の友人だが、誰の盟友にもならない」という不干渉外交を徹底することで、アラブ社会では独特の存在感を発揮しています。

そしてこの“不干渉”の典型例が、イスラエルとパレスチナ双方との友好的な関係です。国連などの国際的な場においては、公然とパレスチナの大義を全面的に支持していますが、イスラエルとは最先端技術での協力をさらりと進めるなど、まさに不干渉で、かつbusiness is businessの基本姿勢で支持を得ています(そうなると、一見、トランプにべったりのネタニエフ・イスラエル首相も相当のたぬきですね)。

そしてアフガニスタンでは、アメリカ仲介の下、アフガニスタン政府とタリバンの間での和平が進んでいると報じられていますが、実際にはうまく行っていません。

捕虜の相互交換についても、実際には進んでいませんし、トランプ政権が今年中のアメリカ軍撤退を“考えている”というニュースは、アフガニスタンでの両勢力の和平への機運をしぼませています。

そして、和平工作が頓挫している大きな理由が、中国とタリバン勢力との秘密のディールです。

中国政府は、表立っては言いませんが、アメリカ軍が撤退したら、タリバンに対して膨大なエネルギー・インフラ投資をする約束をしているらしく、それはタリバンサイドにとっては、和平交渉の遅延への高いインセンティブになっているようなのです。いろいろと尋ねても、詳細についてはなかなか情報が得られませんが、いろいろな“関係者”曰く、「アフガニスタンにおける和平プロセスの仕切りを実際に行っているのは、アメリカなんかではなく、中国だよ」とのことで、ここにも中国の影響力がかなり及んでいることが分かります。

アフガニスタンへの進出が誰をイラつかせるかと言えば、かつて侵攻して大失態を演じたロシア(旧ソ連)のプーチン大統領でしょう。

中央アジア(コーカサス)はロシアのsphere of influenceと信じてやまないロシアですが、ここ数年のうちにカザフスタンや他の“スタン”系の国々に中国の影響が及び、ロシアのグリップが効かなくなってきています。アフガニスタン問題は、私も経験上、一筋縄ではいかない非常に複雑な案件ですが、今後、中国の影響力がどのように及ぶかによっては、米とロシアという2大国との泥沼の争いに発展するかもしれません。

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口だけ出して何もしない欧米にうんざりする途上国

アフリカ、ラテンアメリカ、中東アラブ、東南アジア、中央アジア…様々なエリアで、常に中国脅威論は存在し、心理的に拡大はしていますが、同時に中国への依存度と(なぜか)親近感も高まっているのも事実です。

途上国のリーダーたちによると、「欧米の言う人権擁護の大切さは分かるが、人権では日々食べることも生きることもままならない。口だけ出して何もしない欧米にはもううんざり。それよりは、怖いが、日々の糧を確保・提供してくれる中国のほうが信用できる」といった感情が強くなり、結果、国連を舞台にした中国支持の広がりへとつながっているようです。

WHO総会に台湾を参加させようとした日本や欧米の主張は、圧倒的多数で否決され、国際機関における事務局長ポストも次々と中国人候補者または中国の息がかかった候補が占めていくという事態に繋がっています。またWTOでの中国批判・非難も合意を得づらくなってきました。

中国を心から信用し、付き従うことは躊躇っても、結局、経済、安全保障など多面的に縛られ、先進国の遅々として進まない支援というファクターにも助けられ、中国は着実に国際舞台において勢力を伸ばしています。各国もそんな中国との付き合い方を悩む中、次々と支持を与えていく現状に、私たちはどう対処すべきでしょうか。

新政権が発足し、近くアメリカ大統領選挙も行われる今、「拡大を続ける中国といかに向き合い、付き合うのか」について、今一度真剣に検討する必要があるのではないかと思います。

皆さんはどうお考えになりますか?

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image by: Gil Corzo / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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