米中間の緊張がかつてないほど高まる中、21日に中国人民解放軍が発表したミュージックビデオ(MV)が話題となっています。台湾出身の評論家・黄文雄さんはメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、その意図を「台湾に対する圧力」とし、これまで繰り返されてきた中国による台湾への卑劣な威嚇行為を列挙。さらに今回のMV製作から透けて見える「中国共産党の窮状」を暴露しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年9月23日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【中国】人民解放軍「文攻武嚇」PRのお粗末ぶり
9月21日、中国人民解放軍で台湾海峡などを管轄している東部戦区が、戦意高揚のためのミュージックビデオ(MV)を発表しました。「もし今日開戦したら(假如戦争今天爆発)」という歌にあわせて、解放軍兵士の訓練やミサイル発射などの場面が次々と展開されるMVです。
人民日報系の環球網のニュースから、このMVは見ることができます。
「もし今日開戦したら」という歌は、現在つくられたのではなく、以前からありました。今回、東部戦区は新たなビデオを作成したのですが、それは台湾に対する圧力のためだとされています。以前のMVは以下で見ることができます。
中国は、台湾に対して、つねに武力と同時に言葉で脅しをかけてきました。このことを「文攻武嚇」といいます。言葉で攻撃し、武力で威嚇するという意味です。
1996年に台湾で最初の総統選挙が行われた際、李登輝に投票することは戦争を意味するというメッセージを込めて、台湾海峡に向けてミサイルを発射しました。その結果、アメリカは台湾海峡に2つの航空母艦群を投入し、中国の台湾侵攻に対してアメリカが介入する姿勢を明確に示したのでした。
その後も中国の台湾への恫喝は続きましたが、そうした中国の威嚇行為はすべて裏目に出ています。台湾人はますます中国と距離を取りたいと思うようになったからです。
2019年1月には、「台湾同胞に告げる書」40周年記念大会の講演で、習近平主席は台湾に対して「一国二制度」を受け入れるように求め、拒否するなら「武力統一を絶対に放棄しない」と脅迫しました。しかし蔡英文総統は、この演説に即座に反論、これにより、それまで過去最低だった支持率が急速に回復し、2020年1月の総統選挙で史上最高の得票率で再選されるに到ったのです。
今年の9月20日には、中国人民政治協商会議の汪洋主席が、「台湾には両岸の交流や協力を阻む者がいる」と述べたのに対して、台湾の大陸委員会は「北京側の『文攻武嚇』こそが台湾海峡の情勢のリスクを高める原因だ」と反論しました。
● 大陸委「北京の文攻武嚇こそ情勢悪化の原因」 中国高官に反論/台湾
台湾側の反論を証明するかのように、人民解放軍が「もし今日開戦したら」のMVを発表したわけです。
このMVのニュースは、もちろん台湾でも大きく報じられました。
「文攻」だけではありません。最近、台湾周辺では人民解放軍による演習が相次いでおり、また、中国軍の航空機が台湾の防空識別圏に連日侵入するなど、「武嚇」も活発化させています。そのため、台湾国防部は軍事動向を随時公表するページを公式サイトに設置しました。
● 国防部、軍事動向を随時公表するページを公式サイトに設置/台湾
このように、米中対立の激化、台湾の国際社会での存在感UPなどを受けて、文攻武嚇を激化させている中国ですが、その一方で、中国らしい、間抜けな事態も発覚しています。
中国空軍が制作した「戦神轟-6K,出!?」というPR動画では、中国のH-6K爆撃機がグアムのアメリカ空軍基地に似た目標を爆撃するシーンが挿入されていましたが、中国のネット民によって、そのミサイル爆発シーンには、アメリカのハリウッド映画の映像が使用されていることが発覚してしまったのです。
● 中国空軍、PR動画に米国映画のシーン挿入 SNSで「総攻撃」受ける
とはいえ、どんなに敵対しても、中国がアメリカから離れられないということを象徴している出来事でもあります。中国の技術もすべてアメリカをはじめとする西欧からパクったもので、何ひとつオリジナルがないことを暴露してしまったようなものです。習近平がいくら製造業の国内化「中国製造2025」をぶち上げて、自力更生を目指したところで、それが不可能であることを、中国軍自らが証明したわけです。
中国の2020年の国防費は前年比6.6%増でしたが、伸び率は30年ぶりの低さでした。世界的な新型コロナの蔓延により、中国経済も大きなダメージを受けています。しかも、一党独裁体制の中国では国内の人民を押さえつけるための治安維持費が軍事費以上にかかります。現在では軍事費は潤沢とはいえず、そのためにCG映像を自前でつくる予算をケチらざるをえないのかもしれません。そのために他国の映画からパクってきている可能性もあります。
ここ数年、中国では年金削減などに不満を抱いた退役軍人によるデモが続発しています。新型コロナ後には、これにさらに失業問題も重なってきます。人民の民意を反映させるシステムがない中国において、中国共産党がもっとも恐れるのは民衆の不満が爆発することです。アメリカとの軍事競争、それにともなう軍事費増大は、かつてソ連崩壊を招いただけに、中国としても警戒しているところでしょう。
「絶対無謬」の中国共産党としては、アメリカに対して虚勢を張りながらも、人民の不満を抑えなくてはならないという、ジレンマにあるといえるでしょう。今回の中国のMVやPR製作には、そのような窮状が透けて見えるようにも思います。
~中国五千年の疫病史が物語るパンデミック』
好評発売中!
image by: kislond / Shutterstock.com
※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年9月23日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。
こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー
※ 初月無料の定期購読手続きを完了後、各月バックナンバーをお求めください。
2020年8月配信分
- チベット人の自由と権利のために戦った女戦士の死/世界が辟易し始めた韓国のご都合主義とOINK(8/26)
- ドル経済圏から追放される中国の焦り/台湾に受け継がれる日本人の自然観(8/19)
- なぜいま中国は香港民主活動家を次々逮捕するのか/香港潰しの次に中国は確実に台湾を狙う(8/12)
- 反日親中メディアの終焉/李登輝元総統との思い出と台湾が抱える課題(8/05)
2020年7月配信分
- 銅像で相手を貶めるのは中華の文化/ようやく中国の本質を理解したアメリカ(7/29)
- いよいよ日本企業も中国企業との取引が生死を分けるときがきた/三浦春馬氏の死に衝撃を受ける台湾(7/22)
- 中国にとって国際法とはなにか/「台湾鉄道の父」を日本人から中国人に変えようとする姑息な動き(7/15)
- 日本も本気で中国のスパイ対策に乗り出すべきとき/徴用工問題の報復を恐れる韓国が狙うWTO事務局長(7/08)
- 次は台湾を狙う中国と、滅びゆく香港の力を結集する台湾/三峡ダム決壊が招く中国分裂(7/01)
2020年6月配信分
- 朝日新聞が「中国の宣伝機関」としてアメリカに認定される可能性/ゲームの中で展開される反中闘争(6/24)
- もう歴史問題で韓国を相手にしても意味がない/ついにウイグル化がはじまった香港(6/18)
- 中国に近づいてやっぱりバカを見たインドネシア/台湾で国民党独裁からの民主化を描いたドラマ解禁(6/10)
- 中国のアメリカ暴動への関与疑惑が出はじめた/コロナで中国は旧ソ連と同じ道を辿るか(6/03)
2020年5月配信分
- 中国制定の「香港国家安全法」が日本の護憲派を殺す/親中カンボジアの「中国に近づきすぎたツケ」(5/27)
- 中国の恫喝はもう台湾に通用しない/世界が注目する蔡英文の総統就任スピーチ全文(5/20)
- 「元慰安婦」から反日利権を暴露された韓国慰安婦支援団体/中国から台湾に逃げてくる動きが加速(5/13)
- アメリカが暴露した中国の悪質な本性/韓国瑜へのリコール投票に見る「コロナ後の台湾」の変化(5/06)
2020年4月配信分
- 世界からの賠償要求5500兆円!中国は破産するか/他国へも情報統制を求める中国の卑劣(4/30)
- 「アベノマスク」も被害。今度は不良品マスクを世界に拡散する中国/フルーツ天国・台湾は日本人がつくった(4/22)
- コロナ発生源の中国が今度は黒人に責任転嫁/台湾発「WHO can help?」が世界に問いかけること(4/16)
- もう国民が国内旅行を楽しむ台湾と、緊急事態宣言の日本(4/08)
- 台湾の民主化とともに歩んだ志村けんさん/死者数の嘘が暴かれ始めた中国(4/01)
2020年3月配信分
- 欧州の新型コロナ感染爆発は中国共産党員が原因だった/国内では隠蔽、海外では恩の押し売りを続ける中国(3/26)
- 習近平の「救世主化」と天皇利用への警戒/小国発展のバロメーターとなる台湾(3/18)
- 【台湾】新型コロナ対策で注目される台湾の若きIT大臣が日本に降臨!?(3/11)
- 新型コロナへの対処法は「中国断ち」をした台湾に学べ/新型肺炎の責任を日本に押し付けはじめた中国(3/05)
2020年2月配信分
- 『韓非子』の時代から何も変わっていない中国(2/26)
- 「中国発パンデミック」はなぜ厄介なのか/蔡英文再選後、ますます進む日台連携(2/19)
- 新型肺炎のどさくさで反体制派狩りをする習近平の姑息/戦後日本の軍事研究忌避が新型肺炎の感染拡大の一因(2/12)
- 新型肺炎が世界にとって思わぬプラスとなる可能性/疫病のみならず他国に厄災をばら撒く中国(2/05)
2020年1月配信分
- WHOを操る疫病発生地・中国の魂胆(1/29)
- 「中国発パンデミック」はなぜ厄介なのか/蔡英文再選後、ますます進む日台連携(1/22)
- 中国の目論見がことごとく外れた台湾総統選/ご都合主義の中国が民主主義と人類を危機に陥れる(1/15)
- 黄文雄メルマガスタッフの台湾選挙レポート(1/13)
- 文化が残らない中国の宿命/中華にはびこる黒道治国と台湾総統選挙を左右する「賭盤」(1/08)
- 謹賀新年のご挨拶―激動の年の幕開け(1/01)