「技術流出の危険性が高い中国の千人計画に、日本学術会議が協力していた」という真偽不明の情報が出回り物議を醸しましたが、我が国の技術はとうの昔に中国サイドに渡ってしまっているようです。どのような方法で中国はいとも簡単に先端技術を手に入れたのでしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、日本企業もしてやられたその巧妙な手口を白日の下に晒しています。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2020年10月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
千人計画だけじゃない!日本の技術が中国にダダ漏れしている
最近、中国の「千人計画」というものがネットなどで取り沙汰されています。千人計画というのは、中国が国際的な専門家を大々的に招いて、中国の科学技術を発展させようという計画のことです。もちろん、これは中国の軍事力の強化にもつながります。この千人計画に、日本学術会議が協力したとかしないとかで、ネットで話題になっているわけです。
が、日本人はあまり気づいていませんが、日本の技術の中国への流出は「千人計画」よりもはるか以前から大規模に行われているのです。
日本の大手メーカーの多くは中国に進出していますが、そこで日本の技術はごっぞり堂々と取られているのです。
1979年、中国は改革開放政策を始めました。まず深セン、珠海、汕頭、廈門に経済特区をつくったのです。経済特区というのは、特例的に外国企業の進出を認め、税金の優遇などを行う地域のことです。
中国は、共産主義国であり、企業はすべて国営か国営に準ずるものという建前があります。だから、それまで原則として外国企業が入ってくることは、できませんでした。
しかし、経済特区をつくることにより、その地域だけは、自由主義国と同じように外国の企業が入ってきてもいいということにしたのです。しかも、経済特区では、税金の優遇措置や、インフラ整備などを行い積極的に外国企業を誘致しました。
中国のこの経済特区政策は、「当たり」ました。外国企業にとって、中国の経済特区は非常に美味しい「タックスヘイブン」だったからです。中国の経済特区の法人税の税率は15%程度でした。当時の先進国の法人税率は40%~50%程度ありましたので、この低税率だけでも随分美味しいものです。
それに加えて、中国の経済特区は「工業地帯」として非常な好条件を備えていました。まず土地代が非常に安く、工場用地などが整備されているということ。そして、何より人件費が先進国に比べて、10分の1以下で済みました。
しかも中国の人々は、誰もがそれなりの教育を受けており、すぐに工場労働をこなせました。つまり、良質な人員を非常に安く使えたわけです。
また中国は、東南アジアのど真ん中に位置していますから、アジア圏の輸出などにも非常に便利です。ほかのタックスヘイブンでは、こういうことはありません。ケイマン諸島などのタックスヘイブンは、税金は安いですが、工場用地もありませんし、たくさんの優秀な人材がいるわけでもありません。だから、会社の名義を置くだけしか使いようがありません。
しかし、中国の場合は、生産拠点として使える上に、タックスヘイブンのように税金が安かったのです。「理想的なタックスヘイブン」といえました。
この経済特区は、たちまち多くの外資系企業を呼び込み、中国経済をけん引するようになります。中国は、その後、徐々に経済特区を拡大していきました。1986年までに、新たに、大連・秦皇島・天津・煙台・青島・連雲港・南通・上海・寧波・温州・福州・広州・湛江・北海の14都市が、「経済技術開発区」に指定されました。「経済技術開発区」とは、経済特区よりもさらに自由度の増した地域のことです。当然、外国企業の税制優遇などもあります。この80年代の「経済技術開発区」の設置により、外国企業の進出が一気に加速したのです。
他国の企業の力で経済発展
しかし、この中国版タックスヘイブンには、大きな罠がありました。中国の経済発展は、これらの先進国の企業がけん引しました。他国の先進企業が、次々に進出し、工場を建てます。そこで作った製品を、その国の母国や諸外国に輸出するのです。中国は場所と人材を提供するだけです。外国の企業は、人件費や様々な諸費用を落としてくれます。
中国から見れば外国人に工場を建ててもらって、自動的に産業を発展させてもらう」ということです。
まあ、これだけであれば、「中国はうまくやったな」という程度の話で済みます。欧米の企業の方も、儲かった上に税金を安くしてもらっているので、お互いさまということになります。しかし、この話にはさらに先があるのです。
先進企業の技術情報が吸い取られる
中国版「タックスヘイブン」の一番恐ろしい罠というのは、進出した企業の技術情報が吸い取られるということです。中国が改革開放政策を講じ始めた当初、外資には資本の制限がありました。自動車などの機械製造分野では、外資の資本割合は50%を超えてはならない、ということになっていました(現在はこの資本割合の制限はかなり緩和されましたが、重要な産業においてはある程度残っています)。
だから、日本のメーカーが中国に進出するときには、資本100%の子会社をつくることはできず、中国側と合弁企業をつくるしかありませんでした。だから中国に進出した日本の自動車メーカー、電気メーカーは、ことごとく中国との合弁会社をつくっています。これが後年、大きな仇となるのです。
たとえば日本の家電メーカーが、中国に進出したのは、1970年代の後半です。1978年、中国の実力者のトウ小平が、日本を訪れた際、大阪のパナソニックの工場を視察しました。案内役の松下幸之助に、トウ小平は「中国の近代化を手伝ってくれませんか」と言ったそうです。松下幸之助は「できる限りのことをします」と約束し、翌年には北京駐在所を設置しました。パナソニックは1987年に、北京にブラウン管製造の合弁会社をつくりました。これが日本企業としては戦後初めての中国工場となったのです。
もちろん、松下幸之助としては、「安い労働力の供給源」としての中国に大きな魅力を感じていたはずです。そして、いずれは大きな家電の市場になることも見越していたでしょう。
しかし松下幸之助が見落としていた点があります。それは、中国が下請け工場だけに納まらず、自ら企業を起ち上げ、日本の家電メーカーを脅かす存在になるということです。しかも20年という非常に短期間で、です。
日本の企業が海外に進出するということは、日本の技術が海外に流出するということになります。企業がどれほど技術の流出防止に努めたとしても、外国に合弁会社までつくり、工場設備を建ててしまえば技術流出を止められるはずがありません。
そして進出先の国では、当然、技術力が上がります。日本人が長年努力して作り上げてきた技術が、企業の海外進出によって簡単に外国に提供されてしまうのです。中国の企業が、急激に発展したのは、このことが大きな要因なのです。
改革開放からわずか20年後に、中国には日本企業の強力な競争相手となる企業が起ち上がってきました。これは、パナソニックが中国に進出したときには予想だにしてなかったことです。
しかも現在に至っては、日本の一流メーカーが中国企業に買収されてしまうほどになったのです。たとえば2015年に、東芝の白モノ家電分野である「東芝ライフスタイル」を、中国の大手家電メーカー「美的集団」が買収しました。ご存知のように、東芝は日本を代表する家電メーカーです。そして、東芝の白モノ家電というと、かつては一世を風靡した東芝の主力商品でした。その主力商品分野を、中国のメーカーに買収されてしまったわけです。多くの日本人に、中国経済の脅威をひしひしと感じさせたはずです。
現在も中国は、外国企業に対して優遇的な税制を敷いています。最先端技術の分野の外国企業については、税制の優遇措置があるのです。
中国の法人税は約30%ですが、この外国企業優遇措置を使えば、10%程度に抑えることができるのです。先進国の現在の法人税は安いところでも20%程度ですので、中国はそれよりも半分程度で済むわけです。しかも、まだまだ中国の人件費は安いのです。
だから、日本や欧米の企業が、中国で会社をつくり製品をつくって輸出をし、中国で税金を払えば、非常に大きな儲けとなります。しかしそういう目先の利益に目がくらんで安易に中国に工場を移したりすると、後でとんでもないしっぺ返しを食うのです。
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