2012年の交渉開始から8年、今月15日にようやく15カ国の署名に至った東アジア地域包括的経済連携(RCEP)。日中韓やASEAN諸国等が参加する大規模な協定となり、世界の注目を集めています。しかしこの中国主導の協定の危険性を訴えるのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんはメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』でその理由を述べるとともに、バイデン大統領の誕生でアメリカの復帰が期待でき、かつ中国が参加できないTPPで日米台が連携すべきであると記しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年11月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【中国・台湾】危険なRCEPより中国排除のTPPで日台連携を
● RCEP合意 台湾への影響「限定的」 中国未参加のTPP加入に重点
11月15日、日本と中国、韓国、オーストラリア、ASEANなど15カ国が、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定に署名しました。
RCEPは、2012年に中国が提唱したアジア版の自由貿易協定で、これまでなかなか交渉が進展しなかったのですが、ようやく妥結に至ったわけです。人口23億人、GDPで世界の約3割を占める巨大な経済圏ができることになります。
今後、協定を結んだ国々のあいだの関税を段階的に引き下げ、貿易活動を促進させて各国の経済を活性化させるという狙いがあるわけですが、もちろん、中国が主導していることもあって、台湾はRCEPには参加できません。
とはいえ、RCEPは取り決めがゆるいため、たとえば粗悪品や知的財産権を侵害したコピー商品なども流通する懸念があります。
加えて、インドも参加を見合わせています。それも、中国の安い粗悪製品が流入し、自国の市場を席巻することを警戒しているからです。
トウ振中(とうしんちゅう)行政院政務委員は、「台湾にとっては、RCEPに署名した15カ国に対して台湾が輸出している製品のうち、7割がすでにゼロ関税の対象であるICT(情報通信技術)製品であり、残りの3割である鉄鋼や紡績などの産業が影響を受ける可能性があるものの、影響は限定的だ」と述べました。
そして、台湾が狙っているのは、中国の妨害により参加できないRCEPよりも、中国が参加していないTPP(環太平洋経済連携協定)のほうだと述べました。
TPPは投資や知的財産権、政府調達などの幅広い分野で、域内共通ルールをつくっています。そして、質の高い貿易や投資の自由化をめざすものです。知的財産権の保護の厳格化や、より透明性のある投資や政府調達などが義務付けられており、このような条件のもとでは、中国はTPPに参加できないのです。
中国の参加できないTPPに台湾は参加できますので、中国による嫌がらせなども受けずに済みます。
もうひとつ、台湾にとってTPPに希望が持てるのは、アメリカでバイデン大統領が誕生した場合、アメリカがTPPに復帰する可能性もあります。
もともとTPPに関してはオバマ大統領がかなり積極的に推進してきました。それがトランプ大統領になって一転して、TPPからの離脱が宣言されたわけです。再び民主党政権に戻れば、アメリカのTPP復帰もありえるでしょう。そこに台湾が参加すれば、経済的な安全保障にもなります。つまり日米と台湾が連携して、中国抜きの経済圏をつくりあげるということです。
とはいえ、バイデン氏はオバマ・ケアの復活については意気込んでいますが、TPPや対中政策については、未決、未定のままです。バイデン新政権は中国に対して協調路線をとるのかどうか、一抹の不安が台湾でも払拭できていません。
加えて、トランプ政権も大統領選挙後に、中国へのけん制姿勢をさらに強めています。トランプ政権は、11月20日に台湾との新たな経済対話をワシントンで開催すると発表しました。もちろん中国は猛反発しています。
日本のニュースでも、中国の台湾への武力行使についてはすでに「準備終了」の段階にあるとも伝えられています。しかし、北京の冬季オリンピックも控えているので、それが終わるまでは北京政府は軽挙妄動しないという説もあります。
台湾は400年前のオランダ人時代から、経済をはじめ各分野で明の政府と対立し、今日もまた中華人民共和国政府と対立関係にあります。ここ400年近く、台湾は中国大陸とつねに対立しつづけてきたのです。その対立関係は、イギリスとフランスの百年戦争を連想させるほどです。中国の改革開放以後、中国に進出した台湾企業は、多くの技術を窃取されてしまいました。
一方、日本はRCEP協定に署名し、参加を表明していますが、中国に対する警戒心をもっと高める必要があります。
たとえば、同じくRCEP協定に署名したオーストラリアでは、安全保障情報局(ASIO)が、「敵対国がアメリカのビジネス特化型SNSであるLinkedInなどを利用して機密情報を入手しようとしており、インターネット上でスパイをヘッドハンティングしている」と警告しました。
ASIOは敵国の国名は明かさなかったものの、中国やロシアを関連付けているそうです。ASIOの報告書に寄ると、現在のオーストラリアには冷戦時代よりも多くの外国スパイが存在し、外国政府はオーストラリアの能力、研究、技術、内政・外交政策に関する情報を求めているといいます。
オーストラリアにそれほどのスパイがいるのであれば、日本にいないはずがありません。日本学術会議にしても、こうした海外スパイのターゲットになる可能性が高いことは、言うまでもありません。
日本では「自由貿易」というと、経済だけの分野だと考えがちですが、安全保障と密接な関係にあることは言うまでもありません。知的財産権も安全保障とは不可分です。それゆえに、情報戦に対する備えも必要なのです。
今日は、日本とアメリカが共同開発したミサイルが、ICBM迎撃に初めて成功したというニュースが飛び込んできました。先日、北朝鮮が新たなICBMを公開したばかりでしたから、それを無効化するという意味で、非常に喜ばしいニュースです。同時にこれは、中国のICMBを牽制する意味合いもあると思われます。
● 米、ICBM迎撃に初成功 日本と共同開発ミサイルで―海上からも可能に
日本が自国を自ら守る気概があるのかどうか、それが試されています。THAAD配備のときに韓国は中国からさまざまな嫌がらせを受けましたが、日本は、中国を気にしてこの共同開発したミサイルの配備に及び腰になるようなことがあってはいけません。
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image by: 首相官邸
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