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日本のリーダーと思えぬ覚悟の欠如。菅総理「発言の軽さ」の正体

11都府県に発出されている緊急事態宣言ですが、政府が期待する「自粛の徹底」はなされず、前回ほどの人出の減少には至っていないようです。これを「当たり前」と見ているのは、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さん。菅総理を始めとするリーダーたちが使う「自粛」がらみの言葉の曖昧さや矛盾を明解に指摘し、故に国民が混乱していると解説。混乱させないために分かりやすく「禁止」と言えないのは、一国のリーダーたる総理に「覚悟」がないからとダメ出しをしています。

コロナ禍で気になる政府の「言い方」について

今回の緊急事態宣言下においては前回ほどの人流減少は見られないと言う。当たり前だ。こんな分かりづらいメッセージはないからだ。常識からすれば、現在の事態が前回よりも悪い場合、より厳しい制限が掛かって然るべきである。にもかかわらず全体的には明らかに前回より緩くなっている。当然、それを受け取る側は混乱する。油断ではない、混乱なのである。混乱状態の時、人間はしばしば現状維持的行動をとる。判断の保留である。その結果が宣言前後でさして変わらない現状ということである。

本来、指示にしろ、命令にしろ、その対象者が広範囲に及べば及ぶほどその内容は単純明快なものとならなければならない。その辺のところは一部の専門家を対象とするような法令とは全く違う。件の宣言のように全国民あるいは全都府県民を対象とする場合においては、誰の目から見ても一目瞭然、といった程度には単純化しなければおよそ即効性は見込めない。

例えば、目下の緊急事態宣言には「不要不急の外出や移動を自粛。特に20時以降の外出自粛を徹底」といった項目がある。蓋し、こんな訳の分からない言い方はない。前半の「不要不急の外出や移動を自粛」は分かる。また後半の「20時以降の外出自粛」も分かる。が、両者を合わせた途端に何が言いたいのかよく分からなくなるのである。

そもそも20時を境に突如として必要性や緊急性の度合いが高くなったり低くなったりすることなど余程特殊な場合を想定しない限りはあり得ない。19時に不要不急なものは21時になってもやはり不要不急な筈である。ということは、19時に自粛すべきものは21時でも同じく自粛すべきなのである。

ところが「20時」と時間を明示したために門限効果のようなものが生まれ、21時には許されないことも19時なら許される、という極めて自然な解釈を成り行き上許すことになってしまったのである。少なくとも「特に」「徹底」という語用によって明らかに20時以降の厳しさの方が強調されているのは確かで、それにより20時前は相対的に緩く感じられるということは間違いない。

そもそも「自粛の徹底」という言い回し自体が既にして矛盾概念である。例えば「自習の徹底」とあれば、それは生徒に向けられたものではなく管理者たる教師にむけられたものと見るのが自然であろう。では「(国民に)自粛を徹底(させる)」管理者とは何か。ここに代入可能なものは何らかの官権しかあり得ない。よって普通はそれを強制と呼ぶ。先の文言も「不要不急の外出や移動を自粛。特に20時以降の外出は禁止」なら遙かに分かり易い。

ここに問題の本質がある。「禁止」と言えないのである。「禁止」と言う覚悟がないのである。「私権の侵害云々」は問題を先送りにする言い訳か単なる逃げ口上に過ぎない。事実「公共の福祉」という極めて正当な反論が全く出ていないではないか。はなから本気で議論する気などないのである。

よく「自粛疲れ」などと言うが、これは間違いである。さらに言えば「自粛疲れからついつい油断して」などといった物言いは言語道断のことである。我々は自粛という「言葉」に疲れているのである。その定義の曖昧さに疲れているのである。意味が拡大するばかりでその外延の見当すらつかないことに疲れているのである。

言葉は覚悟だ。一国のリーダーならそれは当たり前のことである。覚悟がないから言葉にならないのである。そう思いながら、テレビなどでの総理の発言を聞いているのは自分だけだろうか。

image by: 首相官邸

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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