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日本は大丈夫か。米住宅街にボーイング777巨大エンジン落下の衝撃

2月20日の現地時間午後1時頃、米コロラド州デンバーを飛び立った米ユナイテッド航空ホノルル行き328便(ボーイング777-200型機)が、離陸して間もなくエンジンが破損するという事故を起こし、住宅街に破片の一部が落下するという衝撃的なニュースが報じられました。これを受けて、日本の大手航空会社も同系列のエンジンを搭載した航空機32機の運行を停止しています。なぜボーイング777のエンジンは破損したのか、そして今後も同様の事故が続く可能性はあるのでしょうか。メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』著者で鉄道や航空機に造詣の深い在米作家の冷泉彰彦さんが、今回の事故について5つの「指摘」を記しています。

ボーイング777の事故で進む「脱巨大エンジン」

2月20日(土)の現地時間午後1時頃、米ユナイテッド航空(UA)のデンバー発ホノルル行きの328便(ボーイング777ー200型機)が離陸して上昇中に、右エンジンが破損するという事故を起こして、デンバー国際空港に引き返し、緊急着陸しました。

このインシデントでは、241名の乗客乗員にはケガはありませんでしたが、デンバー郊外の住宅地などには複数の機体の破片が落下しています。特に777の名物である巨大なエンジンカウル(エンジンの前方カバー)が、ほぼそのまま住宅の玄関先に落下している様子は全世界にショックを与えました。その他にも、運動公園や住宅地の道路上などに多くの部品が落下しています。

この事故ですが、5点ほど指摘しておきたいと思います。

1つ目は、日航機のインシデントとの酷似です。2020年12月4日に発生した那覇発羽田行の、JL904便(ボーイング777ー200型機、機体記号:JA8978)が同じように離陸上昇中に左エンジンのファンブレードが破損、また、エンジンカウルと水平尾翼、胴体の損傷を発生して那覇に引き返しています。このインシデントは日本国内では深刻に受け止められていたようですが、その危険性について、世界中の同型エンジン機に対する警告が十分であったか検証が必要ということです。

特に、JAL機の場合は、合併前の日本エアシステムが1997年に受領した機材、UA機の場合はそもそも777の型式認定を受けるためのボーイングの初期テスト機だった機材を94年に受領ということで、どちらも機齢が25年前後という老朽機です。ですから、特に厳密なチェックが必要だったという反省が求められます。

2つ目は、ファンブレード破損という事故の恐ろしさです。一見すると、ファンブレードというのは扇風機の羽根、あるいはプロペラ機のプロペラのように見え、それが部分的に破断したとして、せいぜい風を吸い込む力、要するエンジンの推力が低下するぐらいというイメージがあります。

ですが、実際はそうではありません。最新のジェットエンジンにおける、ファンブレードというのは、非常に重要な部品です。扇風機の羽根やプロペラ機のプロペラと違って、重たい高剛性の羽根が高速で回転しており、猛烈な量の空気を吸い込んで猛烈な速度で後方に押し出すことで推力を得るものです。その羽根が折損するというのは、空気が無抵抗で通ってしまうというよりも、巨大な回転体のバランスが崩れることを意味します。

今回の事故機がそうですが、本当に見た目は僅かなブレードの損傷によりエンジン全体のバランスが崩れてパワーを失っているにも関わらず、ずっと細かな振動を続けていたわけですが、特に折損の瞬間にかかるエンジン全体への力は相当なものになります。ですから、今回はカウルだけでなく全体的に外側のカバーが破損、脱落しています。それは燃料に引火して爆発したのではなく、折損によって回転体が巨大な振動を発生して構造破壊に至ったということです。

3つ目は、同じ777用のエンジン選択肢に入っているGEの新世代エンジンとの比較です。GEのエンジンでは、ブレード損傷が発生すると、ワザと「ヒューズ機構」を破損させて残ったブレードがファンケースと激しく接触して摩擦により回転を止め、それによって衝撃や振動を止めることで「破損をエンジン内部だけに限定する」という設計になっているそうです。今回、JL機とUA機で類似のインシデントが起こったことで、P&Wの旧世代エンジンに対しては改めて厳しい批判がされそうです。

4つ目は、この種の巨大エンジンの危険性です。正にこの777におけるP&W4000というエンジンは、巨大な双発エンジンによる省エネを追求するということで、世界の航空市場を支配してきたわけですが、エンジンが大きくなればなるほど、ファンブレード損傷による事故の危険性というのは増加します。

そこで、例えば同じ777でも最新の「X」では、主翼に炭素繊維などの複合材を使用することで、全体の重量を低減する、その結果としてエンジンの規模も少し小さくという設計に変わってきています。そうしたトレンドは、今回のインシデントで加速するものと思われます。

5点目は、双発機のこの種のインシデントにおける危険性は限定的ということです。ファンブレード損傷事故の場合は、確かにそのエンジンは推力を失うし、部品落下など様々な問題が起きます。ですが、例えばA380機で発生した「油圧機構の損傷による過回転事故」の恐ろしさと比べれば、少なくともファンブレード損傷の場合はそれが即在に「墜落」とか「炎上」につながる危険性は非常に少ないと言って良いと思います。

777や787、あるいはA350などの場合は、仮に1発のエンジンが推力を失っても、それが洋上であっても至近の空港に緊急着陸することは可能な設計であり、またそのような飛行計画しか認められていません。そうしたフェイルセーフの考え方があるということも、今回のインシデントの報道では同時に伝えて行きたいと思うのです。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

image by: Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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