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ワクチン安全性議論に終止符?接種済みの世界的エンジニアが危険派を論破

さまざまな情報が錯綜し、医療従事者への接種すら遅々として進まない我が国の新型コロナワクチン事情。昨年末に投与が開始されたアメリカは現在、どのような状況なのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、「Windows95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアで米国在住の中島聡さんが、現地のワクチン接種の現状を自身の体験を交えレポート。さらに自ら調べ上げたワクチンが効果を発するシステムとその安全性について、詳細に解説しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

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COVID-19ワクチン接種

先日(3月30日)にCOVID-19ワクチンの第1回目の接種をしてきました。モデルナのものです。

米国では、去年の12月から医療従事者へのワクチンの投与が始まり、それが次第に、警察、消防、高齢者、介護者、などに広げられ、今では誰でも受けられるようになっています。

ワクチン接種のインターネットでの申し込みも、3月の前半まではかなり混雑しており、なかなか予約が取れない状況でした。しかし、3月の後半になると接種出来る場所が大量に追加されたこともあり、私が申し込んだ時点(3月26日)では、あっさりと4日後の接種が予約できました。

場所は、近所のPharmacaというドラッグストアです。本来、予防接種をするような場所ではありませんが、臨時のコーナーを設置して、そこで看護婦さんが1人で対応してくれました。

場所によっては、手際が悪くて何時間も待たされる場所があると聞いていましたが、私が行った場所は、小規模だったこともあり、予約した時間に行くと、前に並んでいる人はわずか2人でした。

接種に必要な情報の提供は、すべて前もって、そのドラッグストアのウェブサイトで記入しておいたので、免許証で本人確認をし、簡単な説明(接種後、15分間は店の中にいなければいけないこと)を受けたのちに筋肉注射という一連のプロセスが3~4分で終わりました。2回目の予約も、同時にやってくれました。

場所によっては、必要事項を現地で紙の書類に記入しなければならない所があるそうですが、そんな場所を選ばなくて、つくづく良かったと思います。

ちなみに、接種後、15分間は店の中にいなければならない理由は、ごく稀に、アナフィラキシーというショック症状を起こす人がおり、それに対処するためだそうです。

アナフィラキシーは、異物(ワクチン)が体内に入ったことに対して、体が必要以上に強く反応してしまうアレルギー反応で、呼吸困難、血圧低下、意識障害などを伴います。

放置すると危険ですが、エピペンというアレルギー症状を緩和する薬を注射をすれば大丈夫です。エピペンは、ピーナッツアレルギーなど持つ人たちが、万が一のために常に持ち歩いている薬です。

アナフィラキシーは、ほとんどの場合、ワクチンの接種後15分以内に起こることが分かっているため、万が一の場合に備えて、店にいてもらうのです。

私の場合、注射後にもらった5ドル分のクーポン券をどう有効に使うかを悩みながら店の中をうろうろとしていたら、15分はあっという間に経ちました。最初は日焼け止めでも買おうと考えていたのですが、レジの近くを見たら美味しそうチョコレートがあったので、それを購入しました。

アナフィラキシーが起こる可能性は、非常に低いのですが、一般的な副反応としては、筋肉注射をされた場所の痛み、発熱、倦怠感などがあります。体が異物に対して免疫を作る際の当然の反応なので、それを嫌がったり、心配する必要はありません。

私の場合は、まったくその手の症状がなかったので、逆に「効いているのか?温度管理はちゃんとしていたのか?」などが気になってしまったぐらいです。副反応は2回目の方が強いらしいので、2回目には、何らかの反応が起こることを期待しています。

ちなみに、米国では、ファイザーのものとモデルナのものが最初に認可を受け、最初はその2種類のワクチンでスタートしましたが、最近になってJ&J製のものも認可を受け、今は3種類のワクチンで摂取が行われています。

ワクチンの種類は場所によって異なり、かつ、公開されているので、その情報を使って、どのワクチンを受けるかを選ぶことが可能です。

私の場合、mRNAワクチンである、ファイザーかモデルナであればどちらでも良かったので、モデルナを投与してくれる、ドラッグストアを選びました。

この手のことになると、私は勉強しなければ気が済まない理科系人間なので、3つのワクチンの違いについて、簡単にまとめておきます。

ファイザーとモデルナのワクチンは、mRNAワクチンと呼ばれ、抗原となる新型コロナウィルスの持つ突起(スパイク)のタンパク質を作るインストラクションであるmRNA(message RNA)を直接体に投与することにより、体の中にタンパク質を作り、それを異物としてみなした体に免疫反応を起こさせるというものです。

生物は、必要なタンパク質を作る際には、自分のDNAの情報を元に作りますが、DNAに書かれた情報を読み出す際には、一度mRNAの形に転写した後で、行います。

コンピュータは、ディスクに格納されたアプリケーションをメモリに読み込んでから実行しますが、それと似ています。

コンピュータの場合は、情報を0と1の2進数として扱いますが、DNAの場合は、A(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グ.アニン)の4進数として扱うのが特徴です。

またDNAの場合には、Aを反転させたものがT、Cを反転させたものがGという決まりがあり、一つの情報に対して、反転させたものをペアとして持つことにより、情報を安定化させています。

しかし、タンパク質生成の際に必要なmRNAは片側だけなので、不安定で、すぐに壊れてしまいます。

上の説明を図にすると、こんな感じになります(DNAからmRNAに転写される際にはTがUになりますが、情報としては同義です)。

mRNAは常温だとすぐに壊れてしまうため、冷凍保存しておく必要があります。また、体の中に入って指定されたタンパク質を作らせると、すぐに壊れてしまうため、長期的な影響はありません。それもあって、ワクチンの摂取は2回必要です。

mRNAワクチンを危険視する人は、体の中に入ったmRNAがその人のDNAそのものを変えてしまう、と不安を煽っていますが、そんな心配はありません。

ウィルスの中には、自分の遺伝子を宿主のDNAに潜り込ませてしまう種類のウィルス(レトロウィルス)も存在しますが、それらのウィルスは、RNAをDNAに転写する際に必要な特殊な酵素を持っているからそんなことが出来るのです。

J&Jのワクチンは、ウィルスベクター型のワクチンで、無害(もしくは弱毒性の)ウィルス(J&Jのワクチンの場合には、アデノウイルス26型)に、新型コロナウィルスのスパイクタンパクのDNAを遺伝子操作により組み込んだ上で、人間をそのウィルスに感染させてスパイクタンパクを作るようにして、免疫反応で抗体を作らせるものです。

ベクターウィルス型のワクチンは、mRNA形のワクチンと比べて安定しているので、冷凍保存は不要だし、摂取も1回で十分です。

有効性に関しては、ファイザー製のものが95%、モデルナ製のものが94%、J&J製のものが66%というデータが公開されています。

参考までに書いておくと、英国で大規模な投与がされているアストラゼネカ製のものは、J&J製のものと同じ、アデノウィルスを使ったベクター型のワクチンです。投与後に、ごくまれに血栓が出来るという情報もあり、米国ではまだ認可されていません。

ちなみに、1月に米国の大統領に就任したバイデン大統領は、就任演説で「100日以内にワクチンを1億人に接種する」ことを宣言しました。米国の人口は、約3億人なので、摂取率33%を目指すという目標です。「就任後100日でなにをするか」は、国民の高い支持率を得るためにもとても重要で、メディアでもしばしば話題になります。

バイデン大統領は、3月中旬にこれを達成したことを、誇らしげに発表し、「次は2億人を目指す」「希望する人は誰でも受けられる体制を作る」と計画を思いっきり前倒しにしました。

日本は、ファイザー製のワクチンの入手が、予定よりも大幅に遅れているようですが、その背景には、バイデン政権によるワクチンの前倒し投与があると私は見ています。バイデン大統領が、政権のメンツにかけてもワクチンを大量投与するとなれば、ファイザーが日本への輸出よりも、米国国内への供給に力をいれざるをえなかったのは当然のことです。

しかし、上に書いたように、4月からはJ&J製の投与も始まったので、ファイザーにも余裕が生まれ、5月には、日本にも大量にワクチンを提供することが可能になると思います。

ここまで書いたところで、米国のFDA(Food and Drug Admiinstration)が、J&J製のワクチンの投与を一時停止の指示を出したとの報道がありました。アストラゼネカ製と同様に、ごくまれに血栓が出来るケースがあることが報告されたからだそうです。

どちらもウィルスベクター型のワクチンであることから推測するに、その仕組みそのものに血栓を作り出すリスクがある可能性も否定できません。

万が一新型コロナウィルスに感染し、重症化した時のリスクを考えれば、ワクチンは是非とも受けるべきですが、選べるのであれば、ファイザーかモデルナのいずれかのワクチンを選ぶべきだ、というのが私の結論です。

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image by: Girts Ragelis / Shutterstock.com

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