MAG2 NEWS MENU

競争せず心静かに生きる中国若年層「タンピン族」から日本が学ぶ事

日本だけにとどまらず、世界各国で「貧困の連鎖」と「若年層の貧困」が社会問題化しています。この歪みは何によってもたらされ、そしてこの先どちらに向かって進もうとしているのでしょうか。今回のメルマガ『j-fashion journal』ではファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、貧困がここまで進んでしまった原因を分析するとともに、政権による実質的な「最後の砦」である公的支援すら厳しい状況にある日本においては、すでにある種の身分制度が固定しつつあると考察。さらに坂口さんは、所得はおろか戸籍にまで格差がある中国の若者たちの実態についても詳細に解説するとともに、もはや競争や頑張りを放棄した「躺平主義」を唱える若者たちによる「躺平族」の大量出現が社会問題化していると指摘。その上で、このような主義主張が世界中に拡散する可能性すら予測しています。

ファッション業界からビジネス全体を俯瞰する坂口昌章さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

若年貧困層と中国の躺平(タンピン)主義

1.日本の貧困層の実態

厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、2018年の貧困線(等可処分所得の中央値の半分)は127万円。貧困線に満たない世帯員の割合を示す「相対的貧困率」は15.4%で、2015年の15.7%より0.3ポイント改善した。

17歳以下の「子どもの貧困率」は13.5%。前回調査を行った2015年の13.9%から0.4ポイント改善。2012年より連続で減少しているが、それでも約7人に1人の子どもが貧困状態にある。

世帯主が18歳以上65歳未満の「子どもがいる現役世帯」の世帯員の「子どもの貧困率」は12.6%。このうち、「大人が1人」のひとり親世帯では48.1%と、前回調査時の50.8%から2.7ポイント改善したが、依然として約半数が貧困状態にある。「大人2人以上」の世帯員では前回と同じ10.7%であった。

2.労働環境の未整備

子どもの貧困の原因は、親の収入の低さにある。ひとり親世帯の約半分が貧困である。

日本では、母親が1人で子育てをしながら仕事をしようとしても、正規社員採用は困難であり、パートタイマーやアルバイトでしか採用されない。そして、収入は低いまま固定される。

正規社員と非正規社員の賃金の差が、そのまま母子家庭の貧困につながっている。

3.公的支援の欠如

OECDの発表によると、2017年のGDPに占める教育機関への公的支援の割合は、日本が2.9%であり、比較可能な38か国中37位。OECD諸国平均は4.0%、EU23か国平均は3.9%なので、いかに低いかが分かる。

また、母子世帯の生活保護制度による「生活扶助費」は、おおよそ月額13万~14万円程度。貧困層のひとり親世帯の所得は年間122万円、月額10万円程度だから、生活保護を受けたほうが収入は増える。しかし、生活保護の壁は厚く、制度はあっても活用できないのが実態といえる。

4.貧困の連鎖

貧困は連鎖する。親の経済的困窮が子どもの教育環境や進学状況に悪影響を及ぼすからだ。

大卒の割合が50%を超え、大卒が標準となり、大学に行けない人の生涯賃金は低い。日本は依然として学歴偏重社会であり、学歴を得るには一定以上の収入が必要なのである。

5.累進課税の歪み

日本の累進課税制度では、最も所得の高い勤労世帯と高齢者で所得の低い層が同じ「税負担率」になっている。税負担率が同じでも、収入が多ければそれだけ家計に及ぼす税負担は軽い。事実上、税の累進性は機能していない。

日本の現状を見ると、ある種の身分制度が固定しつつあるように思える。大企業と中小企業、正社員と非正規社員には大きな格差があり、その格差が縮まることはない。学歴が低ければ収入も少ないままだし、子供を育てながら自分の能力を生かして成功するのも不可能に近いのである。

ファッション業界からビジネス全体を俯瞰する坂口昌章さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

6.中国経済の危機

中国は、日本以上に所得の格差が大きい。そもそも中国では戸籍に格差がある。農村戸籍と都市戸籍があり、農村戸籍の者は都市への移動が厳しく制限されている。また、大学進学でも、各省で合格者の割り当てが決まっており、都市戸籍の方が合格ラインが低く設定されており、圧倒的に有利である。

また、就職でも企業は都市戸籍保有者を採用の条件として掲げることが多い。苦労して一流大学に進学しても、戸籍差別の壁を超えることはできないのだ。

そんな中国社会に、不動産バブル崩壊、コロナ不況、西側諸国との対立による輸出減等による経済悪化に拍車をかけている。

中国は、外貨を輸出で稼ぎ、不動産開発で国内経済を回していた。企業も個人も積極的に不動産投資を行い、資産の多くは不動産で所有している。

不動産価格は高止まりとなり、最早生活のための住宅の価格を超えてしまった。投資目的で購入する人もいるが、次の買い手が見つかるかが見えない。まさに不動産バブル崩壊前夜の状況である。

既に、大手不動産会社が倒産し、不良債権を抱えた金融機関の倒産も始まっている。そういう意味では、不動産バブルのほころびは始まっているが、共産党政府の強権でかろうじて抑えている。

国内経済の要である不動産ビジネスが止まっただけではなく、外貨を獲得してきた輸出ビジネスも減少している。米国との対立、香港やウイグルの人権弾圧等の問題を抱え、中国は世界から孤立してしまった。

7.頑張らない若者の「躺平主義」

若者の就職も困難となり、失業者も増えている。また、中国では結婚のハードルも高い。お金がなければ結婚もできないのだ。貧富の格差は埋まらず、既にチャイナドリームは神話となっている。

そんな厳しい現実から逃避する動きが出てきた。それが「躺平(タンピン)主義」である。躺平とは「横たわる」の意味。

「頑張らない、競争しない、欲張らない。最低限度の消費で満足し、心静かに暮らす」のが躺平主義である。

ネット上で多くの若者が躺平主義の実践を宣言し、「躺平族」が大量に出現。中国の社会現象になっている。

ファッション業界からビジネス全体を俯瞰する坂口昌章さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

8.日本と中国に共通する貧困

日本の貧困と中国の貧困には、程度の差はあるが共通点がある。

第一に、ビジネスのルールがアンフェアであること。誰にでも平等のチャンスがあれば、努力するだけ成功に近づく。

学歴主義ではなく、同一労働同一賃金、男女雇用機会均等などが徹底されれば、身分が固定化することはない。しかし、身分の格差が既得権化すれば、機会の平等が失われる。実力があっても試合に出場できないのだ。

第二に、身分制度が固定化していること。日本も中国も貧困層は連鎖していく。日本は経済的理由で貧困が連鎖し、中国は戸籍制度により貧困が連鎖していく。

第三に、富裕層の身分が保証されていること。言うまでもなく、中国では共産党幹部には様々な特権があり、その身分は保証されている。

日本でも、最近「上級国民」という言葉が使われるようになった。制度的に上級国民が存在するわけではないが、一部の特権階級の存在と、超法規的に優遇されているのではないか、と思われているのである。

社会を支配している特定の個人や集団が固定されているということは、努力しても下克上の可能性はないということである。

ビジネスというゲームは公平なルールがあってこそ、それに熱中できる。しかし、ルールが公平でなければ、ゲームに参加することに興味がなくなることもあるだろう。

コロナ禍によって、これまで隠されていた社会の構造が次々と明らかになり、更にコロナ恐慌が来た時、世界中で「躺平族」が誕生し、社会のルール改正を求めるのではないだろうか。

編集後記「締めの都々逸」

「無理をしないで 働かないで 欲しがりませんと 寝てるだけ」

あらゆる点で中国は変化が早いですね。ついこの間まで競争に明け暮れて、金儲けに邁進していたのに、今度は「躺平族」が出てきました。気持ちはとっても分かります。もし、自分が中国の農村に生れたら絶望のあまり全てに無気力になるかもしれませんので。

でも、この気分は世界中に蔓延しているかもしれません。我々は誰かに操られ、働かされているのではないか。とにかく、努力を積み重ね、競争に勝つことが幸せになることと信じてきたけど、それは本当に正しいのか。仕事だけに集中して、恋愛も結婚もできないような人生で良いのだろうか。それ以前に、どんなに努力しても、能力のない人達が自分の上に居すわっているのはなぜなんだろう。

そういう迷いがあるなら、一度、全てを止めて、横になるのも良いかもしれません。積極的に横になることは、積極的に座る禅にも通じているかもしれません。いずれにしても、自分の内面を見つめることになるのではないでしょうか。

貨幣経済に疲れた我々は内省的な生活に向かうような気がしています。プロパガンダに踊らされずに、自分で考え、行動する。そんな人が増えれば、それだけで世界が変わるかもしれません。(坂口昌章)

ファッション業界からビジネス全体を俯瞰する坂口昌章さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

image by: Shutterstock.com

坂口昌章(シナジープランニング代表)この著者の記事一覧

グローバルなファッションビジネスを目指す人のためのメルマガです。繊維ファッション業界が抱えている問題点に正面からズバッと切り込みます。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 j-fashion journal 』

【著者】 坂口昌章(シナジープランニング代表) 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け