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加藤官房長官が“露骨な差別”。日本のワクチン職域接種で露呈する3つの大問題

現場を支える方々の多大なる努力で、スピード感をもって進められている新型コロナワクチンの接種。しかし、6月21日から開始される予定の企業や大学での「職域接種」に関しては、少なからぬ疑問の声も聞かれます。米国在住作家の冷泉彰彦さんも「筋が悪い」と見る一人。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で今回、そう判断する根拠として3つの問題点を挙げ、日本で進められようとしている職域接種に対して大きな疑問と懸念を呈しています。

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新型コロナワクチンの「職域接種」3つの問題

新型コロナワクチンの接種については、とにかくワクチンは確保できたので、どんどん打つ、そのためには可能なグループ、可能な場所からどんどん接種を実施してゆく、という方針については、一定程度は理解できます。少なくとも、全国一斉という杓子定規よりは「まし」だからです。

そんなわけで、ここへきて急浮上しているのが「職域接種」ですが、これは筋が悪いと思います。今回は3点、問題点を指摘したいと思います。

1点目は、徹底的に差別的だということです。中小企業は単位が小さすぎるので、グループ化を進めて実施するにしても、時間がかかりそうなので事実上大企業優先というのが、まず差別的です。

更に対象範囲としては、加藤勝信官房長官は「企業での接種で従業員の家族を対象とすることは十分あり得る」と明言した一方で、「非正規で働く人やアルバイトを接種対象とするかどうかはそれぞれの主体で判断してもらいたい」と露骨な差別を行なっています。

大蔵官僚だった加藤氏らしい、露骨な発想です。露骨というのは意識として差別的というのではなく、制度に即しているからです。正社員の家族は、通常の場合、その企業の健康保険など社会保険の「被扶養者」としてメンバーシップ内という扱いを受けます。ですから、その人たちのために、コストをかけるのは「福利厚生費」として無税になるのです。

ですが、バイトや派遣というのは、そのメンバーシップ制度の「外側」になります。こうした人々に対する社員食堂の扱いなどで、差別はいけないという声に応えて、厚労省は「差別するな」的な通達を出していますが、旧大蔵省的な発想からは、「外部の人に対する福利厚生は接待費であり税金をかける」という思想があります。

仮に、今回の職域接種について、非正規を対象とするか、ある企業が迷ったとします。そこで、ワクチンは無償であっても、場所を提供したり、直接間接にコストをかけるのは事実なので、どうしたらいいか、税理士に相談するとします。

そうすると、社会保険労務士などを兼ねていて、労政に詳しい税理士であれば、「今の風潮からすれば、非正規を差別してはダメですよ」という正しいアドバイスをしてくれるでしょう。ですが保守的な税理士で、税金のことしか知らない人に当たると、「外部の人間への福利厚生はダメ」の一点張りになると思います。つまり、交際費なのに福利厚生で落とそうとして国税に指摘されたら、スキャンダルだという発想法です。

そんなことは加藤氏は分かっているはずですが、そこで「非正規のコストも福利厚生で」などと指示すると、財務省がヘソを曲げてはいけないので、企業に判断を投げるというあたりは、完全に大蔵官僚的であり、正に加藤氏的なノリということになります。ヒドい話です。差別的ということもありますが、少なくともクラスター発生を防ぐ意味での感染対策にもなっていないわけです。

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2点目は、この非正規の扱いもそうですが、実際に多くの人と対面で仕事をしなくてはならない「エッセンシャルワーカー」が優先されていないという問題があります。

まず非正規の人は、どうして多くの場合にテレワークを認めていないのかというと、その多くが対人の対面業務だということがあり、また、「職場に通勤して時間拘束を受ける不自由」を受け入れないと企業が金を払わないという非人間的な制度に縛られているからです。

その制度を批判すると長くなるので、今回は止めますが、とにかく非正規の人が対人業務になるというのは宿命的なものがあるわけです。加えて、外食、宿泊、運輸、教育などのエッセンシャルワーカーの人々も、どう考えても優先されるべきです。それが、結果的に大企業の正社員優先ということになるのは全くおかしいと思います。

3点目は、これで大企業の事務仕事を、テレワーク化することで生産性を高めるという業務改革が、中途でウヤムヤになるという懸念です。

紙とハンコと日本語とに縛られているだけでなく、対面でしかマネジメントできないダメ管理職に縛られているという、日本の事務仕事の「四重苦」の解消が、これで一旦頓挫することになれば、生産性の向上など夢のまた夢ということになります。

ちなみに、最近よく耳にするのが、若手社員からの「テレワークだと生産性が上がらない」という声です。どういうことかというと「業務を進めていて、簡単な質問を対面でサクッとできないので、そこで仕事が停滞する」ということなのだそうです。

こんな問題は、セキュリティのレベルの確保できた法人向けチャット環境を整備して、先輩社員にはブツブツ言わずに華麗に即レスでアドバイスや情報提供をさせるようなマネジメントをすれば済む話です。結局は「その上」のマネジメントの間抜けさ加減という話だと思います。

しかし、職域接種が進むことで、対面が無制限にOKだということになり、テレワークが中止になれば、そうした改革のチャンスもまた消えてしまうでしょう。日本経済の衰退は、またまた加速しそうです。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

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image by: 首相官邸

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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