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サムスン電子の御曹司を抜いて「韓国一の富豪」となった男の素顔

韓国で「国民的SNS」とも呼ばれるメッセンジャーアプリ、カカオトーク。その創業者で貧困家庭の出身である男性が、サムスン電子の御曹司・李在鎔氏を追い抜き韓国一の富豪に浮上した事実をご存知でしょうか。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年を超える日本人著者が、歴代の個人最高寄付額を記録するなど、韓国の「新しい富豪のあるべき姿」を作り出しつつある金範洙(キム・ボムス)氏の素顔を紹介しています。

韓国一の富豪は誰

ラインなどと同じようなアプリのカカオトークは日本でも知られていると思う。その創業者が金範洙(キム・ボムス、55)氏だ。7月30日、米ブルームバーグによると、金範洙氏は134億ドル(15兆3,631億ウォン=1兆4,632億円)の純資産があり、121億ドルの李副会長を抜いて韓国第一位となった。金範洙氏の財産は、株価急騰で今年だけで6兆8,790億ウォン=6,550億円増えた。ブルームバーグは「成功したIT(情報技術)企業の創業者が財閥を抜いたのは、韓国では記念碑的な事件だ」と評価している。韓国で最近流行語にもなっているフクスジョ(土のスプーン)出身で、本人の能力だけで韓国最高の富豪に浮上し、歴代の個人最高寄付額を記録するなど、新たな金持ちの形を作り出している。

土のスプーン出身というのは、金のスプーン出身と対照をなす語で、いってみれば庶民出身という意味である(ちなみに金のスプーン出身は、金持ち出身という意。韓国では食事の際、金属の箸とスプーンを使うことからきている)。金範洙氏の場合は、庶民というより、かなり貧困な家庭環境だったようだ。全羅南道潭陽(チョルラナムド・ダムヤン)からソウルに引っ越してきた両親の下で、2男3女の3番目として生まれた。父親は肉体労働や大工の仕事をし、母親は飲食店で働きながら子どもたちを育てた。祖母をふくめて8人家族が狭い一間で暮らしたという。

金範洙氏は親戚の家の小部屋で勉強しながら、5人兄弟の中では唯一人、大学に通った。ソウル大学の進学に失敗して浪人していた時代には、心が乱れるたびに「血書」を書いたエピソードも有名だ(どのような血書かは筆者はおさえていないが、必死合格とかそんなことであろう)。

このように極貧を経験した金範洙氏は、自ら、貧困に対するトラウマについてしばしば言及した。

「貧しい子供時代を経験したわたしは、30代に至るまで『金持ちになること』だけが人生の成功と思って走ってきた」

と告白する。金範洙氏は今年1月、妻と子どもを含む親戚にカカオ株式33万株を贈与した。これは幼年時代に共に苦労し、犠牲的に自分の面倒をみてくれた姉や弟らへの感謝の感情が反映されたものと見られる。

今年2月には、全財産の半分を寄付したことを明らかにしたが、これも金範洙氏の哲学が色濃く表れたものと見れよう。自分が貧しさの中で苦しんできただけに、寄付によって社会問題の解決に少しでも貢献したいという意志の表れだったわけだ。金範洙氏は当時、「貧富の格差で苦労の多いこの世を建て直すべく努力し、病気で苦しむ人々を助ける人々に対する支援を惜しまない計画を持っている」と明らかにしている。

金範洙氏は、親からの財産を譲り受けることなく自らの力で最高の企業を築き上げた。彼は1992年、三星SDSの三星データシステムに入社したが、1998年、スタークラフトのブームを目にし、起業を決心した。漢陽(ハンヤン)大学前に「ミッションナンバーワン」という名のインターネットカフェをオープンした後、1998年11月にハンゲームを創業することになる。2000年には、三星入社同期だった現在ネイバーのCEOである李海珍(イ・へジン)氏とハンゲームを共同運営する。ハンゲームは囲碁やテトリスなどのウェブボードゲームの人気を基に急成長を遂げるものの、金範洙氏は2007年8月、代表職を辞め、忽然と米国に向け出発する。家族と多くの時間を一緒に過ごすことができなかった申し訳ない気持ちのためだった。

スマートフォン時代の幕開けを受け、金範洙氏はカカオトークと共に戻ってきた。無料メッセージ送信で大人気を博したカカオトークは、発表から4年後、2013年には加入者が1億人を突破するほどの大人気を博している。以後、国内2位のポータルサイトのダウム(Daum)と合併、カカオバンク、カカオタクシーなどを発売するなど、成長に成長を重ねる成長神話を作り上げている。

金範洙氏は代表を辞めるおり、社員らに電子メールを送ったのだが、そこには、「船は港に停泊している時が最も安全だ。しかし、それが船の存在理由ではない」という言葉を残し話題になった。常に挑戦をやめない精神が、金範洙氏を大韓民国最高の富豪の座に押し上げたことは間違いない事実だろう。

(無料メルマガ『キムチパワー』2021年8月2日号)

image by: Sharaf Maksumov / Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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