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「モノを売ったら終わり」じゃない。今さら聞けぬマーケティングの本質とは

ビジネスの現場に身を置く人であるならば、見聞きしない日はないと言っても過言ではない「マーケティング」という言葉。しかしながら、その本質について完璧に理解されているという方は多くないと思われます。そんな「いまさら聞けないマーケティングの基礎知識」をレクチャーしてくださるのは、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。坂口さんは自身のメルマガ『j-fashion journal』で今回、変化し続けるマーケティングの定義と概念を順を追い解説。さらに不況業種の百貨店の再生を例に取り、「マーケティング的発想」を具体的に説き明かしています。

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マーケティングについて考える

1.マーケティングの定義は変化し続ける

マーケィングの定義は時代と共に変化している。コトラーは、モノ(製品・商品)を中心にした「マスマーケティング」(マーケティング1.0)から始まり、「生活者(顧客)志向のマーケティング」(マーケティング2.0)に進化したと定義している。

マスマーケティングでは、大量生産した商品を大量に販売するために、オートメーションを進化させ、チェーンストアを組織した。広告・宣伝を行い、商品を訴求する。こうした一連の活動がマスマーケティングである。

現在でも、多くの企業はマスマーケティングを基本にして、企業活動を行っている。また、多くの海外生産もマスマーケティングの一環である。マーケティングの定義はアップデートされても、ビジネスは継続しているのだ。少なくとも、ビジネス全体の6割以上はマスマーケティングで動いているのではないか。

やがて、供給が重要を上回り、「生活者志向のマーケティング」が生れた。大量生産した商品を販売するという発想ではなく、顧客が必要とする商品を生産する発想への転換である。

ジャストインタイム、CAD/CAMの活用等の多品種少量生産システム。クラウドファンディング等も生活者志向マーケティングといえるだろう。

また、DXと呼ばれる革新や業態転換の多くは、マスマーケティングから生活者志向のマーケティングへの転換を志向しているのである。全体のビジネスの中で、生活者志向のマーケティングで動いているのは、3割以下ではないか。

現在は、グローバル化とIT化が加速し、「価値主導のマーケティング」(マーケティング3.0)の領域に入っている。単なる収益向上のための手段ではなく、企業や組織が世界を良くするための事業・活動を展開するための戦略と定義されている。

価値主導の典型的なテーマが「SDGs」である。エシカル、ソーシャル、サスティナブル等の発想は、価値主導のマーケティングである。

現在における価値主導のマーケティングは、プロモーションのテーマとして使われることが多い。マスマーケティングで動いている企業が価値主導のマーケティングを提唱することは自己矛盾をはらんでしまう。大量生産大量販売は大量廃棄を生み出し、環境を汚染する。また、価格競争は生産拠点の移転を促し、物流のためのエネルギーを増大させる。また、経済格差を生み出し、それが人権侵害につながるからだ。

価値主導のマーケティングは、ビジネス全体の1割以下なのではないか。あるいは、現在は思想、政治、プロモーションの段階であり、ビジネスへの展開はまだまだ先なのかもしれない。

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2.顧客志向のサービスが重要に

マーケティングはモノの生産・販売から産まれた概念だが、コモディティ化が加速するにつれ、モノよりも「顧客志向のサービス」が果たす役割の重要性が増している。

セオドア・レビットは「すべての企業は顧客にとってサービス業である」という顧客志向の認識に立ち、「あらゆる企業がサービス的要素を持つ」と指摘している。

また、ラッシュとヴァーゴによれば、従来のモノ中心のマーケティングをGDL(Goods Dominant Logic)といい、顧客は単に購入者として捉えられていたが、SDL(Service Dominant Logic)では、モノに限らず経済活動は全てサービスであり、顧客は購入者ではなくサービスの利用者であるという考え方を提唱している。

モノを生産して販売する行為は、モノを提供するサービスである。顧客がモノを購入するのも、モノを所有するために購入するのではなく、モノを使う体験や満足感等が目的である。したがって、マーケティング活動は、商品を販売することで完結するのではなく、購入後の顧客の体験までを意識しなければならない。

モノとコトの区別がなくなり、全てがサービスという概念に集約されることで、飲食、旅行、エンタメ、オンラインゲーム、教育等、全てがマーケティングの対象になるのである。

3.ファッションマーケティングとは?

狭義のマーケティング活動は、「商品またはサービスを購入するポテンシャルのある顧客候補に対してブランディングやマーケティング・コミュニケーション等を通じて購買行動やサービス利用に働きかける行為」である。

ファッションマーケティングは、この定義に近いが、ここにファッションの特性が加わる。

ファッションには、「流行」がある。流行とは変化であり、変化を求めるのは、「飽きる」からである。人は同じ服を着続けたり、同じ料理を食べ続けると飽きてしまう。人は、同じ仕事を続け、同じ服を着続け、同じ食事を続ける生活も可能である。経済的に考えれば、むしろ合理的な行為だ。

しかし、変化のない生活は、刑務所の生活に近い。自由を抑圧されていると感じる人も多いだろう。

変化を求める度合いにも個人差がある。変化を嫌う人もいるし、極端に変化を望む人もいる。

ヨハン・ホイジンガは著書の中で、「人間とは『ホモ・ルーデンス=遊ぶ人』のことである。遊びは文化に先行しており、人類が育んだあらゆる文化はすべて遊びの中から生まれた。つまり、遊びこそが人間活動の本質である」と述べている。

更に、「遊びの5つの形式的特徴」として、

  1. 自由な行為である
  2. 仮構の世界である
  3. 場所的時間的限定性をもつ
  4. 秩序を創造する
  5. 秘密をもつ

を挙げている。

加えて、遊びの機能的特徴として「戦い(闘技)」と「演技」を挙げている。

ファッションには、社会的規範と遊びの要素が混在している。時として、経済合理性を超越してしまう。

ファッションマーケティングは複雑だ。経済合理性を超越している要素もあり、経済合理性に忠実も要素もある。社会的な要素もあり、個人的な要素もある。厳密な規範もあれば、規範を否定することもある。

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4.マーケティング的発想

マーケットは「市場」であり、市場とは消費者、生活者の総体である。生活者は多様な歴史、文化、宗教、思想、価値観を持っている。しかも、時代の変化と共に、生活者の嗜好や価値観は変化する。常に変化し続けるのが市場なのだ。

したがって、市場に対応するマーケティングも常に変化し続ける。新たな技術が生れれば市場は変化するし、新たな政治・経済等の状況が生れれば、当然市場は変化する。

それらの変化を予測するために、マーケティングの定義は時代の少し先を進んでいる。最先端のマーケティング理論に基づいて経営戦略を立てても、それが利益につながるというわけではない。

マーケティングは常に未来にゴール目標を設定し、そこから逆算して戦略を立案する。現状を起点として、積み上げて未来のゴールを決めるのではなく、必ず未来を起点にするのである。

例えば、不況業種の百貨店のマーケティングを考えるならば、こんな百貨店があれば顧客に支持され、顧客を満足させることが可能になるというビジョンを考えることから始まるのだ。

極端な例でいえば、例えば、「ヴィーガニズムの百貨店」を想定する。常にヴィーガニズム推進の情報発信を行う拠点でもある。世界中のヴィーガンに支持されるだろうし、店頭販売だけでなく、ネット通販の展開も可能になる。

ヴィーガニズムは食が中心になるので、1階はヴィーガンのためのレストラン、カフェを配置する。これが百貨店の顔となる。

そして、デパ地下は食料品、惣菜、スイーツ等だが、肉だけでなく、卵、乳製品等、動物性の食品は全て排除する。

婦人服、紳士服の売場もレザー、ウール等は排除。靴もレザーシューズは排除する。

あるいは、「オーガニックの百貨店」はどうだろう。プラスチック、化合繊、添加物等を徹底的に排除する。つまり、排除すべきものが変わるのだ。

百貨店は生活に関わる商品を取り揃えることができるので、ライフスタイルを表現するのに適した器である。何でもある百貨店から、何かが排除された百貨店へ。それは人の暮らしに対する提案でもある。

もし、現状の百貨店の売場構成や組織を前提にして、改善プランを考えても、おそらく現代の消費者に支持されるものはできないだろう。それはマーケティング的発想ではないのだ。

編集後記「締めの都々逸」

「一度 買っても 浮気な客は 飽きて 捨て去り 次に行く」

私がマーケティングを勉強したのは、20代でした。マーケティングを勉強すれば、フリーランスで生活できるかもしれない。そんなわけはないのですが、当時はマーケティングコンサルタントが流行っていたのです。

マーケティングの分厚い本を買い込んで、読み始めましたが、全然ピンと来ない。これ、どこの話。日本じゃ無理だよね、と思いました。マーケティングの本に書いてあることは、アメリカの事象ばかりで、日本とは市場の性格が大きく異なるからです。

それでも、問題解決のための論理的アプローチには魅了されました。実際のビジネスにおいては、論理的に考える人は意外と少なかったからです。でも、論理的に考える人が少ないということは、論理的に考えた提案を理解してくれないんですよね。すぐにできない理由を並べ立てるのです。これは現在まで続いています。

できるできないと言う前に、「これをやらなきゃダメなんだ」という強い思いを持って欲しいのですが、サラリーマンにとっては難しいんでしょうね。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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