2021年12月10日の深夜から11日にかけて、アメリカの4州を中心に甚大な被害をもたらしたトルネード。日本でも多くのメディアがその様子を報道しました。メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の著者にして米国育ちの元ANA国際線CA、元お天気キャスターという健康社会学者の河合薫さんは、自身がアメリカで過ごしていた際に教わったトルネードに関する知識を語っています。
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「トルネード警報」で死を覚悟した、あの日
クアッド・ステート・トルネードーーー。
アーカンソー、ミズーリ、テネシー、ケンタッキーの4州を中心に、数十の竜巻が発生し、甚大な被害をもたらしました。
日本のテレビでも現地の様子が報じられ、その破壊的な被害に、驚いた方も多いのではないでしょうか。
金曜(10日)の深夜から土曜日(11日)の早朝に襲来した、今回のトルネードは、1925年に3つの州で発生した「Tri-State Tornado」に並ぶ過去最悪の被害を出しているとして、米国メディアは「Quad-State Tornado」と呼んでいます。
また、米国メディアは「夜間のトルネードは、昼間に比べて死者が出る確率が2倍以上」になると指摘。今回発生した30の竜巻のうち、最も被害の大きかったメイフィールドの町を襲ったトルネードは、30,000フィート超(約9000メートル)の高さまで、瓦礫を持ち上げていたそうです。
雲は地上から、約10キロ前後の対流圏で発生します。30,000フィート以上って事は、対流圏界面と呼ばれる「雲の天井」まで雲=積乱雲が発達。その内部では、瓦礫を持ち上げるほどの猛烈な上昇気流が、発生していたのです。
竜巻(トルネード)の強さを表す「藤田スケール」の、最大のEF5級に相当する可能性も指摘されており、これは時速322km以上の風速を出すほどの威力です。
私が子供の頃住んでいたアラバマ州も、トルネードの通り道でした。6月から10月までは、トルネードシーズンで、3日に1回くらいは、トルネード警報が出されていました。発生するのは大抵、最高気温が記録される午後でした。
トルネード警報が出された時の空は、不気味なほどおどろおどろしいのです。
今にも空が落ちてきそうなほどの鉛色。日本では見たこともない空でしたから、初めて見た時は「もう死んじゃうのかも」と、慌てて日本の祖父母に「遺書」を書いたりして。空を見上げるだけで、命の危険を感じって、すごいですよね。
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一般的な南部の家には地下室があります。トルネード警報が出た時の避難用です。地下室がない場合は「バスタブに隠れろ!」と教わりました。
しかし、時代が変わり、南部にもカリフォルニアスタイルの家が並ぶようになりました。こういったハリケーンやトルネードに弱い家が増えたことも、被害を大きくさせていると指摘する専門家は少なくありません。
実際、1992年にハリケーンアンドリューが上陸し、甚大な被害をフロリダ州やルイジアナ州にもたらした時、壊滅的な被害を受けたのは伝統的な南部の家ではなく、カリフォルニアスタイルの家々でした。
子供の頃、「トルネードの幅は狭い」と教わってきました。私が通っていたミドルスクールの近くをトルネードが通った時には、道路の反対側の教会の屋根が吹き飛びました。一方、学校は無事。窓ひとつ割れていませんでした。
しかしながら、今回のトルネードは過去の経験が役立たないほど大きい。被害状況をテレビで見た時には、あまりに広範囲の家々が壊されているので、トルネード自体が過去にないほど大きなものだったことが一目でわかりました。
米国には「ストームチェイサー」と呼ばれる人たちがいて、小型の観測機器を車に積んで、トルネードに接近し、その構造を観測し、予測に役立てようとしている人たちもいます。自らトルネードに接近するわけですから、まさに命がけです。
自然災害の中でも「気象」は、予測が可能な分野です。日本でも富士山レーダーが1964年に設置されましたが、そのきっかけとなったのが伊勢湾台風です。富士山レーダーのおかげで、多くの人命が救われました。
なのに、その予測を遥かに超える事態が世界中で発生している。温暖化や都市化などの影響で、人の命を危険に晒す、予測不能な極めて破壊的な現象をもたらす「雲」が頻発している。実に恐ろしい。
グリーンエネルギーやSDGsがトレンドですが、未来のためだけでなく、今、この時間も危機は始まっているという認識を、世界中、特に日本人は持つ必要があるように思います。
みなさんのご意見、お聞かせください。
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