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「普通にすごい」って正しいの?あなたも使っている“チャット言葉”の矛盾点

チャットの中で使われることばの中には、さらりと流してしまうけれど、よく考えるとどういう意味なのか…と頭を抱えるものも多く見られます。そこで今回は、朝日新聞の元校閲センター長という経歴を持つ前田安正さんが、自身のメルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』の中で、チャットことばの中から矛盾した言葉を並べる「形容矛盾」について熟考しています。 

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「普通にすごい」って何だ? 全然、普通じゃないぞ

チャットの中で使うことばを「チャットことば」として、前回「ある意味」「別の意味で」などの使い方について、書きました。今回も、少し気になることばの使い方を見ていこうと思います。

それが「普通にすごい」などに使われる「普通」についてです。

【例】
大谷翔平選手の活躍は、普通にすごい。

「普通」は「他と比べて特に変わらないこと」を言います。そこから派生した「普通に」は「一般の基準で」という感覚が生まれます。

たとえば「この食堂は普通においしい」と言えば、「値段のわりに」などの前提をつけなくても「一般的においしい」ということを表現できます。あくまでも一般的な基準に照らして、という表現となります。主に話しことばとして俗に使われるものです。

一方、大谷選手は米大リーグの2021年シリーズで、投手として9勝2敗、防御率3.18、奪三振156、打者として打率.257、本塁打46本、打点100など、過去に類を見ない活躍をしています。

この場合の「すごい」は、「常識では計り知れないほどの能力・力を持っている」という意味です。この「すごい」成績に対して「普通に」ということばを重ねることは、形容矛盾になります。

【改善例1】
大谷翔平選手の活躍には、目を見張るものがある。

「目を見張る」という慣用句もあります。活躍に驚いた、という意味では「呆気にとられた」「恐れ入る」「驚天動地」などのことばもあります。少し具体的に書くなら、

【改善例2】
大谷翔平選手の二刀流の活躍は、これまでの野球の常識を打ち破るほど、衝撃的な出来事だった。

などとすれば、活躍の内容に触れることができます。この後に成績などを書き加えれば、より説得力のある文章になります。

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形容矛盾の表現として次のようなものもありました。

「わりと本当にすごい」

ある商品に対するコメントとして書かれていたものです。

「わりと」は、「わりあい(に)」という副詞のくだけた言い方です。「この冬はわりあい(に)、寒い日が少なかった」という具合に使います。漢字を当てると「割合(に)」となります。それが次第にくだけて「わり(割)に」となり、さらに「わり(割)と」というふうに変化したものです。

プラスなのかマイナスなのか

いずれも、予想していた程度を少し超えていた、期待を少し上回っていた、という意味です。この場合、「わりあいつまらなかった」「わりあい面白くなかった」などのように、マイナスの表現には使われません。

「本当に」という副詞は、「程度が甚だしい」という意味で、まちがいないと思えることを強調するときに使うことばです。

この場合の「すごい」は「程度が甚だしい」「常識では考えられないほど並外れている」という賞賛の意味となっています。これが、

わりとすごい=予想していたよりすごい
本当にすごい=並外れたほどすごい

というように、「わりと」と「本当に」が、それぞれ単独で「すごい」にかかるのであれば、違和感なく成立します。

「思っていた以上に、本当にすごかった」という趣旨として、「わりと=思っていた以上に」を使ったのかもしれません。しかし、くだけた言い方が用法として成立していないので、やはりしっくりきません。

しっくりこないという感覚がどの世代と共有できるのか、ことばの揺れがどの段階で人口に膾炙するのか、という点も興味深いところです。

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image by: Shutterstock.com

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未來交創株式会社代表取締役/文筆家 朝日新聞 元校閲センター長・用語幹事 早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了 十数年にわたり、漢字や日本語に関するコラム「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」を始め、時代を映すことばエッセイ「あのとき」を朝日新聞に連載。2019年に未來交創を立ち上げ、ビジネスの在り方を文章・ことばから見る新たなコンサルティングを展開。大学のキャリアセミナー、企業・自治体の広報研修に多数出講、テレビ・ラジオ・雑誌などメディアにも登場している。 《著書》 『マジ文章書けないんだけど』(21年4月現在9.4万部、大和書房)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(すばる舎/朝日文庫)、『漢字んな話』(三省堂)など多数。

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