米国の一企業がウクライナ戦争に協力する「ありえない現実」
内田:ウクライナ戦争の話ですけど、今回みたいな戦争は本当に「情報」がすごく重要になっているじゃないですか。こういう時、エンジニアに出来ることって多いのかなと思ったりしたんですけど、その辺お二人から見てどうですか?
中島:ボランティアのエンジニアたちがロシアのサーバーを攻撃するということが今始まっています。あれは結構、面白いかも。僕もやろうかなと思って一応グループには入ったんですけど(笑)。そのグループは「このサーバーを叩け」みたいな、ただ単にサーバーのURLと、IPアドレスだけが送られてくる非常に不思議なグループなんです。
内田:それが送られてきて、みんなで攻めていくんですか?
中島:それなりに自分で考えた方式でサーバーにアタックするという。
内田:そういうやり方があるんですね。私からするとまったく訳わからない世界です(笑)。
夏野:今はシステムエンジニアだとか、コードを書ける人をエンジニアって言うイメージが強いんですけど、今までの歴史上、エンジニアってそもそもは「ハードエンジニア」が主体で、特に戦争においてはハードエンジニアが重要だったんです。でも、今回の戦争は完全に「ソフトウェアエンジニア」がものすごく重要になっている戦争だなと思います。特に兵器の種類も、ハードエンジニアが得意な戦車などが、どちらかというとソフトウェア的な「画像認識」に基づいているんです。上空から落下する「FGM-148 ジャベリン」(アメリカの歩兵携行式多目的ミサイル)による攻撃も、どちらかというと「ソフトの勝利」だと思うんです。今回、ソフトウェアエンジニアが主力になってしまった戦争が起きていて、それは「現代兵器にはソフトウェアが重要だ」という面もあるんですけど、もう一つすごいことがあります。例えば、Googleマップに「ウクライナコントロールマップ」っていう共有マップがあるんですよ。これはSNSで発信された情報に基づいて、今ウクライナの戦況がどうなっているのかっていうことを、Googleマップ上に落とし込んでいるマップなんです。きわめて正確に、今現在ウクライナの戦闘状況がどうなっているのかということを世界中に公表しちゃっているわけです。こういうものを情報機関でも何でもない人たちが情報提供できる戦争って、僕にとっては初めての体験だったので、そういった意味では、これからの戦争のあり方を本当に塗り替えてしまうような衝撃的な戦争になっているなという感じがします。
中島:そもそも、一企業であるSpaceX社が戦争している片方の国に協力するとか、今までではあり得ない話ですよね。
夏野:びっくりします。
中島:確かTwitterでイーロン・マスクに依頼が来たんですよね。
夏野:いきなりTwitterで依頼が来た後、何日か経ってウクライナ政府に通信機が届くっていうスピード感がすごいですよね。
中島:あり得ないですよね。
夏野:あり得ない。例えばマリウポリ(ウクライナ東部のドネツク州にある都市)からあがってくる映像って、大部分がイーロン・マスクの提供したスターリンク経由なんじゃないですかね? ウクライナ国内のインターネット回線は落ちているはずだから。
中島:周りを塞がれちゃったらダメですもんね。
夏野:恐ろしい時代の進化ですよ。しかもロシア軍の「進化についていけてなさ感」が、ものすごく日本企業に通じるものがあって。時代が変わっているのに「いまだに戦車でやっているの?」みたいな感じがヤバいです。
内田:本当にロシアって軍事大国なのかなって思っちゃいましたけどね、映像とかを見て。
夏野:でも、今までの軍事力っていうのは、戦車の台数とか、持ってる飛行機の機数とか、核弾頭の数とか、兵士の人数とか、そういったもので測っていたので、ロシア軍は強大なんです。ただ、占領戦と防戦ってまったく違うので、そういった意味では、その違いは勿論あると思います。
内田:今回、「世界中から個人が参加できる戦争」っていう感じのイメージがあって、戦争のイメージが変わりました。いろいろな所で多発してもおかしくないんじゃないかという怖さを感じますけどね。
夏野:いや、逆じゃないですかね。僕には、この情報網がかえって「戦争の抑止力」になる時代が来ている感じがしますけどね。つまり、偽旗作戦もそうだし、残虐な行為とかもそうなんですけど、今まではバレないから、前線でやったことは相手のせいにしてさらに攻め込むみたいな。そういう20世紀的な戦い方がまだ通用すると思ってたロシア軍に対して、情報がどんどん伝わることによって、彼らも窮地に追い込まれるわけです。しかも、電波が通じなくなっちゃったから、携帯電話で自分の母親との会話が傍受されるみたいな、もうめちゃくちゃ(笑)。「これは第二次世界大戦か?」みたいな事が結構起きちゃっていて。要は、これって完全にロシアが「情報戦争」についていけていないっていうことですよね。そういう通信機器も整備していないし、この新しい時代にまったく対応できていない。だから、今のロシア軍は、本当に敗戦直前の日本軍みたいな状況に陥っている感じがします。
中島:そうですよね。今回「相手がロシアでよかったな」みたいなことは思いました。この後、中国がこういうことになったら大変ですよね。彼らはどんどんソフトウェアが強くなってるじゃないですか。僕、少し前にアメリカのシンクタンクが対中国の防衛の話をまじめにしている会議に出たことがあるんです。その時にアメリカ政府の要人とか、そこから雇われたシンクタンクの人たちが本気で、アメリカ各地にいる中国人が裏切るって言うんですよ。例えば、Googleで働いている中国人だったり、大学で教授をしている中国人とかが、いざとなったらアメリカを裏切る可能性があるから、準備した方が良いって本気で言ってるんです。怖いでしょう?(笑) それって普通ありえないじゃないですか。中国からアメリカにほぼ帰化してGoogleで働いてる人は幸せなんだから、中国を応援するはずがないですよね。多分、大半の人はそんなことないんだけど、でも今何十万人といるわけで、そのうちの5%でも「実はスパイだった」とか「あとからスパイになりました」とかなると、アメリカ国内はグタグタになりますから、それは結構本気で心配しているみたいです、彼らは。
夏野:そこがアメリカの弱さですよね。だって、本当にスパイにするんだったら、そんな判りやすい中国系の人をスパイにする訳ないじゃないですか。それって第二次大戦中に日系の移民を強制収容所に入れたのだって分かりやす過ぎるでしょ。むしろ全然関係ないアングロサクソンの人間を金で買収した方が絶対いいですよね、バレないから。それはトランプ以来の馬鹿さ加減。そういう人ってどこの国にもいますよね。日本の政治家でも、本当馬鹿じゃないのっていう発言を大真面目にしている人がいっぱいいる。アホな選挙民に向けてのロールプレイな感じがします。そんなわかりやすいことしないでしょう。
中島:ちなみにイーロン・マスクですが、今度はテスラ社でもやったんですよ。ウクライナ人って結構いいソフトウェアエンジニアがいて、「テスラで働いているウクライナ人が国のために戦うんだったら三ヶ月間有給休暇をあげる」っていうアナウンスをしたんです、すごいですよね。
夏野:でも、三ヶ月は短いですね。
中島:三ヶ月は短いです。三ヶ月で勝てるかっていう問題はある。
夏野:行くのに二週間くらいかかるし、帰ってくるのに二週間ぐらいかかる。正味二ヶ月か。
中島:でも、一企業が「戦争休暇」を出すという。
夏野:ちょっといいですね。
中島:いいですよね。やっぱり決断の速さはすごいですよね、あの会社。
夏野:中国の話で言うと、やっぱり中国はエンジニア力もあるから怖いんですけど、中国ほどの「忖度」の国はどこにも無いんです。戦時中の日本もそうだったじゃないですか。前線はボロボロに負けているのに良い情報しか言わないとか、今回のロシアもそうだけど。でもよくよく考えると、昔の戦争って全部それで負けているんです。だから中国の怖さっていうのは「忖度」。日本企業の低いレベルの忖度から、ロシアの高度な軍事的忖度まで、この「人間の忖度が組織を滅ぼす」っていうことを、習近平は今めちゃめちゃ学んでいる感じがするんです。
中島:でも面白いですよね。じゃあ、忖度を出来ない、もしくは忖度しようとしたら分かってしまうような組織作りはどうしたらいいのかっていうことは、会社でも国でも大事な話になってきますよね。
夏野:そう、そこですよ。まだ有料版じゃないから、この後は言わない(笑)。
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