ロシアの軍事侵攻開始から100日以上が経過するも、未だ激戦が続くウクライナ紛争。食糧危機を揺さぶりの道具に使うなどして世界の批判を集めるプーチン大統領ですが、戦況はこの先どのような推移を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、両国の戦争継続力などを踏まえつつ今後の戦争の行方を分析。さらに戦後の世界新秩序構築に日本が果たすべき役割についても考察しています。
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ウクライナ戦争の推移
ウクライナ東部での戦争は、ロシア軍の主力がセベロドネスクを把握し、ウ軍は撤退した。しかし、ドネツ川西側の高台のリシチャンスクで反撃に出て、セベロドネスクの2割を取り戻したという(編集部注:6月4日時点)。
ロシア軍は、ポパスナ高地にサーモバリック弾の発射ができる多連装ロケット砲TOS-1を置き、周囲のウ軍を攻撃している。サーモバリック弾は、周囲の酸素を奪い取るので地下にいても酸欠で死ぬことになる。
このため、1日で100人の兵士が死んでいると、ゼレンスキー大統領も発言している。よって、このロケット砲をウ軍は叩かないといけないが、まだ、全部を排除できていないようである。
この高地の榴弾砲やロケット砲を潰すのに、M777榴弾砲を使うしかないが、安全な場所からの砲撃ができず、危険を冒して、高地に届く25キロ以内で砲撃している。この距離だとロシア軍の榴弾砲が届くので、両軍の砲撃戦になっている。ロケット砲は20キロ程度であり、届かない。
しかし、突入を繰り返したセベロドネツク攻略のロシア軍主力の損害も大きく、攻撃力が弱くなってきたようだ。このため、ウ軍も反撃ができることになった。
この状況で、空輸可能な80キロの射程距離があるM142高機動ロケット砲(HIMARS)4門が緊急でウ軍に供与されることになった。しかし、射程300キロのM26ロケット弾(ATACMS)の供与はしない。ロシア領内を攻撃できるので、ロシア軍を過度に刺激してしまうからだという。
もう1つ、ウ軍に空対地ミサイル「ヘルファイア」搭載可能なドローン「MQ-1Cグレーイーグル」4機を売却する。これにより、大幅な戦力アップになる。この攻撃機でロシア領内を攻撃しないという覚書を取り交わすようで、米国はロシアの負け過ぎも警戒している。
このように、ウ軍の攻撃力が増強されているのに、東部でも大幅に攻撃力が落ち、4月上旬に任命されたばかりのロシア軍アレクサンドル・ドボルニコフ総司令官が更迭されたようで、陸空の連携攻撃ができずに、陸軍の損害が大きくなり、その責任を取らされたという。新総司令官はゲンナジー・ジドコ軍政治総局長であるという。
しかし、この問題の根本には、装備に問題があり、各部隊に暗号化された無線機が必要であり、空軍パイロットとの交信ができないと達成できない。
しかし、陸軍に暗号化無線機は配備されていない。配備したと思われる無線機は、高級将校の汚職で闇市で売られてしまっている。
このため、現状では陸空連携攻撃はできるわけがない。今の無線機で交信すると、攻撃位置がウ軍に分かり、待機したスティンガーミサイルで撃墜されるだけだ。
ということで、東部セベロドネツク攻撃をしているロシア軍の一部で局地的な反乱が起こり、この反乱で攻撃力が落ちているようである。この責任を問われたことが大きいはずで、空陸連携攻撃失敗は見せかけであろう。プーチンは、6月12日の「ロシアの日」に勝利宣言する予定が、できなくなる心配が出てきた。
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一方、ロシア軍は、主力を東部に持って行ったことで、50年以上前のT-62戦車を近代化改修して、ヘルソン地域に配備したが、ヘルソン州での反撃をウ軍は開始した。このため、撤退するロシア軍は、川にかかる橋を複数個所破壊したが、ウ軍はドニエプル川支流のイフレット川を渡河して、ウ軍は20キロ前進して、そこで停止した。
まだ、本格的な反攻ではないようである。補給路になっている高速道路を守備するロシア軍を攻撃しないで止めた。M777榴弾砲や戦車などの到着を待っているのであろうか。来るべき装備がセベロドネツク反撃に回された可能性もある。
ハルキウでは、ウ軍がロシア国境地域のロシア軍を叩いている。ロシア軍は防御一方である。ドイツから供与されたP2000自走榴弾砲が活躍している。このため、徐々にロシア軍は後退している。
クビャンスク方面でドネツ川のルビージュネで渡河したウ軍も停止していたが、体制が整ったのか、再度、攻撃を開始した。徐々に新兵の訓練が終わり、前線に配備ができ始めているようだ。ロシア軍はクビャンスクの陣地を強固にして、ウ軍の攻撃を待ち受けている。ウ軍の損害も大きくなる可能性が高い。
ロシア軍も、戦死者数が少なくなり、無理な攻撃をしないなど、やっと、この戦争に適合し始めたが、都市攻撃では大きな損害を出している。ロシアは、戦争ではないので、国民皆兵の徴集はできないで、兵員不足が深刻で、これ以上の攻撃ができなくなっている。
このため、ロシア軍内部や戦争推進派の間では「クレムリンが戦争勝利のために十分なことをしていない」と、批判的な意見が増え続けている。戦争宣言をして、国民皆兵で徴兵を行い、ウ軍に勝つべきという。この強硬派の裏にパトルシェフ安全保障会議書記がいる。
一方、ブリアート共和国の地方議会では反戦的な動きもあり、国内分裂が激しくなっている。地方の兵徴集で戦場に行き、死亡する人が増えて、これ以上の死亡者を出さないように戦争を止めるべきという。地方の貧しい若者の犠牲が大きく、ロシア人以外の民族の犠牲が大きいようである。
このため、ロシア政府は、マスコミに対して「戦争が100日目であることや、いつまで続くのか」の報道を禁止した。世論の反戦的な行動を抑える必要があるためであり、反戦的な世論の高まりに危機感を持っているようだ。
そして、ロシア軍のパイロット不足は深刻で、5月27日にウ軍MIG29がロシア軍SU-35を撃墜したという。戦闘機の性能では、勿論4.5世代のSU-35の方が数段上であるが、訓練度合いが違い、ウ軍MIG29に負けたようである。
しかし、資金的には十分あり、ロシア制裁でも軍資金37兆円が手に入るようである。今年の石油・天然ガス収入は約2,850億ドルに達する見通しで、戦争継続は資金的には問題なくできるようだ。
軍備もソ連時代の大量の武器、例えばT-62戦車などを倉庫から出して利用すれば、性能は低いが、戦争の継続はできる。しかし、精密誘導ミサイルはなくなり、敵の陣地や都市を完全に破壊するしかない。
その上に、中国の習近平は「経済制裁に触れない形で、ロシアへの経済支援策を探すように」命じたようだ。ということで戦争継続力はある。
しかし、プーチンが4月にガンの治療を受けたとCIAは明らかにしたが、国内世論の動向からプーチンも停戦を視野に入れた可能性が出てきたようだ。
一方、ウ軍の装備は、欧米から供与されて、徐々にロシア軍を仰臥することになる。しかし、敵の陣地に攻撃する場合は、戦死者数が大幅に増加してくるし、長期の戦争には資金が必要であり、その調達が心配である。長期の戦争で世界での関心がなくなるからだ。
このため、ウ軍としても、短期決戦が必要になる。その後、停戦しないと、資金の枯渇と、民間人と軍人の死亡者数が大きくなる。
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戦争後の世界はどうなるのか?
戦争は、ロシアが戦略上、世界から孤立しているので負けることになるが、ウクライナ経済も疲弊しているので、世界の関心がなくなると、戦争継続ができなくなる。
ということで、どのように戦争を止めるかであるが、ロシア国内の強硬派が強いと戦争拡大になる。一方、地方議会を中心に反戦機運が高まる。ロシア国内世論の動向が重要なことになっている。
一方、ウクライナ側では、米国の政治情勢が大きく関わることになる。特に共和党トランプ派が力を持つと、米国一国主義で、ウクライナ支援を止める可能性がある。共和党内のペンス氏が率いる主流派とトランプ派の動向が、今後の米国支援がどうなるのか、非常に心配である。
11月に中間選挙が迫り、インフレ放置の民主党が負ける可能性が大である。バイデン大統領支持率は41%と低く、国内分裂状態である。
共和党でも主流派とトランプ派がいて、11月の選挙で、どちらの候補が共和党の候補になるかで、違うことになる。そして、ここで共和党主流派+民主党が議会多数であっても、2024年に大統領選挙がある。
トランプ前大統領が立候補することは、ほぼないが、代理の候補を立てることはありえる。イーロン・マスク氏がツイッターを買収して、言論の自由を保障するというが、これはトランプ氏の復権にも繋がるので、民主党を中心にマスク氏叩きが起こっている。
米国のローカル人とグローバル人の分断は激しくなり、近い将来には世界の指導者ではなくなる可能性がある。この米国分裂の状況で誰が専制国との戦いで、世界を引っ張っていくのか、非常に恐ろしい問題になる。
ロシアをけん制するドイツと英国、中国をけん制する日本と英国と2つの専制国近傍の民主国が頑張るしかないとみる。日本、ドイツと英国の3ケ国である。
このため、ドイツもGDPの2%を防衛費にすると言うし、日本も防衛費を徐々に2%にする。新世界秩序構築は、日独英の3ケ国が中心にするしかない気がする。
もう1つ、この専制国との戦争は、ローカルとグローバルの戦いでもある。米国内もローカルとグローバルの戦いで、トランプ派のローカル勢力が勝つと、グローバル人はローカルな米国からグローバルな別の国に移動することになる。
その移動先として、日本がなれるように、グローバル化するべきなのである。日本がグローバル人を受け入れるなら、ロシアのグローバルな人たちや中国のグローバルな人たちも受け入れて、日本を経済・外交・技術の大国にすることである。
これが完成すると、名実ともに日本はグローバル指導国の1つになれるはずだ。それしか、日本と世界の進む道はない。専制国に勝つ道でもある。
さあ、どうなりますか?
(『国際戦略コラム有料版』2022年6月6日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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image by: Arseniy Shemyakin Photo / Shutterstock.com