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Brussels, Belgium. 27th September 2019. Japan Prime Minister Shinzo Abe gives a speech during an EU - Asia Connectivity conference at the EU headquarters

安倍晋三は「右派を動かせる唯一の政治家」冷え込む日韓関係に与える影響

奈良県での応援演説中に安倍元首相が銃弾に倒れたことは日本のみならず、世界中に大きな衝撃を与えました。亡くなった安倍元首相について韓国での認識はどのようなものなのでしょうか。今回のメルマガ『キムチパワー』では、韓国在住歴30年を超える日本人著者が、安倍氏の韓国内での評価について詳しく紹介しています。

安倍元首相の治績

朝鮮日報のコラム二ストにカン・チョンソク(1948年生まれ)という人がいる。今回はこの人のコラムをご紹介したい。非常に鋭く日韓関係を把握していると思う。以下がコラム全文(途中、メルマガ筆者の文章も含まれる)。

日本政府が数日前に亡くなった安倍晋三元首相の葬儀を9月に国葬で行うことにしたという。日本の葬儀は故人の家の人だけが集まって簡単に行う「密葬」と、それと間隔を置いて格式に合わせて公式に行う「本葬」の2段階で行われる。

元首相の国葬は敗戦直後、日本を率いて現代日本の基礎を固めた吉田元首相以来2人目だ。韓国の秤で測る政治家・安倍晋三の重さと、日本の秤で測る重さが大きく違うことを感じることができる。

政治家に対する国内評価と国外評価が異なるのは特別のことではない。国境を接する多くの国が数百年にわたって数多くの戦争を繰り広げ、恩怨(=恩讐)を積み上げたヨーロッパの歴史がそうだ。

戦争で領土を広げたある国の英雄は、他国では侵略の元凶と糾弾されるのが日常茶飯事だ。そうした欧州も平和が宿り、国家関係が安定するにつれて大きく変わった。アデナウアー・ドイツ首相とドゴール・フランス大統領の評価は、両国の国境を越えても大きく変わらない。

安倍元首相を韓国では「極右政治家」と認識している。首相在任期間、韓日関係が1965年の両国国交正常化以来最悪だったため、驚くべきことではない。安倍首相といえば韓国では徴用工問題、慰安婦、歴史教科書、半導体先端素材の韓国向け輸出制限を思い浮かべる人が多い。

安倍元首相が日本政界でもかなり右翼的だったとされるが、安倍イメージの相当部分は文在寅時代の「竹槍外交」によって作られたことも否定できない。

ここで竹槍外交というのは、竹槍の歌(チュクチャンガ)から来ている語だ。竹槍の歌とは、1894年甲午年の官の汚職や外国勢力を一掃して新しい自主独立国家を求める「輔国安民」の旗印をかかげた「東学農民革命」を称える歌。

2019年7月、日本の輸出規制報復措置として、大々的な不買運動が起こった当時、民情首席秘書官であったチョ・グクがSBSのあるドラマにこの歌がバックミュージックとして出ていたとしてSNSに書いたことから韓国では有名になった。

つまり竹槍外交というのは、外国勢力(=ここでは日本)を一掃して自主独立韓国を再度建てようという民族意識を鼓舞する外交。簡単に言えば反日フレームをつくって日本を叩くことによって韓国は一つにまとまろうとする極めて料簡の狭いマイナス意識ということになる。

数年前の日本訪問の際、日本の元老ジャーナリストに(カン・チョンソク=コラムニストが)「政治家安倍の強みは何か」と尋ねた。返事が少し意外だった。「日本の政治家の中で右翼をコントロールできるのは安倍だけだ」と言われた。

右翼に反対する政治家、右翼を扇動する政治家はあまたいても右翼に振り回されず決定的瞬間に停止信号を送り、その信号が受け入れられる政治家は安倍しかいないということだ。

そのために支持基盤である右翼が「安倍に裏切られた」と猛烈に反対したにもかかわらず、2015年「韓日慰安婦合意」を引き出すことができたという説明だった。

文在寅はこの政府間合意の実践を先送りし、2017年12月に何の代案もなく合意破棄を宣言し、両国関係は泥沼に転がり込んだ経緯がある。

日本では安倍元首相の治績(=功績)で、揺れていた日米同盟を堅固に立て直して安保不安を解消し、バブル崩壊後20年間不況にあえいでいた日本経済に蘇生の希望を吹き込んだ。

彼は在任中、トランプ米大統領と14回の首脳会談を行った。会談の度にトランプは「日米同盟は米国に不公正だ」と圧迫した。

安倍首相はこのような日米関係を、北朝鮮がミサイルを発射すればトランプ大統領が文在寅ではなく安倍に先に電話で意見を聞く関係にまで引き上げた。

「衰退する日本と衰退する米国は、互いに力を合わせなければ中国を阻止しがたい」というのが安倍首相の基本的立ち位置だった。米国は安倍首相死去後、米国のインド・太平洋戦略樹立にアイデアと表現まで提供した政治家として褒め称えた。

日本の株価は1989年12月、3万8,915円という過去最高を記録した。この株価が1990年初頭から崩れ始め、2011年は8,445円へと急落した。この状況で政権を握った安倍首相は、アベノミクス経済政策を通じて株価を任期終盤3万円台近く引き上げた。

アベノミクスは当初掲げた政策目標数値を半分程度達成した(大したもの)ものと評価される。500万の雇用を新たに創出したのも大きな成果だった。

韓国と日本は国益が異なり、国益が違えば政治家の路線が変わり、路線が異なる相手国の政治家に対する評価も変わる。

そうだとしても、安倍政権期間中に日本との関係が疎遠になった国が、世界広しといえども韓国しかないのなら、そうした時代と原因を(われわれ韓国側が)一度振り返ってみるのも意味あることだ。

安倍元首相は最大派閥という数字の力で党内4位の小規模派閥トップの岸田文雄を首相の座に据えることに成功した。

岸田首相にとって安倍元首相は「上王(ここでは目の上のたん瘤)」のように窮屈な存在でありながらも、それと合意さえすれば政策の実践が保障される応援軍でもあった。

穏健派の岸田首相は右派を動かす力がない。屋根が消えた右派がどこに飛ぶか誰も分からない。

韓日間の問題は右派の壁を越えなければ合意も実践も不可能だ。岸田首相が韓国の積極的な姿勢にも薄氷を踏むように気をつけて言葉を慎む背景だ。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)政府の対日外交は緻密でなければならない。

(無料メルマガ『キムチパワー』2022年7月17日号)

image by: Alexandros Michailidis / Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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