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韓国の政府内部は大混乱。代表を解任させられた李俊錫に踊らされる隣国

韓国の政党『国民の力』の代表だった李俊錫氏が同党から解任され、それに異を唱えるかたちで党の決定を差し止める仮処分を申し立てたことが韓国で話題となっているようです。このことにより韓国の政党にはどのような影響があるのでしょうか? 韓国在住歴30年を超える日本人著者が発行するメルマガ『 キムチパワー 』の中で詳しく紹介しています。

「党ではなく大統領の危機だ」李俊錫の乱

国民の力の李俊錫(イ・ジュンソク)前代表が8月13日、記者会見を開き「党ではなく大統領の危機だ」とし、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を真っ向から批判したが、与党指導部と大統領室は公式対応はしなかった。与党全体が「李俊錫リスク」がもたらす政治的波紋に対する対応能力を見せられずにいるという批判も高まっている。

与党が直面した「李俊錫リスク」は、

  1. 裁判所の仮処分引用有無
  2. 李俊錫前代表の長期世論戦
  3. 党内非尹系の結集有無
  4. 国民世論の行方

など、大きく4つだ。

李前代表の今回の記者会見は8月17日に予定されている「非常対策委員会発足効力停止仮処分」申請の裁判所審理を前にして開かれた。仮処分の結果により「李俊錫変数」がティーカップの中の台風になるか、それとも与党全体の版図を揺さぶるかが決定される可能性が高い。政権与党が自分たちの問題を政治的に解決できず、裁判所の判断に任せることになったのは、自浄能力喪失の危機に陥った与党の状況を象徴的に示す場面だ。

李前代表は尹大統領に対しても、大統領選挙の過程で自分に対して「(尹錫悦が)イセッキ、チョセッキ」など韓国語の最大の暴言を吐いたという話を聞いたなど、「暴露性主張」を次々と吐き出した。そして、尹大統領と権成東(クォン・ソンドン)院内代表、張済元(チャン・ジェウォン)議員など党所属議員6人を実名で並べた。

しかし李前代表は「性接待証拠隠滅教唆疑惑」等、自身に提起された問題は釈明したり対国民謝罪をしなかった。

10年以上前の話になるが、李俊錫が何らかの「性接待」を受けたという訴えをある弁護士が発言したことから李俊錫問題が持ちあがったのであるが、これは筆者の見立てによって簡単に表現すると、尹錫悦プラス「ユンヘックァン」らが30代の若い李俊錫のことを「生意気な奴だ(除こう)」と思ったことからはじまった問題だ。

まず李前代表は17日の裁判所の仮処分審理を直前に控えて、それこそ全面戦争に入った格好だ。この第一ボタンがどうなるか(つまり裁判所が李俊錫が申請した「非常対策委員会発足効力停止仮処分」申請を採用するかしないか)によって、今後の政局の流れを決める可能性が高いためだ。

李前代表は裁判所の決定を控え、世論戦を繰り広げ、自分に有利な状況を引き出す案を選んだものと見られる。記者会見は土曜日昼に開かれたが、地上波と総合編成などユーチューブ生放送再生回数を合わせれば200万回を越えた。

彼は記者会見で権成東院内代表と張済元、イ・チョルギュ議員を「尹核関(ユン・ソンヨルの核心関係者)」、チョン・ジンソク国会副議長とキム・ジョンジェ、パク・スヨン議員を「自分も尹核関だと叫ぶ人」としてそれぞれ名指しし、「(これらと)最後まで戦う」と述べた。

それと共に自身に対する尹大統領の「荒々しい言葉」等を挙論したりもした。これは自分に対する懲戒から始まり党憲・党規を変えてスタートした非常対策委員会が民主的・手続き的正当性を喪失したということを間接的に見せようとするものと見られ、「手続き的正当性」を重視する裁判所の性向を狙った発言という解釈も出ている。

今回の事件を担当しているソウル南部地方裁判所のファン・ジョンス首席部長判事は、過去の公認問題など政治関連事件で党憲・党規に違反した手続き上の欠陥がある場合、効力停止申請を受け入れたという。李俊錫の仮処分申請が受け入れられる可能性がゼロではないということになる。

第二の変数は、李前代表の「マイウェイ式長期戦戦略」だ。李前代表は記者会見で「6・1地方選挙が終わって党でプログラマーを雇用し推進しようとした党員疎通空間を私が直接プログラマーとして作り出す」とし、「この1か月余りにわたり党の改革と革新のための方案を盛り込むために書き下ろした本も、もうすぐ脱稿となる」と話した。

彼は14日、フェイスブックでは「明日からラジオでまずお目にかかる」と話した。(仮処分の)法的判断とは関係なくオンラインプラットフォームと、本やマスコミなどを通じて勢力を構築し、長期的な世論戦に入る準備をするということだ。この場合、今後非常対策委員会が発足しても、相当期間「国民の力」党における党内内紛が続く可能性もある。

党内の一部では、李前代表が仮処分申請直前まで尹大統領側の接触を待っていたという話も出た。国民の力関係者は「党内のある重鎮議員が双方を仲裁しようと試みたが、尹大統領側が動かず霧散した」と話した。先月初め、両側に行き来した仲裁案には「倫理委懲戒決定を警察捜査発表以後に先送りする代わりに、李代表が年末に代表職を自主的に辞退する」という内容が含まれていたと伝えられた。

第三の変数は、党内の一部の親柳承敏(ユ・スンミン。李俊錫とは仲がいいことで知られる)系を中心にした非尹系の派閥づくりだ。キム・ウン議員は李前代表記者会見直後、フェイスブックに「一行評、『それでも私たちは前進する』」とし、「誇らしく切ない国民の力、私たちの代表」と書いた。

キム・ビョンウク議員はフェイスブックに「李代表は権威主義的権力構造に寄生する汝矣島の既成政界を精密爆撃した」とし、「李俊錫は汝矣島に『先に来た未来』だ。恥ずかしく、申し訳ない」と書いた。ただ、親柳承敏系全体が組織的に李前代表を擁護する動きを今のところまだ見せていない。国民の力関係者は「党内世論は尹核関(ユンヘックァン)と李前代表の両方に批判的なのが事実」と話した。

最後の変数は国民世論だ。政治的問題は結局、世論によって決定される可能性が高いためだ。国民の力支持層と一般世論はまだ交錯しているようだ。党のホームページには記者会見後、同日夜までに2,700件以上の書き込みが掲載された。

ある人は「(李前代表は)悔しいという気持ちで公然と大統領を中傷した。党代表が大統領と同級であると勘違いした『権力心酔者』の李前代表は除名されなければならない」と書いたが、別の人は「尹大統領が結者解之しなければならない。自分が殺されようとしているのに、じっと座ってただ待てと言われたら誰がそんなことをするだろうか」と書いた。

結者解之とは、結び目を結んだ者が解かなければならないという意味で、事を犯した人が事を解決しなければならないことを比喩した漢字成語。

一言でいえば、現在、大統領と政府与党(国民の力)は、ハチャメチャになっているということ。尹錫悦が李俊錫の前ではにこにこしていながら、陰では「あの野郎」(チョセッキ)などと(韓国語では最大級の)罵りことばを弄していたというのは、にわかにはちょっと信じがたい。法と常識に忠義を尽くすといっていた尹錫悦だ。この李前代表のことばが真実だとすると、人間性を信じていた尹錫悦なのだが、結局この人もただの「政治屋」か、ということになる。どうなんだ?

(無料メルマガ『キムチパワー』2022年8月16日号)

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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