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韓国は警戒。台湾との蜜月を演出する米国が「アジアから奪いたいもの」

8月2日のペロシ下院議長に続き14日には5名の議員団が訪台するなど、急接近を見せるアメリカと台湾。中国への牽制との見方が大勢を占めますが、米国サイドにはしたたかな狙いもあるようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、台湾への接近によりアメリカが得ようとしている「実利」について解説。「現状では頭の体操」とした上で、台湾に訪れる可能性のある「皮肉な未来」を記しています。

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激しさを増す中台対立 ペロシ訪台後の米中台三つ巴の攻防は誰が優勢なのか

ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問後の中国の動きを見ていると、習近平指導部が決してアメリカの対応に幻想を抱いていなかったことが見て取れる。

とくに「台湾問題と新時代中国統一事業」(台湾統一白書)の発表のタイミングだ。アメリカのサラミ戦略的対中攻勢──内容は実は複雑だが──がそう簡単に収まることはなく、民進党の自制にも期待できないことを前提に用意されていたことがよく解る。

バイデン政権は台湾と正式な通商交渉を「初秋」にも開始すると発表した。今年6月に明らかにされた「21世紀の貿易に関する米台イニシアチブ」について、双方が「交渉が必須との相互理解に至った」という内容だ。

中国の目には米台の正式な交流が始まる一歩と映る。秋に向けて再び台湾海峡の波が高まることは避けられそうにない。

これを報じたアメリカなどのテレビ番組では、「中国が軍事演習で圧力をかけてもバイデン政権はやることはやるというメッセージ」との解説が聞かれたが、アメリカの狙いは「台湾を使った中国けん制」だけではない。

半導体サプライヤーとしての圧倒的な地位を取り戻そうという実利を狙っているのだ。

7月20日、公共放送サービス(PBS)に出演したバイデン政権のジナ・レモンド商務長官は、国内半導体産業向けの補助金を含む「CHIPSおよび科学(CHIPSプラス)法案」について訊かれ、こう答えている。

「高性能の半導体のほぼすべてを台湾から買っているアメリカは、半導体の供給網で驚くほどアジア諸国に依存している。米軍の装備すべてに必要な半導体もアジアに依存している。その点でアメリカはリスクを抱えており、国内で生産する必要がある」

レモンド長官はさらに、「520億ドルの多額の補助金は奨学金対策などほかの問題に回すべきではないかと批判もある」とのキャスター指摘に対し、「国家安全保障には値段はつけられない」と、こう続けた。

「目下、アメリカはロシア向け半導体輸出を制限し、ロシアは衛星や軍用機器を作動できなくなっている。これと同じように台湾や中国がアメリカに半導体を供給しなくなったらどうでしょう。国を守れなくなる」

アメリカの強い危機感が伝わる言葉だが、注目すべきはサプライチェーンの寸断という危機を語るなかで、中国と台湾を同列に並べている点だ。

日本人からすれば「台湾なら寸断はない」と考えるかもしれないが、アメリカはそんなに甘い国ではないのだ。

実際、台湾を「永遠の友」と呼んで安心していられるわけではない。

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それがよく分かるのが、台湾の最大野党・国民党の幹部の大陸訪問のニュースだ。中国人民解放軍が台湾周辺で大規模な軍事演習を行っているなかでの訪問なのだ。訪問団を率いたのは国民党の夏立言副主席。当然のこと民進党は激しく非難した。

民進党には夏氏の動きが不都合だ。理由は、台湾が一つにまとまって中国に対抗しているわけではない現実が世界に知られてしまうからだ。このことは日本やアメリカにとっても同じだろう。台湾支援の中身が、実は蔡英文支援だとなれば話は違ってしまうからだ。

あらためて言うまでもないが台湾内部で対大陸をめぐる対立があるのは、台湾でも何割かは「親中」(大陸)が存在しているからだ。割合として決して多くはないだろうが、もし極端な対立を嫌う現状維持派が蔡政権のやり方に疑問を持てば両社が結びつく可能性は否定できない。風向きの変化によって台湾の顔が大きく変わることも予測しなければならないのだ。

レモンド長官が語った「半導体製造をきっちり国内で管理したい」ということも、危機意識が強ければ当たり前の備えなのだ。

問題はこのアメリカの危機意識が究極のところ何を求めているのか、という問いである。自然に考えれば台湾から半導体の優勢を奪うことだと考えざるを得ない。

大陸との争いに目が奪われている台湾とは違い韓国は警戒している。大統領選挙で反中姿勢を鮮明にしていた韓国が、アメリカとの距離を慎重に調整しているからだ。

皮肉な未来を空想してみると、アメリカに高性能半導体を奪われようとする台湾が、自らを守ろうとして大陸と距離を縮める可能性が浮かぶ。そのときには当然、「アメリカのATM」と揶揄される蔡政権には見切りがつけられている……。現状では頭の体操だ。

ただ、日本で喧伝されるほど習近平指導部は台湾の状況に絶望感を覚えているわけではない。長期的には中国を頼らざるを得ない状況も訪れる、と考えているはずだ。そんな未来を見越していま、中国は制裁を調整している。もし蛇口を思いっきり開けば大きなダメージを与えられる台湾への制裁を小出しに抑えていると思われる。

これは経済制裁が有効である反面、制裁のダメージは大陸でビジネスをしている台湾企業に及んでしまうという矛盾を抱えているためでもある。大陸とのビジネスで利益を得ている人々は概して与党なのだ。制裁はピンポイントでやる必要があった。(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年8月21日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: 蔡英文 - Home | Facebook

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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