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欧米へ深入りした代償。日本を経済的に疲弊させるプーチンの戦略

米中対立や中台関係の悪化、さらにはウクライナ戦争などにより緊張感を増す国際情勢。中国とロシアが欧米サイドとの連携を深める日本に抱く不満も、日に日に高まっているのが現状です。そんな中露からの「経済戦争」の危険性を指摘するのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回、これまでに両国が西側諸国に仕掛けてきた経済的な揺さぶりを紹介するとともに、日本政府に対して経済戦争への対策強化を訴えています。

日本は中露からの経済戦争に耐えられるか

日本は、中露からの経済戦争に耐えられるか。世界情勢、大国間関係は流動的に変化している。近年、貿易戦争という形で米中対立が激化してきたが、バイデン政権以降米国と欧州の結束が深まり、大国間関係は欧米vs.中国の構図に変化している。

そして、ロシアによるウクライナ侵攻により、欧米vs.ロシアの構図も先鋭化する一方、中国とロシアが戦略的に共闘し、今日、欧米vs.中露の構図が表面化してきている。そして、岸田政権以降、日本はこれまで以上にロシアや中国と距離を置く姿勢を鮮明にし、米国との結束を強化している。

要は、欧米vs.中露の構図の中で、日本は欧米陣営へ深入りし、欧米日本vs.中露のような構図に変化しつつある。そして、今日、日本は中露からの経済戦争という脅威に晒されている。

特に、ロシアは日本を経済的に疲弊させる戦略を重視している。たとえば、ロシア外務省は6月上旬、北方領土周辺で漁業活動を行う日本漁船を拿捕しないことを約束した日露漁業協定(1998年に両国で締結)の履行を停止すると明らかにした。日本は遺憾の意を示したが、ロシアによるウクライナ侵攻後、日本は米国と足並みを揃える形で対露制裁を強化し、日露関係は冷戦終結後最悪のレベルにまで悪化しており、今回もその一環である。

また、7月に入り、ロシア外務省は岸田政権がロシアを非難する声を上げ続けているとして強く非難し、米国や日本などはロシアと軍事衝突する危険な瀬戸際にあると警告した。そして、プーチン大統領は日本企業が出資しているサハリン2の運営をロシア企業に移管させる大統領令に署名するなど、日本に対して経済的な揺さぶりを強めている。

ロシアはその気になれば、日本に対してもっと強い経済戦争を仕掛けてくるだろう。ウクライナ侵攻以降、ロシアの国営企業ガスプロムは、ロシアの通貨ルーブル建てでの代金支払いに応じなかったとして、デンマークに対するガス供給を6月から停止した。

また、同様にルーブルでの支払いに応じなかったとして、4月下旬からブルガリア、ポーランド、フィンランドやオランダ向けのガス供給もストップさせている。日本が輸入する液化天然ガスで、ロシアシェアは9%となっているが、ロシアがそれを完全ストップさせる可能性も決して排除できない。

経済戦争を活発化させる中国

そして、それは中国も同様だ。近年、中国は関係が悪化する台湾やオーストラリアに対して経済戦争を仕掛け続けている。石破元防衛大臣などが台湾を訪問し、中台、日中関係がさらに冷え込むなか、中国は6月、台湾産の高級魚ハタの輸入を一方的に停止した。

中国側は、台湾から輸入されるハタから複数の禁止薬物が検出されたためと明らかにしたが、蔡英文政権の政策に苛立ちを強める中国側からの攻撃とみるべきだろう。そして、中国は同様の思惑で昨年3月、台湾産パイナップルなど果物3種を相次いで輸入停止した。

ウクライナ侵攻で、中国側もこれまで以上に軍事的オプションには慎重になっていると考えられることから、その分台湾への経済戦争を活発化させている。また、中国は同様に、オーストラリア産の牛肉やワインなど重要品目の輸入制限に踏み切った。中国とオーストラリアは、新疆ウイグルの人権問題や新型コロナウイルスの真相解明などを巡り、関係が急激に冷え込んでいる。

これも日本にとって対岸の火事ではない。台湾やオーストラリアに経済戦争を仕掛けるが、日本にはしないという保障はどこにもない。中国側も日本にとっての最大貿易相手が自分であることを承知済みであり、どの分野へ経済制裁を実行すれば日本にダメージが及ぶかを慎重に考えている。

台湾にとってのパイナップル、オーストラリアにとっての牛肉やワインはどれも主要輸出品であり、中国には両国を経済的に締め付ける狙いがあったはずだ。これを日本に応用すれば、半導体など重要物品で日本へ輸出規制などを仕掛け、日本経済を締め付けてくる恐れがまずは考えられる。

欧州や台湾、オーストラリアなどは既に中露からの経済戦争に直面している。日本もそれに対して対策を練っておく必要がある。

image by: Clicksbox / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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