先日、日本列島上空を北朝鮮の弾道ミサイルが通過し、Jアラートの音が鳴り響きました。韓国在住歴30年を超える日本人著者が発行するメルマガ『 キムチパワー 』では、その北朝鮮の行動を詳しく語り、今後の動きにも目を光らせています。
グアムまでを意識した北のIRBM
北朝鮮が4日、日本列島を越えて太平洋に中距離弾道ミサイル(IRBM)を発射した。北朝鮮ミサイルが日本列島上空を通過したのは2017年9月のIRBM「火星12型」発射以来5年ぶりだ。
高角ではなく正常角度(30~45度)でIRBM最大射程水準で発射されたこのミサイルは、北朝鮮がこれまで発射したIRBM、大陸間弾道ミサイル(ICBM)など火星系列の中長距離ミサイルの中で最も遠く飛んだ。日本全域はもとより、B-1B爆撃機など米戦略資産発進基地である米国領グアムに対する核打撃能力まで露骨に誇示した格好だ。
4日、合同参謀本部などによると、同日、IRBM1発が午前7時23分頃、慈江道茂坪里(チャガンド・ムピョンリ)一帯から発射された。同ミサイルは高度970キロあまり、音速の17倍(マッハ17)で、日本の北海道上空を越えて4,500キロあまりを飛んで太平洋に落下した。日本では全国瞬間警報システム(Jアラート)が5年ぶりに作動するなど非常措置が施行された。
軍はこのミサイルが2017年からこれまで7回にわたって北朝鮮が発射した「火星12型」だと見ている。先月25日から10日間に5回にわたって短距離弾道ミサイル(SRBM)挑発を強行した北朝鮮は、今度は水位を高めてIRBMを発射し、事実上グアムまで照準を合わせた。韓米は、核兵器法制化を宣言した北朝鮮が、今回のIRBM発射後、ICBM発射などの連続挑発を通じて核兵器増強を誇示した後、7回目の核実験へと繋げるものと見ている。
大統領室は同日、緊急国家安全保障会議(NSC)常任委員会を開催し、国連安全保障理事会決議違反の今回の発射を重大挑発と規定し、強く糾弾した。米ホワイトハウスも、北朝鮮の3月のICBM発射以来初めて糾弾声明を出した。韓米は同日午後、挑発に対する対抗として戦闘機8機を動員し、攻撃編隊群の飛行と精密爆撃訓練も実施した。
ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安保補佐官は、金聖漢(キム・ソンハン)大統領室国家安保室長、日本の秋葉武雄国家安全保障局長との電話インタビューで、「適切で強力な共同対応について協議した」と明らかにした。岸田文雄首相も同日NSCを開き、北朝鮮のミサイル発射について「容認できない」と批判した。
北朝鮮が2017年9月以降5年ぶりに中距離弾道ミサイル(IRBM)を日本列島上空を越えて発射したのは、日本全域はもとより、B-1B戦略爆撃機が展開されたグアムを含め、日米両国を同時に狙った強力な核打撃警告と解釈される。
先月末、米国のニミッツ級原子力空母ロナルド・レーガン(CVN-76・約10万トン)とロサンゼルス(LA)級原子力潜水艦アナポリス(6,000トン)が参加する中、東海(日本海)上で実施された韓米・日米合同演習に対する高強度挑発であり、韓半島有事の際、米戦略資産の発進基地が「核攻撃ターゲット」になることを露骨に威嚇した計算だ。韓米当局は、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射と7回目の核実験も迫っていると見て、関連動向を注視している。
北朝鮮が4日に発射したIRBMは、移動式発射車両(TEL)から正常角度で発射された後、北海道と東北地域の青森県上空を越えて約4,500キロを飛んだ。発射原点(慈江道茂坪里)から代表的な米戦略資産であるB-1B爆撃機が発進するグア
ム基地までの到達距離(約3500km)より1000kmも多く飛んだのだ。2017年9月に発射した火星12型の飛行距離(約3,700km)より800km長く、これまで発射したIRBMと火星系列の中長距離ミサイル(IRBM、ICBM)を合わせて最長飛行距離を記録した。
軍は最大飛行速度(音速の17倍)と頂点高度(約970キロ)などを見ると、火星12型を最大射程に合わせて撃ったものと見ている。チャン・ヨングン航空大学教授は「火星-12型に戦術核のような軽量核兵器を積む状況を作り、最大飛行距離をテストした可能性がある」と話した。「グアムキラー」と呼ばれる火星12型弾頭重量は飛行距離3500km基準で約700kgと推定される。これより軽い戦術核(約400kg)級の重さの模擬弾頭を弾頭部に載せ、どこまで飛べるかをテストした可能性が高いという意味だ。
今回の挑発は、先月末、東海(=日本海)上で相次いで行われた韓米合同海上演習と韓米日連合対潜訓練に参加したロナルド・レーガン空母講習団など、米戦略資産の発進基地に照準をあてたものだという分析も出ている。軍関係者は「ロナルド・レーガン空母の母港である日本の横須賀など米増援戦力の集結・発進基地である国連軍司令部後方基地(在日米軍基地)7か所も核打撃圏に含まれるという脅迫的挑発」と話した。
国軍の日(韓国の記念日=1日)に韓国軍が対北朝鮮警告の次元で「怪物弾道ミサイル」を電撃公開したことに対する「対抗性武力デモ」とも見ることができる。韓国軍がいくら弾頭重量の大きいミサイルを開発しても通常弾頭であるため、戦術核を積んだ北朝鮮のIRBMには敵わないという点を露骨に誇示した挑発という。実際、韓国軍が開発中の怪物弾道ミサイルは最大8トンの通常弾頭を搭載できるが、戦術核は1発でも数kt(キロトン・ktはTNT1,000tの爆発力)の威力を備えており破壊力では相手にならない。
北朝鮮のIRBM発射は、韓国を狙った北朝鮮版イスカンデル(KN23)推定短距離弾道ミサイル(SRBM)の連続発射を出発点とし、米本土を攻撃できるICBM発射および7回目の核実験で締めくくる挑発シナリオの中間段階の挑発と観測される。軍は同日、国政監査業務報告資料で、寧辺原子炉など北朝鮮の主要核施設が正常稼動中であり、核実験可能状態も維持されており、新型液体推進ICBMと潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の試験発射も準備中だと明らかにした。
米戦略国際問題研究所(CSIS)傘下の北朝鮮専門メディア「分断を越えて」は3日(現地時間)、商業衛星が撮影した豊渓里(プンゲリ)核実験場の写真を根拠に、3番坑道で核実験の準備が完了したと伝えた。また、4番坑道では新しい作業が進行中だと分析した。
李鍾燮(イ・ジョンソプ)国防部長官も同日、国会国防委員会国政監査で、「(北朝鮮の核実験準備完了時期は)今年5月頃」とし、「(核実験時期は)予断し難い」と明らかにした。韓米情報当局は、北朝鮮が第20回中国共産党大会(10月16日)から米中間選挙(11月8日)の間を「ディーデー(D-day)」と決め、ICBMを発射したり戦術核完成のための核実験を強行する可能性に注目している。これを通じて「核武力法制化」が空言ではないという点を韓米日に刻印させようとする可能性が高いということだ。
一方、5日午前1時頃に実施した韓米連合対応射撃で、韓国軍は「玄武2」弾道ミサイルも発射したが、発射直後に非正常飛行をした後、基地内に落弾する事故が発生した。軍は原因を把握している。現在まで人命被害は確認されていない。ミサイルが落弾して発生した強い閃光と轟音に驚いた江陵地域住民の問い合わせが官公庁やマスコミに殺到した。しかし軍は「訓練」という案内さえせず、一晩中混乱が続いた。オンラインには爆発と見られる火炎を噴き上げる写真や動画が拡散している。
北の核威嚇に対する(筆者が知る上でははじめての対抗発射になると思うのだが)この重要な対抗発射のタイミングで、せっかく打ったミサイルが自国の基地に落下するという無様を示し、北の笑いのターゲットになってしまったことは返す返すも残念である。金正恩の高笑いが聞こえるようである。
(無料メルマガ『キムチパワー』2022年10月6日号)
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