昭和から時が止まったようなお店は意外と多いのですが、今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では、著者の佐藤きよあきさんが「非常に貴重」と紹介する喫茶店は、「昭和が続いていたらこうなっていたのかな」と想像させるような喫茶店です。いったい、何が昭和なのでしょうか?
ホットケーキが80円の喫茶店は、想像を超えて“昭和”だった
“昭和レトロ”ブームの中で、タイムスリップしたかのごとく、昭和をまるごと保存している喫茶店が注目を集めています。
古ぼけた商店街の中にあり、外観も店内もメニューもすべてが昭和。
もっとも驚くのは、価格が昭和のままだということ。しかも、昭和の中頃。
コーヒー160円、カレーライス250円、ホットケーキ80円……。
正確には、昭和後期についていた価格から値下げしたものです。
ほとんどが、現在の価格の倍程度だったのですが、チェーン店に対抗するために、値下げに踏み切ったそうです。
個人商店がチェーン店と価格競争することは、絶対にやってはいけないこと。なのに、なぜ?
倍の価格でも安いのですが、無謀とも言える値下げを断行した理由は、マクドナルドにあります。
一時期、マクドナルドがハンバーガーを60円にしたことがありますが、このことに刺激されてしまったようです。
喫茶店なら、マクドナルドにお客さまを奪われる恐怖はあるかもしれませんが、価格競争ではなく、他の部分で差別化を図るべきでした。
しばらくすると、マクドナルドは軌道修正。
しかし、このお店は簡単に価格を元に戻すことはできませんでした。
値下げ価格に慣れてしまったお客さまが、離れてしまうかもしれないからです。
仕方なく、そのまま営業を続けているのです。
経営が成り立っているのかどうかは疑問ですが、少なくとも健全な収益体制ではないと断言できます。
店主が高齢で年金生活かもしれないし、店舗は自宅で経費が不要なのかも。
こうしたお店は日本中にありますが、お客さまがいる限りは、不健全でも営業を続けていくことでしょう。
いま、このお店に人が集まって来るのは、その安さにありますが、それだけではありません。お店のすべてが昭和そのものだからです。
外観はタイル張り。店内は板張りの壁。年代物のテーブルと椅子。コーヒーの焙煎機らしきものが飾られています。
額絵は湿気で歪んでおり、何が描かれているかはわかりません。
壁に掛かった扇風機は、いつ発火してもおかしくない状態。テーブルに置かれたシュガーポットは、本体とフタが一体となった、昭和の遺物。古い灰皿もあります。
オムライスや焼き飯を頼むと一緒に出される2種類のソースの容器は、胴体を手で押すと、中のソースが出てくるという、昔の食堂にあったようなもの。
ソースは、ウスターソースとお好み焼きソース。
焼き飯にソースを掛けるのは、関西の文化ですが、お好み焼きソースが出てきたり、オムライスにも掛けるのは、他で見たことはありません。
また、オムライスの中身は、チキンライスやケチャップライスではなく、焼き飯になっています。
店主は、独特のセンスを持っているようです。
メニューは、40年前のものを使っていて、ボロボロ。破れていて、文字が読めないところもあります。何とか判読して注文しても、「もう、やってない」と言われることも。
その言い訳が、「そのメニューは40年前のものだから」。笑うしかありません。
他にも、お客さまがいっぱいいる時は、手間の掛かるものは「今日はできない」と、断られたりします。
接するのが少し難しい店主ではあります。それ以前に、会話が成立しないこともあります。
注文をしていても、突然まったく違う話をされたり、黙ってじっと遠くを見る目をしていたり。年齢的に仕方がないのでしょうが、かなり個性のキツい店主だと言えます。
横柄な態度を取るわけではありません。素のままで接しているのが、面白いとも言えます。
怒るお客さまはいません。
最初に、「昭和をまるごと保存」と書きましたが、昭和の店舗と家具、食器などをそのまま使い続け、すべてが劣化し、ボロボロの状態です。
よく「時が止まった」という表現をしますが、そんなイメージではありません。
昭和から時は流れ、その時間とともに古くなって、かなり傷んでいます。
昭和ではもっと綺麗だったはず。
博物館のように、“当時”を保存することはできていません。
しかし、年号が変わらず、昭和が続いた状態を見ることができます。
お店は、古くなると修繕したり、改装したりしますが、このお店は放置しています。
老舗と言われるお店で、こんな姿を見ることはできません。
非常に貴重です。
お店もメニューも店主も面白い。
お店づくりの参考にはならないかもしれませんが、他にはない商売、他にはいない商売人を見ることはできます。
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