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暴力団や独裁者の資金も管理。破綻回避した「クレディ・スイス」の深い闇

スイスのチューリッヒに本社を構え、世界的な金融グループとして知られるクレディ・スイス。そんな名門銀行が経営危機に陥り、同じスイスの金融機関最大手のUBSに買収されたというニュースが各国に衝撃を広げています。なぜ同社は破綻直前にまで追い込まれてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、その原因と買収劇の舞台裏を紹介。さらにクレディ・スイスの闇の一面にも迫っています。

スイス大手金融グループ「クレディ・スイス」、UBSに買収 クレディ・スイスとは? 日本の暴力団や世界の独裁者の資金も管理

経営不安にさらされていたスイスの大手金融グループ「クレディ・スイス」は、同じスイスの金融大手「UBS」により買収された。

買収総額は、日本円で4,200億円あまりと伝えられている(*1)。スイスのベルセ大統領やスイスの中央銀行である「スイス国立銀行」などが3月19日、首都ベルンで記者会見し、発表。

UBSが株式交換の形で買収した。しかし買収総額は、17日時点のクレディ・スイスの時価総額のおよそ1兆円を大きく下回る。

クレディ・スイスは、相次ぐ不祥事やリスク管理の甘さなどから、業績が大きく悪化。

それとともに顧客の資金流出が止まらず、15日には株価が大きく下落、経営への不安が高まるとともに世界の金融市場に動揺を与えていた。

海外メディアの報道によると、当初、UBSは1,300億円での買収を提案していたものの、クレディ・スイスが難色を示していたという。

交渉はスイス政府や中央銀行の支援を経てまとまり、結果、アジアの金融市場が開く前に“強力に”交渉を仲介した。

買収で合意したUBSのケレハー会長は、会見で、

「はっきりさせておきたい。UBSはクレディ・スイスの投資銀行業務を縮小し、われわれの保守的なリスク管理に合わせていく」(*2)

と語った。

目次

買収の舞台裏

今回の買収劇は、スイス時間3月16日の午後4時に幕を開ける。スイスの高官がUBSの会長に“緊急の”電話をした。

「昨年4月からUBS会長を務める破天荒なアイルランド人経営者のコルム・ケレハーは、17日の聖パトリックの日を祝った後は、18日のラグビーのアイルランド対イングランド戦をチューリヒのパブで観戦しようと考えていた。欧州6カ国対抗戦で祖国が圧勝かグランドスラムを達成すると期待していた」

「だが電話を取る前から、週末を楽しめる可能性が低いことは分かっていた。業界の競合クレディ・スイス(CS)は3年前からスキャンダル続き。今や欧州銀行業界の膿とされ、その混乱は過熱気味にあった」(*3)

16日、スイス国立銀行は、500億フラン(約7兆1,000億円)の流動性供給策を発表したものの、しかし貸し手の間に広がる不安を食い止めることはできない。

さらにクレディ・スイスの筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンクのアンマル・フダリ総裁が追加出資の可能性を問われ、

「絶対にない」

と答えた発言が広がると、クレディ・スイスの株はさらに暴落する。

1日で420億ドルの預金が流出したアメリカのシリコンバレー銀行を米規制当局が管理下に収めたのと同様のことが、クレディ・スイスにも降りかかった。

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発端 ファミリーオフィスとアルケゴス・ショック

騒動のそもそもの発端は、2021年3月に起きたクレディ・スイスの巨額損失事件。ファミリーオフィスである「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」との関わりが原因による損失が、経営危機の一因とされる。

「ファミリーオフィス」とは、超富裕層の家族が自分たちの資産を管理するために設立した会社。

2008年のリーマンショック後、オバマ政権が2010年に制定した「ドッド・フランク法」により、投資会社であるファミリーオフィスが自分たちの家族の資産のみを運用する場合には、証券取引委員会(SEC)の規制対象から外れることに。

そのため、ヘッジファンド・マネージャーなどの投資家たちは、規制を回避するために、ファミリーオフィスを設立したりする。ファミリーオフィスの日本における認知度はなかった。

しかし、2021年のアルケゴス・ショックでその存在が知られるように。韓国生まれのアメリカ人投資家・ビル・フアン氏が設立したファミリーオフィスのアルケゴス・キャピタルが集中投資していた先の株価が暴落し大損失を出す。

これを受けて、アルケゴスと取引をしていた金融機関や投資家がアルケゴスからの資金回収が出来なくなり、金融機関も損失を被る結果に。

そしてクレディ・スイスも、アルケゴス・ショックにより業界最大の約5,200億円の損失を出した。

クレディ・スイスの闇 日本の暴力団や世界の独裁者の資金も管理

チューリッヒ大学でスイスの金融史を研究してきた現代史教授トビアス・シュトラウマンは、スイス紙「ル・タン」に、クレディ・スイスは、

「不祥事を繰り返し、それに伴って損失を何度も出してきた。しかし、問題への対応が遅かった」(*4)

と述べた。

スイス紙「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング」(*5)によると、クレディ・スイスは、世界の独裁者や犯罪組織の不正資金を長年受け入れてきたという。

世界の金融機関では、マネーロンダリングができないように顧客の身元確認や資金の出所の確認を徹底するよう厳しく規制されている。

しかし、スイスの銀行や当局は、出所が怪しい資金について、厳しく問わなかったようだ(*6)。

たとえばクレディ・スイスは、日本の暴力団の資金も受け入れ、マネーロンダリングを助けたことがある。

スイスメディア「スイス・インフォ」によると、2003年から4年にかけ、日本の警察は日本最大の暴力団・山口組系の違法闇金融にかかわる6名を逮捕、その主犯格であった「ヤミ金の帝王」といわれた梶山進はクレディ・スイスに口座を保有していた。

■引用・参考文献

(*1)「クレディ・スイスをUBSが買収で合意 スイス政府などの支援で」NHK NEWS WEB 2023年3月20日

(*2)NHK NEWS WEB 2023年3月20日

(*3)The Financial Times Limited 2023「クレディ・スイス買収交渉の舞台裏」swissinfo.ch 2023年3月21日

(*4)ハンデルスブラット「日本のヤクザや世界の独裁者をも支援──こんなに黒かったクレディ・スイスの実態」COURRiER JAPON 2023年3月21日

(*5)「Diktatorenkonten, Holocaust-Gelder oder ein Kollaps im Berner Oberland: Der Bankenplatz hat schon oft gebebt

(*6)ハンデルスブラット 2023年3月21日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2023年4月2日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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