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Artificial intelligence (AI), machine and deep learning, neural networks and another modern technologies concepts. Brain representing artificial intelligence with printed circuit board (PCB) design.

デジタル技術を使えば経済効率は上がるが品質は下がる当然の理由

デジタル技術に仕事を奪われると怯える人たち。しかし、メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、AIたちができない仕事がある、と産業革命時代にさかのぼりながら語っています。

 産業革命は効率を高め質を退化させた

1.産業革命は経済効率を上げただけ

産業革命は、電気や蒸気で動く機械を生み出しました。それにより、大量生産が可能になり、効率化が進みました。

しかし、あくまで効率化が進んだだけで、品質が向上したわけではありません。機械を使うことで、誰でも均一な品質のモノ作りが可能になりました。高度な技術を習得した職人一人の生産力は知れています。職人は品質は高いけど生産力が低い。機械生産は品質はそこそこでも、大量に均一な商品が生産できます。その方が売上や利益は上がるのです。

2.室町時代の絹織物は再現できない

室町時代に作られた絹の織物があります。現在は合成染料ですが、当時は草木染めです。染料の原料は植物の根、葉、枝や樹皮などです。それらから染料を煮出して、何度も染めを重ね、堅牢な濃色に染め上げます。

当時の製糸、機織の技術も高く、現在では再現することが困難です。糸の段階からこだわりが詰まっています。蚕(かいこ)にも種類がありますし、産地や季節によって品質には差が生れます。生糸を精錬する藁灰によっても風合いが変わります。当時の人々は、それらを熟知し、タテ糸とヨコ糸を指定し、温度や湿度を見極めて布を織りました。

現代人は室町時代の人よりも技術が上だと自惚れていますが、実際には技術も品質も低下しています。明治のもの室町より品質が落ちます。しかし、昭和より品質は上です。技術革新により、効率は上がり品質は退化したのです。

3.デジタル技術も効率を上げるだけ

アナログの機械がコンピュータ制御で動くようになり、更に機械は効率化が進みました。

現在もデニム愛好家はシャトル織機が織ったものを好んでいます。現在の最新鋭のエアジェットの織機(ヨコ糸を空気で飛ばす織機)はシャトル織機よりもはるかに高速です。高速で織るには、糸が切れないように樹脂を塗ります。高速で織ると、糸に強いテンションが掛かります。その結果、綿の布でも紙のような風合いになります。

低速で織ると、全く風合いが異なります。手織りで織ると、綿花のカールした繊維の形状や撚糸による糸の凹凸が布に反映され、表面に微細な凹凸が生れます。そして、引っ張られないので柔らかな生地ができます。

アナログの機械がデジタル制御されることで、品質が上がるわけではありません。経済効率が上がるだけです。

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4.デジタルプリントに駆逐される手描き友禅

例えば、手描き友禅はデジタルプリントに駆逐されようとしています。成人式の振り袖の多くはデジタルプリントです。データさえあれば、どんな柄でも再現できます。データを蓄積しておけば、いつでも柄が再現できるのです。

デジタル技術を駆使しても、顧客に合わせて、一点ずつオリジナルの柄を描いたり、絞りや絣や刺繍を組み合わせて高度な織物を作ることはできません。顧客の見る目も商品の品質と共に退化しているので、単純なモノで満足しているだけです。一般の人は、デジタルプリントを技術革新と呼んでいますが、あくまで効率が上がっただけです。作品の質は退化しています。

5.AIも効率化を進めるツール

これはAIにも共通しています。AIが職人の手の動きをコピーして、再現することはできますが、温度や湿度の変化に伴う調整、原料のコンディションに伴う調整はできません。ざっくりとコピーするだけです。

AIに仕事が奪われると心配している人は、元々大した仕事をしていません。効率を上げ、利益を上げることしか考えていません。効率の勝負ではAIには勝てないでしょう。

経済優先の仕組みは、高度なモノ作りの技術を淘汰していきました。しかし、日本にはかろうじて伝統的な職人仕事が残っています。

アナログのモノ作りの人間にとって、AIの影響は産業革命ほど大きくはありません。AIが普及することで、産業革命以前の手工業的な技術が見直されることは価値あることかもしれません。

編集後記「締めの都々逸」

「チャットGPT 凄いと言うが 言葉を覚えて 話すだけ」

チャットGPTは嘘を言います。でも、嘘を言わないと、言葉を使えるようにはなりません。嘘でも何でも思いついたことは話してみる。そうやって人間も言葉を使えるようになりました。

現在はその段階です。今後、チャットGPTの頭脳を育てるには、ネット上の情報をもっと増やす必要があると思います。それも建前ではなく、本音の情報です。ビッグテックのように情報を検閲しているようでは、頭の固いAIしか育ちません。AIを生かすも殺すも我々次第だと思います。(坂口昌章)

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