契約は守るべきものです。しかし、様々な事情でどうしても守りきれない場面が出てくることもあります。そんな時はどうすれば良いのでしょう?メルマガ『倒産危機は自力で乗り越えられる!』 by 吉田猫次郎』の著者で事業再生コンサルタント、作家、CTP認定事業再生士の顔を持つ吉田猫次郎さんは、契約を守る重要性に触れながらも、「契約を破る自由」について語っています。
契約を破る自由
一見すると不謹慎そうな見出しですが、私たち日本人は、今一度、契約を破る自由について、真面目に考えてみる必要があると常々思っています。
私は確か2008年か2009年ごろに初めて「契約を破る自由」という言葉を聞きました。誰が教えてくれたか忘れましたが、「アメリカの大学では、法学部の学生に、入学早々、契約を破る自由についてディスカッションさせる」と聞いたのです。私は衝撃を受けました。なんて進んでるんだろう、と。
その後、講演会やブログなどで、ちょくちょくこの話に触れたものです。ツイッターをやり始めた2010年からも、よくこの話題をツイートしていました。
以下、私なりの解釈ですが(法律家ではないので法律解釈的には至らぬ部分があるかもしれませんが、筋としてはおかしなことは言っていないと思います)、わかりやすく解説します。
【契約は守るもの。だが…】
契約は守るべきものです。そんなことは子供でも知っています。しかし、大人の世界では、守りたくても守れない場面があると思います。もし頑なにその契約を守ろとしたら、他の誰かに迷惑をかけてしまうとか。
一例をあげましょう。
不測の事態が起きて、今月の売上はゼロだった。しかし、支払いは待ったなしだ。従業員への給料(労働契約)を30万円払わなければならない。家賃(賃貸借契約)も10万円払わなければならない。借金返済(金銭消費貸借契約)も20万円払わなければならない。商売の仕入れ代金(売買契約)も30万円ある。
どうしよう。預金残高は残り35万円しかない。全員には払えない。かくなるうえは、従業員の給料(労働契約)30万円だけを最優先して払おう。残りの分(賃貸借契約、金銭消費貸借契約、売買契約)は約束通りに払えないから(契約不履行)、待ってもらうしかない。
これが「契約を破る自由」の一例です。
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【契約のしくみ】
・契約とはいわゆる約束事です。
・契約は口約束だけでも成立します。
・ただ、言った言わないが常につきまとうので、書面で取り交わすのが普通です。
・契約行為は法律行為とも言えます。契約については「民法」で定められています。
・もし、契約通りにできないと(これを契約不履行といいます)、民事上の責任を負います。
・民事上の責任とは、たとえば、損害金が加算されるとか、一括請求されるとか、差押されるとか、そういうものです。
・民事と刑事は違います。ゴッチャにしてはいけません。契約不履行は民事です。
・つまり、契約を破れば、しかるべき民事上のペナルティを受ける。それは具体的には、損害金や一括請求や、それにも応じられない場合は差押がそれに当たります。
・尚、日本は法治国家であり、法律の頂点は日本国憲法ですから、憲法と矛盾するようなそれ以下の法律はありません。たとえば、「借金を返済できなければ腎臓を売れ」などという法律はありませんし、そのような不条理な契約を結ばされたら契約無効にできます(民法90条 公序良俗に反する契約は無効、など)。
・このように、契約は双方にフェアにできています。
・尚、最初から契約を守る気がなく、契約の際に虚偽のことを書いて相手を信じ込ませ、欺いて金を取るようなことをしたら、これはもはや民事ではなく、刑事です。詐欺罪ですね。
【契約を破る自由についての考え方】
・契約は守るべきなのは当然だが、そこで思考停止してはいけない。
・「従業員の給料を守るために、借金返済を停めなければ…」という場面もある。言い換えれば、「雇用契約を履行するために、金銭消費貸借契約を不履行…」。
・「最初から払う気が無い」のと、「払いたいけど(状況が悪化して)払えなくなった」は大きく違う。前者は刑事事件になりかねないが、後者はあくまで民事の話である。
・だとしたら、どうしても背に腹代えられないときは、自分の意思で、「契約を破る」ことがあってもいいのではないか?
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【ネットで見つけた記事】
・ツイッターで「契約を破る自由」で検索した結果
● 「法曹関係者も含めて日本人って一度締結した契約は守らなければならないって無邪気に信じ切っているフシがあるのですが、民事の世界では経済的合理性の観点から違約金を払って契約を破棄する、契約を破る自由の可能性を意識してよいように思うのです。」
● 「民法上の罰則は通常罰金なんだから、最悪、ルール破りという商品を買うと思えばいいのでは」
「これは鋭いご指摘で、現代英米の法学界で議論される効率的契約違反
(契約を破る自由)もこれと同じ発想にたつ。」
● 「契約を破る自由」に関する分析(東京大学法学部 法科大学院修了生の論文)
● 明治大学法学部 大量留年事件(試験問題が「わが民法において、契約を破る自由は、どのように理解されるべきか」だった)
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