最近の中国は経済を「回復」させるといいながら経済を「破壊」していて不思議でならないと語るのは、メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。坂口さんは今回のメルマガで、中国政府の「破壊活動」について語っています。
中国経済を破壊し続ける中国政府の不思議
こんにちは。
最近の中国の状況を見ていると、とても不思議です。経済を回復させるといいながら、行動は正反対。自ら経済を破壊するようなことをしています。
本当に経済の仕組みが分かっていないのか。それとも、破滅願望があるのか。
でも、ここまで来ると、誰がやっても難しいですね。経済を回復させるのは大変です。起業させのも、既存の企業を成長させるのも、国が正しい政策をしなければ、どうにもなりません。正しく方向転換しても、一つ一つ積み重ねるのは何年もかかるのです。
壊すのは一瞬。でも、作るのは大変なのです。そんなことを考えながら、中国について考えてみました。
1.自国の経済を潰す中国政府
中国政府の行動は不思議です。
米中貿易戦争で、互いに関税を掛け合った結果、中国は米国から農産物を輸入することで合意しました。しかし、その約束は守っていません。
また、英国からの香港返還にあたり、香港の自治を認め、50年間は一国に制度を堅持すという約束をしましたが、25年で約束を反故にしました。「香港国家安全法」を施行し、香港の民主主義運動を弾圧しました。
中国政府は他国の政府から批判されると、相手から縁を切られる前に、自分から縁を断ち切ってしまうのです。輸出で外貨を獲得しているのに、他国と上手くやっていこうとする意志がありません。むしろ、「中国が商品を輸出しないと困るのは相手だ」と思っているようです。
国内産業に対しても、平然と切り捨てました。例えば、中国国内の成長産業だった教育産業、オンラインゲーム産業を潰しました。
その理由は、教育費の負担を減らすためです。宿題を減らすので、塾に行く必要がない。有償の学習塾は禁止。同時に、家で勉強するために、オンラインゲームのプレイ時間を制限するというものです。この政策は、当初、学生の親には喜ばれたようです。
しかし、学習塾はほぼ全てが倒産し、失業者は1,000万人に達したと言われています。また、オンラインゲーム業界も1万4,000社が倒産しました。こうしたことは、ジワジワと国内経済を弱めています。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
中国で大成功したベンチャー企業の創業者も次々と会社を追われています。代表的なのは、アリババグループのジャック・マー氏です。アントグループの上場直前に中国政府は上場停止の命令を出しました。その後、ジャック・マー氏は引退を表明しています。
中国デジタル企業のビッグスリー、アリババ、テンセント、京東は、次々と国有企業との提携を発表しています。多分、デジタル企業は全て国有化されるのでしょう。
中国政府に圧力を受けるのは、大企業だけではありません。個人であっても、習近平主席以上に目立つ人は次々と摘発されます。
女優のファン・ビンビンさんは脱税容疑で逮捕され、8億元の罰金を言い渡されました。その他にも、400名以上の有名人が「青少年に悪影響を与え、社会の風紀を乱した」として、ネット配信を禁止されています。
ライブコマースの女王と言われた薇姫さんは、脱税疑惑で逮捕され、13億元の罰金が課せられました。
中国経済、特に地方経済は不動産開発によって成立していました。地方政府が土地を開発業者に使用権を販売し、開発業者はマンションを建設して販売します。
中国人の資産は7割が不動産です。そして、中国全体の既存の住宅は6億6,000万棟になります。但し、これには農村部の住宅と都市部のマンションが混在しています。このうち、都市部のマンションは2~3,000万棟と言われています。それでも、人口の数倍の住宅が既に建設されているということです。
需要を超える供給がなされているので、不動産価格が下落するのは当然のことです。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
2.あふれる失業者と文革の悪夢
こうした状況で、3年間のロックダウンが始まりました。国内が完全に停止したため、輸出産業は大打撃を受けました。また、中国に発注していた海外企業はサプライチェーンの全面的な見直しに動きました。中国国内の外資企業も次々と撤退しました。
飲食や物販の中国企業も数多く倒産し、テナントが撤退した廃墟モールが急増しています。
23年の春節明け、広州では農村からの出稼ぎ労働者、農民工であふれていました。しかし、仕事は見つかりません。海外企業からの発注が消え、企業が軒並み倒産したからです。
仕事がないのは、広州だけではありません。全国的に仕事がないのです。23年4月には、若年層の失業率が20%を超えました。中国は毎年大学卒業者が増加しており、23年には1,000万人を超えています。そのほとんどが失業しているのが現状です。海外の大学卒業生も、博士を取得しても、就職できず、フードデリバリーで働いている人が多いのです。現在では、フードデリバリーの希望者が増えすぎて、募集を制限しているほどです。
失業対策として、中国政府は、都市部で禁止していた露天や屋台の出店を認めるようになっています。しかし、屋台の料理や商品は安くないと売れませんし、競争も激しいのが実態です。
更に、若者を不安にさせる政策が用意されています。それは若者を農村に送る計画です。
広東省では、既に30万人の若者を農村へ行かせる計画が公表されました。
また、習近平主席は、中国農業科技大学の学生に次のような手紙を出しています。
「村の深いところに行き、事実をより深く理解して、群衆との付き合い方がわかり、若者はみずから苦労を嘗め尽くすことを探すべきだとあなたたち(農業科技大学生たち)は言った。とてもいいことを言った。新しい中国の青年たちはこのような精神を持つべきだ」。
誰もが、毛沢東時代に続く第2回目の下放を連想したことでしょう。
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
3.先進国との関係修復と富の配分を
政治体制が共産主義だとしても、経済は市場原理で動きます。需要と供給のバランスで価格は変動します。それを無理やり封じ込めることはできません。
不動産企業の倒産を先伸ばししても、不動産価格の下落を規制しても、結局、問題の先送りをしているだけです。
先進国への輸出をしないと、外貨は獲得できません。先進国との関係修復には、人権問題や無理な拡張戦略を改める必要があります。しかし、中国政府は自らの信念を曲げません。むしろ恫喝し、自分から関係を断つような真似をするのです。これでは経済は成長しません。
国内需要を刺激し、国内で経済を循環させるのであれば、屋台経済ではなく、貧富の格差を解消すべきです。一部の富裕層が富を独占している限り、消費市場は動きません。幅広い市民に富を分配させることにより、市民は自信を取り戻し、消費活動が活発になります。
そもそも共産主義というのは、富裕層を排除して、労働者階級が富を分配する制度だったはずです。なぜ、再び富裕層が富を独占しているのでしょうか。
一方で資本主義に敵対しながら、一方では共産主義も否定しているように見えます。一部の支配層が、自らの名声と利益だけを追求する、独裁政治は長く続きません。やがて、周囲は敵だらけになるからです。
中国人民のエネルギーを開放すれば、経済発展は可能でしょう。それは改革開放後の中国が示しています。人民共和国の基本に立ち返ることが、中国復活の鍵になるのではないでしょうか。
■編集後記「締めの都々逸」
「積み上げるのは 大変だけど ぶっ壊すのは一瞬だ」
こつこつと努力を積み重ねるのは時間がかかる。もっと手っとり早く儲かる仕事はないのか。それを追求したのが中国だと思います。
実際に中国は世界第2位の経済大国になりました。しかし、経済の活動量が増大しただけで、質は伴っていません。お金を持っている人は偉く、お金持ちは貧乏人を支配していい、と考えています。そして、中国は偉大な国であり、世界に強い影響力を持つべきだと考えてしまったのです。
私は仕事で中国企業と付き合っていたので、彼らの弱みを知っています。一からビジネスを組み立てる力はありません。常に先進国のお手本があって、それを真似ているだけです。先進国から切り離されたら何もできません。農業国に戻ることもできません。お金にならない仕事は切り捨ててしまったからです。
愚かな行為ではありますが、ある意味で資本主義の罠にはまったとも言えます。拝金主義も欲望の増大も資本主義の罠です。
私は古き良き中国、古き良き中国人が好きでした。共産党幹部が自らの富みを人民に配分し、質素な人民服を着て、助け合って生きていく。そんな理想的な共産主義なら、応援したくなるんですけどね。(坂口昌章)
この記事の著者・坂口昌章さんのメルマガ
image by: Shutterstock.com