物価高騰にともなう値上げを行う飲食店が多い中、いまだ「超薄利多売」で踏ん張っているお店もあります。今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では、著者の佐藤きよあきさんが、大阪のとあるパン屋さんを紹介。自分の身を削ってまで働き詰めとなっている店主がそこまでする理由とは?
働き詰めの店主が感じている、「商売を続けられる幸せ」
物価高騰の中、値上げせず、あるいは最小限の値上げで踏ん張るお店があります。
地域の人びとに愛され続ける、小さな個人商店です。
大阪市西区にあるパン屋さん「PIN・PON・PAN」もそのひとつ。
朝5時半から深夜12時まで営業し、しかも激安店としても知られています。
手の平より大きなクロワッサンが83円。フランスパン115円、クリームパン100円、メロンパン88円、塩バターパン88円、リングドーナツ68円、揚げパン(きなこ味)88円など。
原材料費が上昇し続けているにも関わらず、この値段で販売するのは、かなり厳しいのではないでしょうか。
店主曰く「子どもでも買いに来れるように、なるべく安い値段でやっている」。
言うは易し、行うは難し。しかし、店主は有言実行。
お客さまの喜ぶ顔が見たくて、激安を続けているのです。
もちろん、安く売っているだけでは、お店は潰れます。
安い分、大量に売らなければ、収益には繋がりません。
「超薄利多売」を実践しているのです。
営業時間を長くしているのも、そのためです。
ただし、朝大量に作って、売れるのを待つのではありません。
朝作ったものは夕方までに売り切り、もし残っていれば、数個を袋詰めにして、半額で販売します。
そこから、夕方・夜の分を一から仕込み、新たに焼き立てを販売するのです。
薄利多売で作る量が多いのに、一からの仕込みを再度行うとは、驚きでしかありません。
よく売れる商品を1日に何度も仕込むお店はありますが、ほとんどの商品を二度仕込むお店は聞いたことがありません。
1日に二度開店しているようなものです。
なぜ、店主はそこまで頑張るのでしょうか。
薄利多売が原因だと言えなくもないのですが、店主の商売に対する姿勢がそうさせているのです。
旅館の息子として生まれ、幼い頃から家業を手伝い、厳しい親に「死に物狂いで働きなさい」と、言い聞かされてきました。
そんな親に反発することなく、一生懸命に働くことが当然のことと受け止めています。
それが商売人であり、それが人生だと考えています。
毎日、睡眠時間は3時間ほど。働き詰めであることに疑問は持たず、「慣れている。それが当たり前」だと言います。
また、忙しすぎて、食事は1日1回。
「商売人の鑑だ」と言うつもりはありません。明らかに無茶なやり方です。
商売人は儲けるべきであり、たまには余暇も楽しむべきです。
それが正しい働き方だと思います。
しかし、この店主は自身の人生を変えるつもりはありません。
このことに、他人が口出ししてはいけません。
お客さまの笑顔を見るためだけに、ひたすらパンを焼き続けているのです。
何かを犠牲にしている気持ちもありません。楽しいのです。それが人生なのです。
お客さまからは、「値上げして」「営業時間を短くして」と言われます。
そんな声援があるからこそ、このまま続けたいと思っています。
個人商店の中には、こうした商売人がたくさんいます。
ただただ、お客さまに喜んでもらいたい。それが自身の幸せだと感じているのです。
尊敬できる、素晴らしい人たちです。
私たちは、そんなお店をもっともっと利用して、店主たちの心意気に応えてあげることが大切です。
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