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ゼレンスキーの大誤算。クラスター弾攻撃にも屈せぬプーチンの反転攻勢

7月24日で開戦から1年5ヶ月が経過したウクライナ戦争。同盟国からも批判が噴出したアメリカによるクラスター弾の供与ですが、今後の戦局はどのような展開を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、各地で「カウンター反転攻勢」に出たロシア軍と、クラスター弾を実戦投入したウクライナ軍の激闘の模様を紹介。さらにロシア国内の最新の状況を伝えています。

クラスター弾で止められるのか。カウンター反転攻勢に出たロシア軍

ウ軍は、バフムト、ザポリージャ州、ヘルソン州で前進しているが、その速度が遅い。それとウ軍の情報統制が厳しいので、情報が入ってこないようだ。特に具体性がなくなった。

ロ軍には、ロミルブロガーがいるので、多くの情報があるが、こちらは真偽が不明である。そして、クピャンスクからクレミンナ一帯のロ軍がカウンター反転攻勢に出てきたが、それをウ軍は、クラスター弾を砲撃して必死に止めているが、ロ軍は構わずに攻撃してくるので、苦戦している。

陣地、対砲兵戦、ロ軍突撃部隊、ロ軍部隊集結地などへのクラスター弾での砲撃は、大きな効果が出ているが、損害を物ともせずに、ロ軍は攻撃してくるようである。

クピャンスク方面

ロ軍は、大量の戦力を投入して、ビルシャナの南、ヤヒドネの東側のグレーゾーンを占領して、ウ軍陣地のそばまで進出した。ウ軍は縦深陣地を構築しつつあり、最悪の場合はオスキル川の西側に撤退する方向である。

ロ軍は、シンキフカの西とシンキフカに攻撃し、ウ軍陣地を5つ占領した模様である。

ウ軍は、クラスター弾を使用して、マシュティフカ南西に攻撃するロ軍を撃退した。クラスター弾の効果で、ロ軍の大規模攻撃を撃退する手段を手に入れたようである。

スバトバ方面

ロ軍は、クレミンナからスバトバ付近に10万以上の兵を集結させている。大規模攻勢に出る可能性がある。

ロ軍はノボセリフカに攻撃したが、ウ軍が確保しているようだ。しかし、ノボセリフスクの南側のウ軍陣地を攻撃して、露軍が優勢。ノボボジャネの南にも侵攻している。

ロ軍は、カジマジニフカでセレバッツ川を渡河に成功している。

ロ軍の大攻勢が本格化してきた。どこまで、ウ軍は持ちこたえられるかでしょうね。

クレミンナ方面

ロ軍は、セレブリャンスキーの森入口付近で、大規模攻撃を仕掛けたが、ウ軍の逆襲と砲撃により、数百mを敗走して、大損害を出した。

ロ軍は、クレミンナの南で攻撃を続行しているが、撃退され続けている。しかし、油断は禁物である。

もし、ロ軍が大攻勢に出た場合は、最終防衛線はゼレベッツ川の西に置いている。そこまで撤退することを想定しているが、スバトバでは既にセレブッツ川を渡河されている。

リシチャンスク方面

ロ軍はビロホリフカに攻撃して、いつもように撃退された。もう1つが、ベルヒノカミヤンスクとビロホリフカの間で、わずかに支配地を西に増やした。

ウ軍は、ソルダーの北で南進を進めて、かつソルダーのロ軍基地にJDAMで空爆をしている。ヤコブリフカへの攻撃も継続しているが、ロ軍は予備兵力を投入して、防戦しているので、ウ軍も前進できないでいる。

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ウクライナに奪われた陣地を再占領したロシア軍

バフムト方面

市内北側では、ロ軍は、ボダニウカに攻撃したが、撃退されている。ウ軍は、ベルキウカとヤヒドネに攻撃しているし、M03号線沿いに南東に進撃している。

市内南側では、ウ軍は、クリシチウカの一帯の高台を制圧し、クリチシチウカの街の南西側を奪還した。

クデュミウカとアンドリウカまでの森でロ軍を掃討し、クリシチウカへの鉄道線路を越えて前進した。

ウ軍は、この地域でもクラスター弾を使用して、ロ軍は厳しい状況になっている。しかし、アンドリウカ付近で、ロ軍は逆襲を実施し、奪われたウ軍陣地を奪い返したようだ。

また、ウ軍砲兵隊は、パラスコビウカ付近のロ軍砲兵陣地を攻撃して破壊したし、コデマのロ軍砲兵陣地も破壊した。

ロ軍は、予備兵力を優先的にバフムトに投入して、防衛をしているが、それでもウ軍に押され美味である。

この状況で、ウ軍陸軍総司令官シルスキー将軍は、「バフムト奪還のための条件は整った。ロ軍は半ば包囲された状況にある。ウ軍はロ軍より10倍少ない損失で都市を奪還する」と述べた。

もう1つ、ワグナー軍のバフムトでの犠牲者は、78,000人が戦闘に参加して、22,000人が死亡、40,000人が負傷したという。死傷者数は62,000人であり、死傷率約80%であり、無事に生存した確率は約20%しかいないことになる。いかに壮絶であるかわかる。

ドネツク市北側

ウ軍は、クラスノホリフカとベゼルとオプトネの一部を奪還したが、ロ軍に奪い返され、特にベゼル近くはロ軍に再占領された。

ロ軍は、アウディーイウカ要塞とペルボマイスクを攻撃したが撃退されている。

ドネツク市南側

ロ軍は、マリンカとノボミハイリフカ、クラスノホリフカ南に攻撃したが、ウ軍に撃退されている。クラスノホリフカ南では、大きな損害がクラスター弾での砲撃で出した。

しかし、マリンカではロ軍が街の包囲に成功したようであるが、マリンカのウ軍は撤退しないで抵抗している。

ザポリージャ州方面

1.ベルカノボシルカ軸

中央では、ウ軍はウロジョイナとストロマイオルスクを攻撃しているが前進できていない。ロ軍はストロマイオルスクで逆襲して、街の北側からウ軍を追いやった。

西側では、ウ軍はプリュトネを攻撃しているが、ロ軍が逆襲してきたが、これをウ軍は撃退した。逆に北側のロ軍陣地をクラスター弾で叩いた。

2.オリヒウ軸

ウ軍は、ロボティネの付近で激戦になっているが、前進はできていない。逆にロミルブロガーは、ロボティネ付近での逆襲に成功したと述べている。

ウ軍は、ノボダニウカから撤退して、ロ軍が占領していることを確認した。しかし、ノボダニウカからロボティネまでの線状のいくつかのロ軍陣地を落として、前進している。

3.カムヤンスク軸

ウ軍は、ジェネビヤンキー集落に威力偵察部隊の突入を繰り返しているが、前進できていない。

E105高速道路の南東側で、ウ軍はロ軍陣地を占領して、陣地を固めて、次のE105高速道路奪還を目指すようだ。

ザポリージャ方面の戦闘を見て、ゼレンスキー大統領は、「前線の力学は変化しようとしており、反攻は勢いを増している。すでにいくつかの地雷跡を通過し、その地域の地雷除去を行っているからだ」と述べている。やっと、第1関門を抜けたようである。

ヘルソン州方面

ドニプロ川の東岸、アントノフ橋付近のダチに、ウ軍は橋頭保を確保しているが、オレシキーにウ軍は砲撃しているが、地上軍の攻撃はしていない。

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ウクライナの防空システムでは撃墜が困難な露軍のミサイル

ウ軍のチェチェン義勇兵部隊がロシア領セレダ付近で、ロ軍突撃部隊を待ち伏せ攻撃して、成功した後、すぐにウクライナ領に撤退したようである。

クリミアのスタイ・クリムの軍事施設をストーム・シャドーで破壊したが、武器庫・弾薬庫の爆発が繰り返されて、6時間ほど爆発が続いた。このため、半径5キロ範囲の住民の避難と鉄道の運行停止を決めたとロ占領軍のクリミア首長セルゲイ・アクショノフ氏はいう。

この爆発について、ブダノフ情報局長は、「占領下のクリミアで作戦が成功した。クリミアでの弾薬倉庫の爆発は、GURと部隊の共同作業の結果である。敵は被害の大きさと死傷者の数を隠している」と述べた。

クリミア半島中央部にあるオクチャーブリスク村の鉄道駅が自爆型無人機攻撃で爆発後、炎上した。

ロシア領のリャザンにあるディアギレボ空軍基地が無人機で攻撃されたようである。

マリウポリでは、パルチザンがロ軍弾薬庫を破壊した。

逆にロ軍は、連日港湾都市オデーサやミコライウに対してミサイル攻撃を行い、オデーサの穀物ターミナルを破壊し、100トンのエンドウ豆と20トンの大麦が被害にあった。

このミサイル攻撃について、ウ空軍は、ロ軍が使用している巡航ミサイル「オニクス」について、同ミサイルは高速かつ低空で飛来するため、ウクライナの保有する防空システムでは撃墜が困難だとした。今後も被害が出るという。

その攻撃で中国総領事館の建物も損傷を受けたが、中国はロシアを非難しなかった。

F-16の供与だけで戦況が変わるとは考えていない米国

カービー報道官は「年末までにF-16がウクライナに到着すると思うが、我々はF-16だけで現在の状況が変わると信じていない。現在のウクライナにとって何よりも重要なのは大砲で、だからこそ大統領は『クラスター弾薬を提供する』という難しい決断を下したのだ。」という。ということで、年末までにはF-16戦闘機がウ軍に提供されて、より多くの空爆とロ軍戦闘機を撃ち落すことになる。

ドイツは、旧式の独製主力戦車「レオパルト1」を初めてウクライナに引き渡したが、第1弾として10両が供与され、今後100両の戦車が供与される予定だ。

台湾で退役する地対空ミサイル・トマホークを米国が購入して、ウ軍に供与することになったようだ。このトマホークは、ナサムスとシステムの統合運用が可能である。

米国から190両供与されているM2ブラッドレー歩兵戦闘車が、ロ軍T72戦車を破壊したという。M2ブラッドレーは、戦車キラーとも言われているが、ウ軍もM2の運用に長けてきている。

在庫数がないATACMSの供与はないが、通常爆弾のクラスター弾も有効に使用している。

というように、徐々にウ軍攻勢に必要な兵器や弾薬が揃い、その運用にも慣れてきた。そして、ウ軍の大攻勢も2023年を越えて、2024年まで続くことになる。

そして、前回攻撃ではクリミア大橋の損傷が少ないことで、ゼレンスキー大統領は、「クリミア大橋(ケルチ橋)はウクライナにとって無力化しなければならない目標だ。私たちにとって、これは法律、国際法、現在の規範の外に構築された敵対的な物体です。したがって、これが我々の目標であり、平和ではなく戦争をもたらすいかなる目標も無効化されなければならない」とした。

2024年までには、クリミア半島への攻撃が可能になる地点まで、ウ軍は前進しているとみる。そして、徐々に停戦後の体制が議論になってきた。

この中で、レズニコフ国防相は、NATO加盟までの移行期間が始まったとして、ウクライナの加盟が簡単に実現しない場合でも、NATO加盟国が軍事基地を設置して部隊を常駐させれば、ロシアに対する抑止力になるとの計算があるとみられる。

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ポーランドの「ベラルーシ侵略」に警告を発したプーチン

プーチンは黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意の履行を停止して、SWIFTとの再接続を要求しているが、オデーサへのミサイル攻撃やウクライナに向かう船を攻撃すると脅迫している。

もう1つ、プーチンは、穀物取引の延長と引き換えに、トリアッティとオデーサ間のアンモニアパイプラインの運転再開を要求した。

これに対して、ウクライナ国防省は、「クレムリン(ロシア大統領府)は黒海を危険地域に変えた。主に危険にさらされるのはロシア船と、黒海を航行してロシアの港湾やロシアの一時占領下にあるウクライナの港湾に向かう船だ」とロ軍と同様な処置をするという。

西側諸国は、ウクライナ産穀物を鉄道輸送で他国に輸送して、そこから輸出する方策を検討している。EUの担当者は、コストの問題とポーランドなどがウクライナ穀物輸入を禁止していることなどを調整する必要があると述べている。

しかし、黒海穀物輸出合意が完全に終了すると、交渉材料がなくなるので、どうにか理由をつけて復帰したいロシアと、もうロシアに邪魔されたくないウクライナは、同合意を捨てて、より確実な代替ルートを見つけたいようである。EUもウクライナの意向を尊重する方向のようだ。

しかし、この穀物輸出合意からのロシアの離脱で、穀物相場が上昇している。アフリカ諸国での飢餓が心配な状況になっている。

そのアフリカの南ア政府がプーチン逮捕状を正式に申請したことで、プーチンはBRICS首脳会談に出席できなくなった。代理としてラブロフ外相が、出席することになった。

それと、「プーチンはウクライナとの戦争に勝つために十分なことをしていない。無能なプーチンは権力を能力のある者に委譲すべきだ」と厳しく批判していたロシアの有力ミルブロガー「イゴール・ガーキン」が逮捕された。彼は、プリゴジン免罪でも批判していた。

これにより、政権に批判的な戦争支持の主戦論者まで弾圧することになり、政権基盤が徐々に脆くなっているようである。

そのプリゴジンは、戦闘員を前に「我々はしばらくベラルーシに滞在することを決めた」と宣言し、ロシアによるウクライナ侵略の現状を「我々が参加する必要のない恥ずべきものだ」と批判した。そして、ベラルーシで会社を設立した。当分いるようである。

ムーア英MI6長官は、6月24日のプリゴジンの反乱時に、プーチンはプリゴジンとモスクワ進軍を中止する取引を行ったという。そして、中止から数日後、クレムリンに招かれ、プーチンと会談をした。プーチンはプリゴジンに反撃をしなかった。自らの身を守るためにルカシェンコに仲介を依頼したという。

ワグナー軍が滞在するベラルーシでは、ベラルーシ国防省がポーランド国境付近でのワグナーとの共同演習をすると発表した。ベラルーシとロシア領カリーニングラードの間(スバウキ回廊)を繋ぐためにポーランドに侵略する可能性があるという人がいるが、それをするとNATO対ロシア・ベラルーシの戦いになってしまう。

ワグナー軍を警戒して、ポーランドも東部の国境地域にポーランド軍を移動させて、警戒している。これに対して、プーチンはポーランドがベラルーシに侵略すると、ロシアが反撃すると警告した。非常に危ない状況にも見えるようだ。

逆に、ドイツは、ワグナー軍がポーランド侵入なら全面的に反撃を支援すると述べた。NATO対ロシアの全面戦争になる。

プリゴジンの乱の反省で、ロシアの治安組織である国家親衛隊に戦車などの重火器配備を定めた法案可決した。プリゴジンの乱の際、首都を守る軍事力が弱かった反省からの法改正であり、徹底的にクーデター抑止体制を作り、プーチン政権を守りたいようである。

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クリミアに迫るウクライナ軍に総動員体制で臨むロシア

もう1つ、ロシアで、電子召集令状を無視して、徴兵事務所に出頭しない事例が相次ぎ、来なかった場合、これまでの3,000ルーブルの罰金額を15倍の5万ルーブルに変更した。死ぬ確率が高い負け戦に行かない方が良いと兵役拒否しているようだ。

しかし、徴兵を強化する兵役義務に関する改正法案について、下限を18歳に据え置き、上限が30歳に引き上げられるようで、法改正後の対象年齢は18-30歳に広がる。兵員不足のロシアは大統領選挙後に、総動員令を出す可能性があり、それに備える必要からの法律改正のようである。2024年はウ軍がクリミアまで迫ることも考えられ、ロ軍も総動員体制で臨むしかないようである。

それと、モスクワ市内でイスラム教徒が抗議集会を開いた。最近、治安機関がイスラム教寺院の内部にまで無断で入り、礼拝中の信者の身元調査を強行する事態が頻発しているための抗議運動であり、イスラム系少数民族の反発が大きくなっているようだ。

経済面では、ロシアの経常収支が6月に赤字転落した。それと、ティンコフ銀行(ロシアのオンライン銀行)は顧客に対して、中国銀聯カードが米国の制裁によって7月21日以降ロシアとしての海外で使えなくなるため現金を引き出すよう勧告した。ロシア人は、銀聯カードも使えなくなり、国外に退避中のロシア人は、決済手段を無くすことになる。

さあ、どうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2023年7月24日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Aynur Mammadov / Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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