秘境の「無人駅」に謎の行列が土日祝日にできている……なんとも不思議な現象ですが、その理由とは? 今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』の著者、佐藤きよあきさんが紹介するのは、幻といわれる駅弁のマーケティング方法です。
秘境の無人駅に謎の行列。その先には?
鹿児島県霧島市にある、JR肥薩線「嘉例川駅」。
明治36年の鉄道開業当初から残る、国登録有形文化財に指定された駅舎には、現在無人駅ながら、土・日・祝日になると、大勢の人が押し寄せます。
歴史ある駅舎の見物に訪れる人もいますが、ほとんどの人はある目的のために、遠くからやって来るのです。
「百年の旅物語 かれい川」。
駅弁マニアなら誰もが知っており、幻の駅弁と言われています。
土・日・祝日しか売っておらず、しかも、100食程度の限定。
すべて地元産の食材で、郷土料理ばかりが詰め込まれています。
地元の棚田で栽培される米「ひのひかり」を使い、原木栽培の椎茸と筍を入れた炊き込みご飯。
さつまいもと人参、ニラ、生姜で作るかき揚げ「ガネ」。
「ガネ」とは、鹿児島弁で「カニ」のこと。揚げ上がりの形がカニに似ていることから、こう呼ばれています。
千切り大根とこんにゃくの煮物を春巻きの皮で包んだ「千切り大根の煮物」。
茄子とかぼちゃに手づくりの麦みそを塗って焼いた「みそ田楽」。
大根と人参の酢の物「スセ」。これも方言です。
椎茸と筍をまぜ込んだ「嘉例川コロッケ」。
豪華さはなく、地味な色あいですが、田舎のお母さんが心を込めて作る、味わい深い優しいお弁当です。
竹の皮で作られた弁当箱に入っており、掛紙は黒バックに駅舎のモノクロ写真。
非常に渋く、趣きがあります。
午前10時半ごろからの販売ですが、昼ごろには売り切れてしまうほどの人気です。
電車内での予約販売やイベント的な販売はありますが、かなり少量なので、この駅に来ることでしか手に入らないと言っても良いでしょう。
なので、全国からたくさんの人が、九州の端までわざわざやって来るのです。
そこに行かなければ買うことができない商品というのは、それだけで非常に高い付加価値を有しています。
買うことが目的の旅をする人も多くいます。
しかも、数が限定となると、我先にと頑張ってしまうものです。
この駅弁は、家族とパートさんだけで細々と作っているので、たくさんはできません。
付加価値を高めるために、わざと少量にしているわけでもありません。
できることを一所懸命にやっていた結果、注目度が高まり、さらに人気が出て、毎回売り切れになってしまうのです。
しかし、店主は事業を広げる気はありません。
たくさん売れるからと、ここで、従業員を増やし、事業規模を拡大したりすると、大きな危険が待っています。
「どこでも買うことができる」「いつでも買うことができる」となってしまうと、付加価値は無くなります。
また、製造量が増えると、質の低下が心配となります。
美味しさが保たれたとしても、そこに“有り難さ”はなく、「幻の駅弁」が「普通の弁当」になってしまうのです。
かつて一世を風靡した駅弁がありましたが、駅での販売ができなくなったという事情はあるものの、レストランなどで幅広く販売するようになってからは、売り上げは確保できてはいますが、注目されない存在となってしまいました。
そうならないためにも、事業拡大などせずに、希少性・付加価値を守るべきだと考えます。
それが、長く繁栄することに繋がるのです。
幻の駅弁であり続けることが大切なのです。
image by: Suchart Boonyavech / Shutterstock.com