9・19南北軍事合意の効力を停止することに決めた韓国政府。これで、北朝鮮が挑発してきたときにいつでも北朝鮮に向けて「拡声器放送」を行うことができるようになりました。無料メルマガ『キムチパワー』の著者で韓国在住歴30年を超え教育関係の仕事に従事している日本人著者が、この拡声器対応によって何が得られるのかについて語っています。
北が一番嫌がる「拡声器」対応、再開の根拠ができる
韓国政府は6月3日、9・19南北軍事合意の効力を停止することを決め、北朝鮮の今後の挑発時にいつでも対北朝鮮拡声器放送を再開できる道を開いた。現在、軍が対北朝鮮拡声器の再開など準備態勢を整えているだけに、政府が決定さえすれば、数日内でも対北朝鮮放送が可能になった。
国家安保室はこの日午前、キム・テヒョ国家安全保障会議(NSC)事務局長主宰でNSC実務調整会議を開き「9・19南北軍事合意」全体効力停止案件を4日国務会議に上程することにした。ただ対北朝鮮拡声器の再開については言及しなかった。
対北朝鮮放送は、国会の議決事案ではなく、大統領が決心すれば直ちに再開できる。しかしそのためには9・19南北軍事合意の効力停止がまず進行されなければならない。効力停止は国務会議の議決を通じて可能だ。政府が4日、国務会議案件として軍事合意効力停止を上程しただけに、今後北朝鮮が再び挑発をすればいつでも対北放送カードを取り出すという観測が出ている。
対北朝鮮放送は、北朝鮮の体制を揺さぶることができる最も強力な心理戦手段の一つに挙げられる。特に、今のように北朝鮮住民が韓国に関心を持っている時期に対北朝鮮放送は北朝鮮体制の維持に致命的になりかねない。
2日夜、北朝鮮が朝鮮中央通信を通じて発表した北朝鮮の姜日(カン・イル)国防相(次官)談話で「国境を越えてゴミなどを散布する行動を暫定的に中止する」と明らかにしたのも、北朝鮮の拡声器再開と無関係ではないという分析だ。
対北朝鮮拡声器は江原道(カンウォンド)と京畿道(キョンギド)の国境地域に固定式10個余り、移動式装備40個余りがあるという。天気と時間によって異なるが、短くは10km、長くは20~30km離れた距離でも聴取が可能だとされている。
韓国軍は、政府が決定すれば直ちに機動拡声器車両を軍事境界線(MDL)付近に配置するなど、対北朝鮮放送再開に向けたすべての準備を終えたという立場だ。
これと関連して、李ソンジュン合同参謀本部広報室長は同日、国防部定例ブリーフィングで「韓国軍は直ちに任務遂行ができるよう準備と態勢を整えている」と明らかにした。
それと共に「(対北朝鮮拡声器放送再開のために)解決しなければならない手続きについては政府機関間の議論があると聞いており、軍は任務が付与されれば施行するところ」と強調した。
対北朝鮮拡声器放送は1963年、朴正熙(パク・チョンヒ)政権時代に始まった。約40年間続いたが、2004年盧武鉉政府当時、南北軍事合意で中断された。
その後、李明博政府と朴槿恵政府の時、天安艦襲撃挑発(2010年)と地雷挑発(2015年)、北朝鮮の4回目の核実験(2016年)など、北朝鮮が強力な挑発を強行した時、一時的に再開されたことがある。
南北は2018年4月、「4・27板門店宣言」を通じて「MDL一帯の拡声器放送とビラ散布をはじめとするすべての敵対行為を中止する」と合意している。
その後、双方は関連施設をすべて撤収した。軍は2018年の撤去直前まで、最前方警戒部隊(GOP)一帯の前方地域約10か所に固定式・移動式拡声器約40台が設置・運用していた。
スピーカーで北に向けて放送するものだが、内容が金正恩体制の不正や首領様の生い立ちの秘密などにも触れるため金正恩が一番嫌がる対北工作の一つとされている。
南から北に飛ばすビラも、相当の打撃を与えていると伝えられている。北の民衆が金正恩の三代世襲によってローヤルファミリーだけが贅沢三昧をしており民衆は奴隷のようにこき使われている現実を大部分、知らずにいる中、ビラによってこういうことも赤裸々に暴露されているらしい。南からの拡声器攻勢とビラ飛ばし攻勢が金正恩の嫌がる2大攻勢と考えれている。
ちなみに「9・19南北軍事合意」というのはこれまでにもこのメルマガで何度か紹介しているが、大韓民国と北朝鮮が2018年(文在寅のとき)の第3回南北首脳会談で署名した軍事関連の合意のこと。お互い相手の嫌がることはしないといったことが明記されている。9月19日の平壌共同宣言の付属合意書だ。
しかし2023年11月23日、北朝鮮の一方的な全面廃棄宣言で合意は完全に無力化されている。すでに無力化されてはいるが、今回の内容の核心としては(南として)法的にも無力化されたという根拠を作ったということになるわけだ。
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