先日、マイクロソフトでWindowsやインターネットエクスプローラーの開発を指揮した伝説のプログラマーでメルマガ「週刊 Life is beautiful」の著者・中島聡さんと、2022年より第4代デジタル大臣をつとめる政治家でメルマガ「ごまめの歯ぎしり 応援版」の著者・河野太郎さんによる対談が実現しました。中島さんが、
※本記事は、実際の対談から一部抜粋して編集したものです。対談の全編は、7月中に中島・河野お二方のメルマガをご登録いただくと初月無料でお読みいただけます。
実は2年前に、ツイッターをブロックされていました(笑)
中島:はじめまして、お会いできて光栄です。お話できるのを楽しみにしておりました。今日はどうぞよろしくお願いいたします。
河野:こちらこそよろしくお願いいたします。
中島:実は今日、お会いしたらお願いしようとしていたことがあったんです。それがもう叶ってしまったのです。河野さんは覚えてないかもしれないですけど、2年前ぐらいにツイッターで、僕のことをブロックしたじゃないですか。それが今日解除されて、フォローされていて(笑)。僕は個人攻撃はしないけど、割と建設的な批判はするタイプなので、何かカチンときちゃったのかもしれません(笑)。
河野:それはどうもすみませんでした(笑)。
中島:僕もけっこう昔からブログを書いていますけど、河野さんはブログの先駆者ですよね。

河野太郎氏
河野 太郎(こうの・たろう)
自由民主党所属の衆議院議員。1963年1月10日生まれ、神奈川県平塚市出身。父は元副総理・外務大臣の河野洋平。アメリカのジョージタウン大学卒業。 1996年に衆議院議員に初当選以降、9回連続当選。防衛大臣、外務大臣、行政改革担当大臣などを歴任し、現在はデジタル大臣として、行政のデジタル化を推進中。 SNSをもっとも積極的に活用する政治家の一人。
河野:僕が初めて当選したのが1996年で、近所のおばちゃんに「国会議員は朝何時に出社するの?」って聞かれたんです。実は自民党の議員は、朝8時に集まって政策の議論をやっている。それをお知らせしようと国会報告に書いて、駅で配ったり、郵送したりしたんですけど、誰かが「メルマガというものがあって、ただで送れるよ」と教えてくれて。確か1998年から、メルマガとブログを始めたんじゃなかったかな。
中島:負けたなー。僕が本格的にブログを書いたのは2004年ぐらい。それでも早いと言われてたんですよ。何回か前のデジタル大臣が、パソコンを使っていなかったとか、大騒ぎになったことがありましたよね。
ずっと、河野さんは普通の政治家の方とは違うなと思ってたんですよ。大臣はその分野の専門でもない人がなることが多いじゃないですか。官僚の人たちがいろんなことを決めて、「こうしゃべってください」と言われ話しているだけ。僕らから見ると、何となく操り人形的に見えちゃうんですよね。それに対して河野さんは、ちょっと違うと思うんです。少なくとも言いたいことを言ってるみたいだし。

中島聡氏
中島 聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
河野:言いたいことを言って、後ろがヒヤヒヤしているというのはありますけど。
中島:外務大臣もやったし、行革もやったし、ワクチン担当も?
河野:はい、ワクチンも。火事があると消防士のように派遣されますね(笑)。
中島:常に悪者にされそうなところに、送られてないですか?
河野:ワクチンのときは「ワクチンが足りない」とか「ワクチンが来ないじゃないか」と叱られていたのが、今度は「マイナンバーカードで受付をやってください」とお願いする。ワクチンとは逆の立場で、嫌われ役になっています。もう仕方がない。
中島:でも1つ1つに、すごく真剣に取り組んでいるので、いいなと思っていました。
河野:面倒くさいことが嫌なので、つい言っちゃうんですよね。ワクチンのときも、いろいろと細かいルールがあって。ファイザーに「こんなに面倒くさいことを言われたらできない」と言ったら、「うちは温度管理以外のことは、言っていない」と。それで余計なルールは無視して、ワクチンの温度管理と、打った人の記録だけつけてくれたら、あとは各所に任せると言ったら、グワーっと(摂種率の)数字が上がったということがありました。
日本のDXは痛みを伴わない「やさしいDX」
河野:アメリカと日本を行ったり来たりしていて、最近のデジタルの差というのは感じますか?
中島:感じますね。例えば日本ではDXって未だによく言うけど、実はアメリカではあんまり聞かない。日本では、DX特需みたいなものが起こっていますよね。伝統的な企業がデジタル化しないと遅れてしまうからと、いわゆるITゼネコンを雇って、デジタル化してもらうみたいな。DXによるデジタル特需が起こっているんだけど。アメリカで起こっているのはそれじゃない気がしています。
例えば本屋さんがデジタル化したんじゃなくて、アマゾンが来ちゃった。放送局がデジタル化したんじゃなくて、ネットフリックスが来ちゃった。タクシー会社にはUberがっていうように、外から来る。新しい人たちは失うものがないじゃないですか。デジタル技術を使ってそもそものビジネスモデルから変えて、業界をひっくり返すっていう形のDXがアメリカでは起こっているので。既存企業が「DXしなきゃ」って騒いでないんですよ。どっちかっていうとそういう企業から、どんどん優秀な人が抜けてしまっている。
河野:じゃあ。既存の企業は?
中島:どんどん駄目になる。それがアメリカなりの健全な新陳代謝ですから。日本もそうしろとは思わないけど、日本でDXと呼ばれるものが遅い一番の理由は、それじゃないかなと僕は思っているんです。新しいものが入りにくい。それは規制の問題なのか、リスクマネーが少ないのか、もしくは優秀な人が大企業に閉じ込められているとか。そういうものの組み合わせだと思うんですけど。なんか上手く起きていない。
河野:よく言われるのが、日本の企業では社長さんが「うちもDX投資をやるぞ」と言い出して、社内でどうしていいかわからないから、IT企業に頼む。でも相手はその会社のビジネスをわかっているわけではないので、「今あるコストカットの投資をやりましょう」とか、お仕着せのIT投資になる。そうすると結局コストセンターになるので、業績が良いときは投資をするけども、ちょっと悪くなると投資が止まる。
一方で海外、特にアメリカなんかは、ビジネスモデルを変える投資をやるから、コストセンターではなく、プロフィットセンターになっている。だからガンガン投資が進んで、10年20年で大きな差になったんだっていう。今、中島さんがおっしゃったのは、それのもっと過激な形なのかなと。
日本ではタクシーが少ないからライドシェアをやろうよと言ったときに、まずタクシー会社にライドシェアをやらせようっていうところが最初のスタートになる。優しいDXなんですよね。
中島:痛みを伴わないように。でも、それはどうしてかな?と思うんですよね。悪い言い方をすると既得権益なんだけど、それだけの話ではなくて。やっぱりなくなりつつあるとはいえ、日本にはまだ終身雇用の文化があって、なかなか人をカットできない、正社員を切れないっていう中で、既存の企業が突然潰れてしまうと社会全体として困る。だから優しいんじゃないかなと思います。でも痛みを伴わないDXってスピードはどうなのかなと思いますよね。
河野:もう一つあるのは、例えばライドシェアの議論をどことするかというと、規制改革担当大臣と国交大臣なんですよね。業界とかじゃなくて。まずどういうルールでやるかを決めて、タクシー会社がライドシェアをやることになった。
あるいはドローンの配送でも、国交省がまず、ドローン配送はこうあるべしみたいなルールを決める。例えばドローンは一直線に飛ぶと下に民家があって危ないから、道路の上を飛べと。そこまではいいけれど、信号が赤だったら止まれとか、「いやそれは意味ないだろ」って(笑)。あるいは一番危ないのは荷物を下ろすところだから、そこに人を派遣して監視させろとか。「だったらその人が荷物運んだら終わりじゃん」ってなる(笑)。
とにかく何か新しいことをやろうとすると、規制があるんですよ。その規制を取っ外すところが大変なので。例えば荷物を運ぶ専用のドローンを開発して、さあビジネスをやろうと思っても、ありとあらゆるところに規制の目が張り巡らされている。それを取っ外すっていうのが、今の僕の規制改革担当大臣としての仕事なんです。
中島:でもウーバーとか(海外勢は)やっちゃうじゃないですか。エアビーアンドビーもそうですよね。
河野:そうそう。ウーバーもドライバーの健康管理、安全管理をどうするんだっていう話しが後から来るんですよ。だけど日本では、まず宿泊業の何とかに合ってないよねとか、宿帳はどこで書かせるんだっていう規制に引っかかる。この規制をどう外すかっていうところから新しい産業が出てくるんです。だから今言われてそうだなと思ったのは、何もルールがないところにガンガンきて後から規制するのか、規制を取っ外してここまでやっていいよっていうことにするのか。
例えばライドシェアは、ドライバーがみんな自家用車で来てくれるから、タクシー会社も固定費がかからないで売り上げは上がるよねとか。民泊も新しく投資せずに、あるところを使ってやればいいから、ホテルがそのビジネスに出ていったらいいよって。日本ではそういう形で最初の規制緩和が始まるんですよ。だから痛みの伴わないDX、痛みの伴わない新規産業なんですよね。
マイナンバーカードでは「悪魔の手先」と言われた
河野:規制といえば、ヨーロッパではAIにはプライバシーや人権の問題があるから、まず規制する方向に動いた。日本はまずAIの技術を発展させて、必要だったらAIを入れるという方向でした。日、米、英、カナダぐらいは(技術開発と規制の)順番が逆だろうって言ってたら、EUがAI法を作る最後のところで、フランス、ドイツ、イタリアが手のひらを返した。日本はアメリカと一緒になってまず技術開発だろうという感じだったので、これは大事にしないといけない。
中島:AIは日本と相性いい気がしますよね、日本は。とにかく人手不足が目に見えてるし、特に介護産業なんか、どう見ても人が足りないですよね。
河野:足りないです。もう本当に何十万人と足りなくなる。
中島: そうするとそこにAIなのかロボットなのか。別に政府が補助金を出すというわけじゃなくても、何か民間の投資を積極的にできる、されるような仕組みがあるといいですよね。介護とか人が足りない部分をAIロボットで解決する。日本はとにかく老人先進国じゃないですか。そこで技術を磨いて外へ出る。やっぱりニーズがあるところで技術は進歩するので。すごく相性がいいと思うんです。
河野:介護は人が足りないというのは、もうみんなわかっている。もうAIロボット入れるしかないというのも、何となくわかっている。でも進まないんですよ。
これは今回の規制改革の大きなテーマだったんですけど、ガンガンやってるところはあるんだけど、ものすごく少数なんですよ。圧倒的多数が進まない。これをどうやって進めるか、もうひと押ししないといけない。そこがすごく不思議な部分なんですよね。
医療の分野も、もう今までの紙の保険証だと写真もないし、偽造、なりすましがされ放題だから、マイナンバーカードで受付をやろうよと言って、もう全部の医療機関に国費を使ってカードリーダーを入れているのに、いまだに保険証っていう病院がいっぱいある。利用率が増えなくて、どうやったらいいのかとなる。だから、新しいものを入れなきゃいけないのはわかっていても、なかなかそれが入らない。この壁をどう突破するかという課題がいろんなところにあるんですよね。
中島:そこは河野さんが悪者になって(笑)。飴と鞭で。
河野:だから「行け」って言うと、いやいや鞭の前にまず飴をという。やっぱり痛みをまず緩和しようという、そっちになるんですよね。
マイナンバーカードで保険証を廃止しますと言うと、もうなんか悪魔の手先みたいに一部の人からは言われて。いやいや別に保険証を廃止しても問題ないんですよと。誰も困らないんですよと言っているのに、「今のやり方で行け」っていう。今のやり方で行ったら、なりすましし放題、偽造され放題、古い保険証を出されてもわからないから、資格確認で戻されちゃうことが年間500万件もあるんですよって言っているのに、「今のやり方を変えるのはけしからん」って言われる。
中島:マイナンバーは、なんかもう最初にしくじりましたよ。アメリカではソーシャルセキュリティナンバーは、大昔からやっていて、最初から全然隠してないじゃないですか。要はお金の流れも全部把握しますよということが前提。だから銀行口座に紐付くのは当たり前。だって銀行口座をオープンするときに、ソーシャルセキュリティナンバーを持っていないとできないですから。マイナンバーは何でそれをもっと早くやらなかったんだろうなと思います。今でもまだオプションですよね?
河野:まだ。優しいDXです。
中島:優しすぎるんですよ。どうしてなんだろう?だってなんだかんだいって、本来、脱税はすべきものじゃないんだから、仕方がないじゃないですか。銀行の利息で儲かったとかを、政府で把握されるのは。もう国民としての義務なんだから。それにノーっていうのはおかしいじゃないですか。
河野:例えば今、相続のときにどこに口座があったかわからないことが、世の中でたくさん起きているんです。銀行にマイナンバーを紐付けていたら、亡くなった方のマイナンバーで検索して、全部口座がわかりますというのは、メリットのはずなんですよ。そういう話をしても、「いやいや、政府に銀行口座の中身を見られちゃうじゃないか」と。「今でも国税庁とか警察は、手続きを踏んだら見られるから同じです」って言っても、だめです。
ちょっと前に僕、国会の答弁をやったから覚えているんですけど、ひどかったのは、今日本では牛に10桁の番号をつけているんです。「牛に10桁で、人間は12桁」とか言われて……。僕はせっかくのマイナンバーという制度を入れたんだから、これをなるべく使って、世の中を便利にしたいし、人口が減ってるときに市役所の職員の数を増やせないから、これで市役所も効率化して、職員の人に介護へ行ってもらうとか、教育委員会に行ってもらうとか、企画立案に移ってもらうとかしないと、市役所が回らなくなると思うんです。
中島:だからもう、例えば「税金の還付は、マイナンバーで銀行口座に入れますよ」というのをやっちゃえばいいじゃんって思います。マイナンバーが紐付いていない人はもらえませんよと。
河野:マイナンバーはもう、日本人全員に紐付いているんですけどね。極端なこと言えば、もう銀行口座にマイナンバーが紐付いてなければ、引き出せませんとかって言えば、つくんですよね。今、証券口座は全部ついているわけですよ。だけど銀行口座はまだなんですね。こっちは選択制ですって話になっているので。
中島:なんでそんなに優しいんですか?河野さんぐらいしか、そういうことはできないですよ。たぶん次の人になっちゃったらまた……。
河野:「悪いことは、お前が大臣のうちにみんなやっとけ」みたいな(笑)。インドとかUAEとかサウジアラビアって、もうほぼIDカードは強制なんですよね。インドはもう、顔認証から虹彩から指紋から国が全部取って、それでシステムを作って、いろんなことをやって、かなり便利になっている。行政のDXが進んでいるんです。一方で日本は、マイナンバーはつけました。でもマイナンバーカードは選択制ですっていう、選択制の部分が残っちゃう。
マイナンバーカードと健康保険の紐付けの誤りが8000件ありましたと、連日言われたんですけど、海外に行ってその話しが出ると、「紐付け誤りが8000件起きたって、母数いくつ?1億2000万?すげえな、さすが日本だね」って、逆に評価されるんですよ。「0.007%じゃん、それ」みたいな。「あなたが日本に来て、それを言ってよ」って言うんですけど。日本だと母数は関係なく、「8000件?けしからん!」となる。それで強硬に進めようとしているみたいに怒られちゃうんです。やっぱりトヨタ自動車の品質にみんな慣れていて、間違いは起きませんっていうのがデフォルトで、一つ間違いがあると、「間違いが起きてけしからん」みたいになっているのかなと。
紙でも問題は起きていて、紙だとファイルされて、もう棚に置かれちゃうから間違いに気づかない。デジタルだとスマホで見て「俺のこれ違うぞ」っていうので、すぐ直せますと。だから間違いはわかる度に直しています。紙の書類は間違っているかどうか、ずっとわかりませんよって、言っているんだけど、やっぱり少しでも間違えちゃだめなんですよね。
中島:自動運転車が事故を起こすと毎回大騒ぎになるじゃないですか。それより遥かに多い数のヒューマンエラーが起こっているのに。仕方がないです。それはテクノロジーの宿命ですよ。
正社員と派遣の垣根をなくすためにできること
河野:聞いた話ですけど、日本のプロ野球選手の年俸がぐんと上がったときが2回あって、1回目はフリーエージェント。FAを導入したら、バンと年俸が上がりました。2回目は野茂選手が大リーグで成功して、大リーグに行くようになったところで、また年俸が上がった。だから「流動性が高まれば高まるほど、実は給料上がるんです」。本当はそこをやった方がいい。
中島:今、派遣社員を守ろうみたいなことをしていますけど、そうじゃなくて、派遣社員と正社員の垣根をなくせばいいんですよね。
河野:そうなんですよ。正社員の周りの壁がやたら高くて、中はぬくぬくしているんだけど、そこから一歩外へ出るともう冷たい風がビュンビュン吹いている。この壁を取っ外して落差を縮めなきゃいけない。
中島:それでも組織票を持っているじゃないですか。政治的にどうほぐしたらいいんでしょうね?
河野:ただ、今組合の加盟率、組織率はものすごく小さくなっていますから。組合に属してない人の方が圧倒的に多いんですよね。だからこの壁を崩しましょうという方が、たぶん政治的には大きな力になると思うんです。それこそ昔は、みんなが大企業で終身雇用という神話があって、組合の票というのがガンとあって。この壁を崩させないという状況だったのが、今はそこがどんどん小さくなっていますから。もう流動性を高めた方がいいよねっていうのは、おそらく多くの人がそう思っているはずなんですよね。
中島:そこでまた、痛みの伴うやつを一発。次は厚生労働大臣になっていただいて(笑)。
河野:解雇したときにちゃんとトレーニングをして、次へ移れますよという、ここをしっかり作るのが大事なんですね。仕事を辞めてもどこかでちゃんと受け止めて、リスキリングをやって、また新しいところへ行けるっていう。ここさえきっちり作っておけば。もう人手がとにかく足りないわけですから。より給料の高いところへ移れるようにしてあげるというのが大事です。
それと厚生労働省って、医療介護と労働を一緒にしちゃったもんだから、厚生労働大臣は外務大臣の比じゃないんですよ。もうとにかくずっと国会に呼ばれる。僕がなんでワクチン担当になったかっていうと、あのときの厚労大臣、僕と同期の田村さんが、朝の3時からその日の委員会の答弁の打ち合わせが始まる。そのために夜9時に寝るっていうのを、菅総理が見ていて、「これでワクチンまでやらせたら、あいつ死んじゃうからお前やれ」って言われたんです。
当時ヨーロッパと交渉していたので、時差で交渉が夜9時を過ぎちゃうわけです。その時間、厚労大臣は寝ているから電話はできない。次の日の朝の閣議の前に捕まえて、「厚労省にこれを決めてもらわないと動けないから頼むね」っていうのをやるみたいな。だからもうちょっとそこは、医療介護と労働を分けないといけない。
中島:そうですよね。だって医療介護だって、ものすごい大変なことがいっぱいあるわけで。
河野:そうなんですよ。そこに労働があって年金もありますから。これはやっぱり分割して、それぞれ担当大臣をおかないと、もうちょっと無理かなって気はしています。
河野太郎が 目指す日本の姿とは?
中島:前回、総裁選に立候補されたじゃないですか。僕は結構期待していて。どういう日本にしたいのか、語っていただけますか?
河野:いろんな人材が来てくれないと日本は回らないと思うので、一つはオープンにしようということですね。さっき言ったように、雇用の流動性を高めていろんなところへ移れるし、海外からも日本で働くのは面白そうだと思って、いろんな人が来てくれるようにしていかないと、今までみたいに閉鎖的にやっていたらうまくいかない。世界へ打って出るために、まずは良い人材に日本に来てもらうっていう、回転を逆にするというのが、最初は必要なのかなと思っています。
日本の平均年齢は今49歳。インドが27~8歳かな。高齢化していますから、それこそAI、デジタル、ロボット、何でも使って、どうやってみんなが快適に暮らせるか。そういう社会を作って、そのモデルを海外へ売っていけばいいわけですから。そのためには新しいことにどんどんチャレンジしないとだめなので。それをドローンはこうしろとか、自動運転はこうしろって規制していると、新しいことができずに物事がどんどん遅れるだけ。とにかく新しい事は日本で試してくださいっていうのが、できるようにしたいと思っています。
中島:そうですね。例えばNTTドコモのiモードが出た瞬間って、日本は本当にすごかったじゃないですか。あの後iPhoneが来ちゃったけど、あの瞬間は本当に輝いていましたよね。
河野:今からしてみれば、ガラケーであそこまでやれたわけですから、すごかったですよね。
中島:僕、たまたまそのときに、ちょうど自分でベンチャー企業を始めたばっかりだったので、カンファレンスで何をしゃべったら受けるか考えて。「NTTドコモのiモードがどうして成功しているか説明しますよ」って言ったら、名も知らないベンチャー企業なのに、スピーカーとして選ばれて、2000人の部屋を割り当てられて。そこで自分の会社と関係ないけどiモードについて話したんですよ。
確か2000年か2001年でしたけど、ものすごく注目されていました。インターネットに繋がる携帯電話を世界で初めて普及させた国で、すでに銀行振り込みなども始まってましたからね。日本の消費者って、割と新しいものを受け入れる。だから何かできるような気がするんですよ。高齢者が困っている自動運転だったり、配送の問題もあるし。あと介護もできることはいっぱいある。
河野:できることはあるし、この間オランダのデジタル大臣と話していたら、オランダでもそろそろ高齢化が始まるから、日本を見習わなきゃいけないと言ってくれた。それはぜひ日本に見に来て欲しいけど、今来てもらっても何を見せるのか。
中島:見せられるものがほしいですよね。これぞっていう。
河野:こういうことを導入したら高齢化社会はもっとこうなるよっていうね。だから今の日本こそ、自動運転の車がガンガン走っていて、介護のロボットやらセンサーがあって、人間が何かする前にセンサーが感知して、ロボットが対応できることはやってくれるみたいな。そういう世の中に本当はなっていなきゃいけない。鉄腕アトムから始まった国としては、そうなっているはずだろうって、僕なんか思うんですけど。
中島:僕は東京オリンピックがそのチャンスだと思っていたんですけどね。あんまり動かなかったですね。
河野:今度の大阪万博でどこまでいけるのかっていうところですね。
中島:僕は東京オリンピックの4年ぐらい前に、「ナカジマノミクス」っていうのを出して騒いで、誰も聞いてくれなかったんですけど。もうオリンピックの年から第2東名は自動運転の車しか走れませんとか、そういう法律を作ってしまう。それぐらい思い切ってやらないとって。
河野:第2東名が自動運転だけならそこでデータも取れますね。本当はそういう「もう、これはデジタルだけ」というのをガンガンやりたいんだけど、そうすると必ず反発する人がいるんです。
中島:痛みを伴うことは、普通の人にはできないですからね。
河野:最初は痛いけど、でもみんなが第2東名で自動運転をやったら、東名が空くわけだから、自分で運転する人も恩恵を受けられる。みんながスマホで行政手続きやってくれたら、そもそも市役所に行く人が減るから、市役所の待ち時間もなくなるし、職員も楽になるのに、「なぜアナログで手続きをさせないのか」みたいな話にすぐになっちゃう。だからアナログも残さないといけないってことに、今はなっているんですよね。
痛みを伴うDX、ガンガンやっちゃってください
河野:痛みが出ないようにしようとすると、今度はコスト高になるっていうところがあって……。本当は「マイナンバーカードを一発でやりますよ」って言いたいけど、カードを持たない人のために資格確認書を出さないといけなくて、受付業務も2通りになっている。でも今はとりあえずそれでやっています。中島さんには、もっとガンガンやれと言われるだろうけど。
中島:それは普通の政治家の人にはできないような気がして。せっかくある意味、強面でガンガン進められる強さがあるのだから、多少嫌われてもいいので、河野さんには痛みを伴う改革をしていただきたいなと。
河野:これからの日本の国を考えると、やっぱり思い切るところは思い切ってやらないといけない部分も出てくるので。どれぐらい痛みに耐えられるかっていう問題はあるかもしれません。例えば障害を持っている方みたいに、「そうは言っても」っていう方もいらっしゃるので、そこをどうするのかっていうのは考えなきゃいけないと。でもここは、みなさん一歩踏み込んでくださいっていうのは、あると思うんですよね。
例えばスマホを使えない人はどうするんだという話しがあるけれど。不思議なもので、おじいちゃんおばあちゃんが息子や娘に聞くと喧嘩になっちゃうけど、孫に使い方を教えてもらうと、なんか楽しいっていうのもあるので。デジタル化を進めるためには、そういう何かアナログ的な部分を、中学生が高齢者にスマホの使い方を教えるみたいなことを地域でやれると、たぶんみんなスマホを使うようになってくれるんじゃないかと思うので。
中島:スマホが使いにくいのは、作っている僕らが悪い。もっと使いやすくしなきゃいけないです。AIが出てきて自然言語で使えるようになりつつあるので。あとはやるかどうかの問題。高齢者向けに、しゃべれば使えるスマホっていうのを、作るべきタイミングじゃないですかね。
河野:そこを日本企業が一気にいって、日本製の言葉で使えるスマホですって、もう1回、世界を席巻するみたいなことができたらいいですよね。
中島:本日は色々とお話を伺うことができてとても楽しかったです。ありがとうございました。
河野:こちらこそありがとうございました。またお話できることを楽しみにしています。
※本記事は、実際の対談から一部抜粋して編集したものです。対談の全編は、7月中に中島・河野お二方のメルマガをご登録いただくと初月無料でお読みいただけます。この機会にぜひご登録をご検討ください。
取材・文/太田百合子
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